第52話 真剣に考えてみよう
改めて、真剣に、ナイジェル様について考えてみよう。
わたしと同じ、元日本人。
まあ、鳥居クミと武藤省吾君が関わりがあったとはいえ……一瞬のようなものだし、今のナイジェル様に五歳の省吾君の外見イメージなどは全くない。
艶やかな黒髪を後ろで一つにまとめた髪にした好青年は、そうね、あの五歳の男の子が成長してこうなった……と思えないこともないこともないけど……、黒髪だし。
でも日本人的な顔ではない。ブラウンシュヴァイク=リューネブルク王国風……つまりヨーロッパ的西洋人な顔立ち。
とりあえず、客観的に見て美形よね、ナイジェル様。
平民だとしても、魔法使いだし。ギュンターお兄様とも仲良しだし。
ナイジェル様は身分差を気にしていたのかもしれないけど、それさっき、別に身分差なんてどうでもいいじゃない的なことをわたしが言ったし。
あれ? わたしが身分なんて関係ないし、必要なら魔法伯とかにします? なんて言い出したから、ナイジェル様、今の、このタイミングで求婚してくれたのかな?
はわー……。
どうしよう。
いや、好きか嫌いかだったら好きだけど。
えーと、あれ?
求婚を断る理由が見当たらないぞ?
「あ……あれれ?」
別に断りたいんじゃないんだけど。
あ、あれ?
求婚、受けてもいいの?
「どうしましたお嬢様?」
「いや……、エリンに怒られて、真剣に求婚を考えてみたけど」
「はい」
「……ナイジェル様の求婚を断る理由がない」
「良いのでは?」
「いや……でも……、わたしでいいのかなあ……」
こんなお茶漬け魔人で。
ぽりぽりと、人差し指で頬を掻く。
そうしたら、わたしの手を取って、ナイジェル様が「あなたがいいんです」と言って下さって……。群青色の瞳の中にわたしが映る……。
うわ、うわ、うわわわわ……。顔が近い!
「過去も今もひっくるめて。悔恨も希望もその他の感情もこの胸の中にありますが。全部まとめて、トリクシー嬢と共に、お茶漬け街道を驀進していきたい」
「ナイジェル様……」
好きとか嫌いとか恋とか愛とか。
そんなもの、まだ分からない。
だけど。
わたしと同じ熱量で、わたしと一緒にお茶漬け人生を突き進んでくれる人なんて、きっとナイジェル様しかいない。
だけど。
「ほ……保留でもいいですか⁉」
「はい?」
「いや、真面目に考えて! わたしの人生に、ナイジェル様以上の人は現れないと思うんですよ!」
エリンが「うんうん」と頷いている。
「好きか嫌いかだったら好きですし! というか嫌う要素がないですよね! 外見性格能力エトセトラだけでなく、食の好みの一致って、結婚するなら重要!」
大事だと思うのよ!
たとえば、すんごく好きな人がいたとして。
その人が毎日カレーを食べたい人だったら、絶対に一生一緒には暮らせない。
カレーは好きだけど。毎日食べるのならわたしは絶対にお茶漬け派なのだ!
「だけどですね! わたしの恋愛レベルはきっと五歳児より低いです!」
「は?」
「お嬢様……」
ナイジェル様がぽかんと口を開け、エリンが呆れ顔。
「あのですね。たとえば幼稚園生でも女の子は女の子で! 同じクラスの誰だれ君はあたしのカレシ♡みたいに言う子は言うんですけど!」
「ああ……」
武藤省吾君五歳のころでも思い出したのか、ナイジェル様はなんか納得顔。
「愛とか恋とかに関しては、多分、わたし、幼稚園生よりレベルが低いんです……」
鳥居クミはおひとり様だった。
トリクシーは阿呆王子と婚約を結ばされていた。阿呆王子に対して愛など欠片もない。かといって他の殿方との不貞もね……、無理。
つまり、初恋もまだ。
仮にこの世界が乙女ゲームの世界で、わたしが推定悪役令嬢だったとしても!
恋愛のれの字もわたしにはないっ!
お茶漬けというか、食欲魔人一直線の人生なんだもん!
「そんな恋愛不能者に求婚なんて、ホントーに良いんですか⁉ ナイジェル様、あとでこんな女を選ぶんじゃなかったって後悔しませんか⁉ わたし、食欲を取ったらあとには何にも残りませんよ⁉」
だって! ナイジェル様だったら少女漫画のヒーロー枠だって入れそうなのに!
もったいないじゃない!
こんなお茶漬け魔人に関わって、ヒーロー枠を捨てて、食欲枠だなんて!
わたしにとっては多分、ナイジェル様は条件的にすんごく良い!
でも、ナイジェル様にとってわたしは……事故物件とまでは言いませんが、ちょっと落ち着いて考え直したほうが良いんじゃないですかーって……。
なのに、ナイジェル様は優しいお顔で微笑むのよ。
「トリクシー嬢と一緒だと、美味しい人生、楽しい人生、満足のいく人生のフルコンボになると思っています。ですから、一緒にペガサスに乗って、どこまでも、世界中巡り、お茶漬けの食材を求め、そして、愛も育めれば……と」
今すぐじゃなくていい。
今は食材を求めるためでいい。
でも、月日を重ねて、そして愛や恋という感情が育てばいい……ということですか?
こ、ここまで言われてノーと言える日本人ではないです、わたし。
「は、はい……。ナイジェル様がよろしければ……」
頬を染めながら、わたしは頷いたのだった……。




