第47話 アンズー酢、上がりました!
「さて、皆様。ここまでは梅……アンズーをきれいにしただけです。これから漬けこみ作業に入ります」
どでん! と用意したのは、アンズー酒を作るための樽。
「アンズー同様、樽もがっつりお酒で殺菌です!」
昨日のうちに、きれいな水で洗って干しておいた樽。そこにアルコール度数の高いお酒を入れて、樽を殺菌。カビ対策さえきっちりしていれば、梅干し作りはそんなに難しくはないの。
「では、アンズーを入れていきます。アンズー・塩・砂糖・アンズー・塩・砂糖……という感じに、樽の六割程度のところまで重ねて行って、最期にまた塩で蓋をします。その上から重しですね」
六割というのは、塩漬けにしたアンズーからどれだけ梅酢……アンズー酢が上がってくるか分からないし、重しをする分もある。
青梅をつけるとうまく梅酢が上がってこない時もあるのよね。その場合はスーパーでわざわざ梅酢を買ってこないといけないんだけど……。この世界、スーパーはないし、梅酢を買うなんてこともできない。
だからこそ、きっちり作るんだけど……。
青梅じゃなくて。南高梅で梅干しを作ると、梅酢がめっちゃ上がって、寧ろ上がりすぎて、樽の外まであふれ出る場合もある。
さすが南高梅様……。
で、アンズーはどうかなー?
梅酢ならぬアンズー酢が上がってきてくれることを願うんだけど……。
上がりすぎも困るんだよねぇ……。
いや、大量に出ればカビないからいいかなって思うんだけど……。問題は重しなのよね……。
漬けた梅の上に、落し蓋をしてその上に重しを乗せる。
これ、お店とかで売っている梅干し用のモノを使うなら問題ない。梅の酸でどうにかならないようなものを売っている。
だけど転生前、ある年、日本でのおかーさんが梅干しを漬けて、重しが足らないってことで、ビニール袋の中に百均で買った平皿を入れてそれを重しにしたのよね。
ビニール袋に入れているし大丈夫と思ったんだけど、梅酢が上がりすぎて、ビニール袋の中の平皿まで梅酢が浸透しちゃったのね。
ビニール袋の口を閉じるのが甘かったか、ジップロックのほうが良かったのか。
とにかく、知らないうちに、ビニール袋の中にまで、梅酢が入り込んで……。
で……お皿が、酢で砕けたのよ……。
ざりざりざりって感じに……。
お皿の端っこは砂みたいになっていた。
お、おそるべし、酸。
今回は木製の落し蓋を使って、その上にガッツリ洗った岩を置いてみた。
……溶けないよね? 砕けないよね? 岩なら大丈夫だよね?
心配しつつ、一応三日待って……、蓋を開けてみた。
「よっし!」
ちゃんと梅酢が上がっている! あ、アンズー酢だけど。
アンズーが全部浸っているわ!
岩も無事!
「よーしよし! 重しの岩も取って、塩もみしたボーラス・リーベルを入れて、約一か月放置よ!」
ふふふふふ……ここまでは順調よ。
後はアンズーのオレンジ色に、ボーラス・リーベルの色が着色して、それで梅干しっぽくなることを祈るだけ!
さあ、一か月後にまたお会いいたしましょう!
……で、その一か月、どう過ごそうかなあ……。
案その一は、ラインシュ領に帰って、一か月後にまたカイエン男爵領に戻ってくる。
案その二は、カイエン男爵領でお世話になり続ける。
案その三は、せっかくなので、さらに東の方へと足を延ばす。
うーん……。
わたしとしては、第三案かなあ……と思っていたんだけど……。
お茶漬け街道爆走中のわたしでも、さすがに一応ね、ちょっとね、気にはなっていたんだけど……。
ここは、カイエン男爵領。そして、この梅林にはナイジェル様のお父様、お母様、ご親戚の方がいらっしゃる。
……だというのに、ナイジェル様ってば、どう見ても実家の田舎に帰ってきた……って感じがしないのよね……。
ある意味仕事で故郷に来たんだから、それなりの仕事感はあるにしても……。
お父様とお母様とじっくりお過ごしになる……ことがない。
梅干し……アンズー干し作りの時だって、フツーに話すんだけど……、事務作業的な感じが……するんだわ……。
だってねえ、ここに帰ってきた時だって。
「……おかえりなさい、ナイジェル。元気だった?」
「……ただいま戻りました。お父さんもお母さんもお変わりないですか?」
「ええ……、元気よ……」
しーん……。以上にて会話終了。
とはいえ、嫌ってるとかそういう感じじゃなくて、どこか他人行儀……。
アンズー干し作りの時も、一緒に作業をしていて、作業の時は「それをこちらへ」とか「ありがとうございます」とか「助かります」とか会話はするのよ、会話は。
その会話が……続かない。
わたしもね、「父と母です」って紹介してもらったのだけど……。
……最初はわたしの身分がまだ侯爵令嬢だから、恐縮しているのかなあって思ったけど……ううむ。
お互いに距離感を探りあっている……のかしらね?
なんなのだろう?
わたし、ツッコミ入れていいのかな?




