第46話 カイエン男爵領で梅干し作り!
などと暗躍(?)しているうちに、梅……アンズーも頃良しとなりました。
カイエン男爵のほうはギュンターお兄様にお任せして、わたしとナイジェル様、エリンはナイジェル様のご実家へと向かいます。
そして……。
「ふわあああああ……、アンズーの香りが……、色が……」
完熟☆
素晴らしいこの香、そしてオレンジの色……。
「これぞまさに南高梅……、高級梅が出来そう……。ふっふっふ……」
最初はアンズーをラインシュ領まで持って行って、そこでわたしが小規模の梅干しを作ろうと思ったのですけどね……。自分たちが食べるためだけに作る。
でも……、せっかくカイエン男爵領を傘下に収め、流通経路もできそうなんだから、カイエン男爵領の新たなる特産品にしてもらえればいいんじゃないかなーって思いなおしたのよ。
カイエン男爵領、スーパー化計画! とまでは行かないけど、せっかくいろいろ豊かな土地。作ってもらって、流通して、それを買えばいい。わたしがすべて自分でやらなくても大丈夫だし、その方が地域活性化かもしれない。うん、よし。
というわけで、わたしは、梅干し作りの指導に入ります!
ナイジェル様のお父様、お母様、ご兄弟の皆様、ご親戚の皆様、近所の皆様、総勢三十人態勢で。
「お集りの皆様、ご機嫌よう。わたくし、ナイジェル様と懇意にしていただいておりますトリクシー・フォン・ラインシュですわ」
ぐるりと集まった三十名ほどを見回します。侯爵令嬢ということで、素直にわたくしの命令に従っていただけるのは良いのだけれど……、皆様硬い。表情が硬い。失敗したらお咎めがあるのではないのか……と、びくびくされています。よろしくないなあ……。
「これから、梅干し作りのために、皆様のお手をお借りするのですが、作業のためにはまず食事っ! 腹が減っては戦はできない!」
梅干し作りのためのアンズーや塩や消毒用のお酒に樽なんかも必要物はすべて用意してもらってはいるんだけど。
それより先に食べましょうね!
「まず、食べましょう! 用意したのは蒸し魚茶漬け。これはわたくしがこのカイエン男爵領の削り節を使い新たに作った一品ですわ!」
皆さん、恐る恐る蒸し魚茶漬けを食し……、あれ? 意外に美味しいぞ……という表情をされています。
「ですが、これはまだ完成形ではない! 今わたくしがラインシュ領で作っている魚醤を加えて、新たなる蒸し魚茶漬け……天茶漬けを作りたい! 更には皆様のお力をお借りして、梅……アンズー茶漬けも作りたい! このように、わたくしは食材研究、新たなるレシピの開発に勤しんでいるのです!」
お茶漬けを食べた後だからか、皆様興味津々で聞いてくれています。よし、やはり試食は王道……!
「今から作りますアンズー漬け。保存食としても有能な食べ物です。きっちり作り、カビが生えなければ、十年二十年と食することが可能! 更には健康増進にも役に立つかもしれない素晴らしい食べ物になると思われるのです。つまり、売れる!」
皆様の目がキラン☆と輝きます。
「例えば、完成した梅……、アンズー干しにはもしかしたら薬効があるかもしれません」
「薬効?」
「はい。作った後検証しないと実のところは何とも言えませんが、炭で黒焼きした後のアンズー干しは、頭痛や生理痛に効果があるのでは……と思われます」
あ、女性陣の目の輝きが……増した! 生理痛辛い人もいるもんねぇ。薬飲むほどではないけど頭がちょっと痛むとか。あー、薬。平民の皆さんではなかなか買えないだろうしねえ。自分たちが作っているアンズーで、痛み止めになるんなら、嬉しいでしょうし。
「どの程度の薬効があるかどうかは今後の実験が必要だけど。薬として売れるなら、利益もかなり出るかもしれませんし、そこまでではなくとも、薬を飲むほどではない不調には役に立つかもしれませんし……」
男性陣の目もキラキラ……ではなく、ギラギラしてきたわ。
実際梅干しの黒焼きは効果があるらしいんだよね。アンズだって、漢方薬の原料だし。薬ほどではなくても民間療法的には効くんじゃないかなーってわたしは思っている。
ま、それは、梅干しを作って、いろいろ検証してなんだけど。
わたしは梅干し作ったら、まずフツーに食べちゃうよ! 梅茶漬けにしちゃうよ!
「というわけで、お忙しい皆様のお手を拝借させていただきますが、がんばっていきましょー!」
梅干しを一大産業化!
アンズー酒だけではもったいないよ、アンズーのポテンシャル!
それに、アンズー酒作りには、まだ完熟していないアンズーの実を使っているらしいの。硬めの実で作るんだって。梅干し……アンズー干しは完熟の実を使うから、熟しすぎた実が無駄にはならないでしょ。
あ、あとジャムも作ろう。かわいい瓶とかに入れて売る。
ふっふっふ。
ジャムはねえ、パンに塗って食べるだけじゃなくて、完成した魚醤と混ぜて、肉や魚に塗って焼くの。絶対美味しいわ!
ふっふっふ。
夢は広がる。
食欲も増大する。
というわけで、丁寧に作り方を指導していきます。
「それではまず、アンズー酒を作るためのまだ若い状態ではなく、完熟したオレンジ色のアンズーの実から、へたを取っていきますね~」
へた取り……。梅のへた取りをするときは爪楊枝とか竹串とかでそっとほじってヘタを取る……。爪楊枝がないなら木の枝を細く削って爪楊枝を作るかって思っていたんだけどね。
ありましたよ。カイエン男爵のおじい様が食後に使っていたとかって。ああ、ありがたい……。削り節だけではなく、爪楊枝も作っていてくれたなんて……もうラブですよ、ラブ! 墓前にお茶漬けお供えしちゃう!
「実を傷つけないように、丁寧にへた取りをお願いします!」
みんなでホジホジと、へた取りをしていきます。
へた取りし終わったアンズーはキレイなお水で丁寧に洗います。日本でならキッチンペーパーで水分を取るところなんだけど、こちらの世界にキッチンペーパーはない。
代わりにボーラス・リーベルをお皿の上に敷いておいて、そこに、アンズーを並べていく。もちろんヘタの部分は下向きに置いて、くぼみのところに溜まりがちな水分を落とす。
「水分が残っているとカビの元ですから! 丁寧に置いてくださいね!」
ボーラス・リーベルはやっぱり葉っぱなので、キッチンペーパーのように柔らかくはない。だから、ガシガシとアンズーを拭いてしまったら、実に傷がつくかもしれない。
そっと置いて、自然乾燥的な感じにする。
「洗い終えましたら、今度は殺菌です。ホワイトリカー……強いお酒でカビ予防です」
こちらの世界ではお酒のアルコール度数は何パーセントとか測定されているわけじゃないので、ナイジェル様とギュンターお兄様の知識をお借りした。知識……飲んでみた上での感想ですが。
そうっ! 以前、我が家のサロンで使用人たちが並べたギュンターお兄様の酒瓶の数々! あのお酒の中で、ホワイトリカーに近い感じのお酒を用意しておいてもらったのよね。余ったら飲んでもいいですから多めに準備したいって言ったら……百本も……。い、いや、お酒だし。飲めるし。腐らないし。なんだったら、来年また梅干し作るときに使ってもいいし。
えーと。
ま、いいか。
酔っぱらわないでね。
……で、ホントなら、霧吹きで、一個一個丁寧に梅干しにホワイトリカーを吹き付けるとこなんだけど……、さすがに霧吹きはないので。
料理用のボールにお酒をドボドボ入れて、それの中にアンズーを入れて、さささと洗う。お酒で洗ったアンズーは、またボーラス・リーベルを敷いたお皿の上に並べていく。
単純作業だけどね、数が多いと結構大変。
皆さんせっせと作業に集中してくれてます。助かるわー。でもまだまだ作業は続く……。




