第45話 ギュンターお兄様にも
カイエン男爵領……ナイジェル様の故郷にやって来て、わたしたちの絆は深まった。
……食欲という名の絆で。
「色気もそっけもないですね……」
エリンが頭を抱えていますが何か?
別にそういうのは今はいいのよ。
「エリン? わたくしは王太子殿下に婚約破棄をされたばかりなのよ? 色気だのなんだのは、もっとずっと後でいいの」
ま、こちら側から関係を切ったんだけどね!
それに、国ごとお別れするつもりだけどね!
お父様とお兄様たち、今全力出していますよ!
「あの……、それにお忘れと思いますが、私、平民ですよ? 侯爵家のご令嬢のお相手には……その……、身分差が。それに……」
下を向きながら、ぼぞっというナイジェル様。あらら? わたし、フラれたかしらー。それとも身分差を気にするとか?
「あー、そう言えばそうでしたっけ?」
「はい。魔法省勤めではなくなりましたので、いただいていた男爵相当の身分は返上、元の平民に戻っておりまして」
「まあ、でも身分なんて今後は関係ないですよね?」
だって、国から独立しますし。
カイエン男爵の前では言えないけどねー。というか、お父様に言って、カイエン男爵、ウチのラインシュ家……仮称・ラインシュ国に取り込んでおかないと!
「まあ、ええと……」
「ギュンターお兄様の擁する我がラインシュ家の魔法使いとして、身分作っちゃいます? 子爵とか伯爵相当にします? それともラノベでよくある魔法伯とかの身分、創設します?」
まあ、何でもいいと思うんだけどね、建国するんだから。それにそのあたりは既にお兄様たちが考えていると思うの。それよりも……。
「あ、カイエン男爵も、よかったら、ウチのお父様と懇意にしておいてください」
「は⁉」
いきなり話を振られて、カイエン男爵、驚きの顔。
「わたし、トリクシー・フォン・ラインシュとアントン・フォン・ブラウンシュヴァイク=リューネブルク王太子殿下の婚約が、あちらの有責で無くなったことはさすがにご存じですわよね」
「え、ええ。まあ……。こちらは中央貴族とはあまりご縁のない田舎なので、影響は皆無ですが……」
「でも、そのうち影響出てきますよ? 何せ、ウチのお父様……ラインシュ侯爵が、王家に喧嘩売りますので、貴族の勢力図、変わります」
勢力図どころか国が変わりますけど。
さすがに独立しちゃいますよーとまでは言えない。そこはさすがにお口にチャックだ!
「そ、そんな話を、あなた様がしてよろしいのですか……⁉」
あら、カイエン男爵、真っ当な精神ね。
「そうね、本来は駄目よね。でも、わたし、カイエン男爵領は絶対にウチに取り込みたいの。お父様にもそう具申するつもり」
ラインシュ領とお付き合いがある領主とか、近隣とかの、かなり多くの皆様が、ブラウンシュヴァイク=リューネブルク王国を見限って、新ラインシュ王国の貴族になりますーってこっそり申し出はしてくれている。だけど、遠く東の田舎……王都は国の西側にあるから、隣国のほうが近いカイエン領には、まだそういった水面下の動きは聞こえてきていないのだろう。
だけど、わたし、カイエン領を手放す気はなくってよ!
ナイジェル様の故郷!
そして、梅と天茶漬けのために!
「梅……アンズーと削り節。その二点だけでも、カイエン男爵領の価値は高いのです。更にボーラス・リーベルも常備しているとあれば三点目……」
「は、はあ……。どれも単に田舎の食材……だと思うのですが……」
田舎の産物が? 何故? みたいな顔をしていますけど。
梅と削り節無くしてお茶漬け街道驀進できますかってーの!
ボーラス・リーベルで作ったゆかりちゃん! ラインシュ領でどれだけ消費されていると思っておりますか! 作ったそばから瞬殺されているんですよ! 優先定期購入品よ! それがサクッと「ありますよー」なんて言われるほどに、こちらでは当たり前にある食材。……逃してなるものか、カイエン男爵領。
「田舎? 他の誰もがカイエン男爵領の価値を見出せなかっただけですわよ。わたくしの希望ですけれど、我がラインシュ領からこちらのカイエン男爵領まで、直通の大街道程度は作り、削り節もボーラス・リーベルも大々的に流通させたい……」
ナイジェル様のペガサスで飛んでくればすぐとはいえ……ナイジェル様の気力・体力・魔力を鑑みれば、ほいほい行き来はできないだろう。それに、欲しい食材を取りにわたしたちがわざわざ来なくたって、流通させればいいのよ! 幹線道路を作って、商人さんたちが行き来しやすいようにして、道の途中に宿も作って、削り節とボーラス・リーベルをざかざかラインシュ領に運んでいただきたい。梅……アンズーもね。
「……とりあえず、お父様とお兄様たちにお手紙を書くわ。カイエン男爵領の食材の豊富さとその可能性について」
カイエン男爵はイマイチわたしの言葉を信じ切れていないようだったけど……。
手紙を書いて、ナイジェル様の魔法で飛ばしてもらって……、梅じゃなくてアンズーが熟す前にふらっとギュンターお兄様がやってきたのよね。早い。お兄様もペガサス魔法を使えるのかしら? それとも別の魔法かなあ。そのうち聞こう。
それで、ギュンターお兄様にもきしめんをふるまってもらって、削り節の有用性をわたしが説明して、梅林を一緒に見て回って、コノシロに似た魚をまた釣って、さばいて、蒸し魚茶漬けを食してもらって……。
「トリクシー案採用っ! ラインシュ領からカイエン領まで大街道作っちゃおう!」
ギュンターお兄様がものすごく乗り気になった。
「これほどまでに素晴らしいものを田舎料理などと……」
「でしょう⁉ ギュンターお兄様もそう思われますわよね⁉」
「うん。今までナイジェルからもらうアンズー酒しか知らなかったのが痛恨の極み……。特にこのキーシメン! うますぎる!」
「このきしめんの出汁に、今わたくしたちが仕込んでいる魚醤を組み合わせ、魚をてんぷらにしたモノを乗せて作る天茶漬けのためにも、カイエン領はぜひラインシュ領の傘下に取り入れたく……」
戸惑っているカイエン男爵から強い拒否が出ないのをいいことに、わたしはサクサクプレゼンテーション。お兄様、カイエン男爵領、取り込みましょう!
「もちろん! 厚遇を以て迎え入れよう! とりあえず、しばらくは寄り親寄り子の関係となってもらって……数年後にはごにょごにょごにょ……」
ラインシュ領が独立したら……という話を……、ギュンターお兄様はカイエン男爵に伝えて……。秘密を知ったからにはもう逃げられなくてよ! おーほっほっほ!
「ちなみに、アントン・フォン・ブラウンシュヴァイク=リューネブルク王太子殿下はねえ、貴族学院を卒業できなくて、もう一度貴族学院にて授業を受けなおししているんだよね。国王陛下から、学年上位五位以内の成績を保てって言われているけど、最初の定期試験、下から数えたほうが早い成績だったってさ」
だから、阿呆な王太子殿下が継ぐであろう国に固執することなく、フットワークの軽いラインシュ領、ラインシュ国の傘下に入ったほうが良いですよ♡
「阿呆な王太子殿下を傀儡にした国となるか、後継ぎに不安があるまま現国王陛下が頑張ってくださるか……」
「それよりも縁を切って独立したほうが良いでしょ」
「ですわよねえ……」
アレコレと、表に出せない情報を伝えれば。もはや逃げることは叶わず……と思ったのか、それともウチに付いたほうが将来あんたいと判断したのか。
カイエン男爵も、ラインシュ領に付くことになりました☆ イエーイ!
「とりあえず、父上に申し上げて、カイエン男爵はウチの寄り子にして。で、大街道作りはウチの方の主導で行うね。ラインシュ領からカイエン男爵領までの途中の領主にも話をつけて、どの辺の土地を大街道にするか、途中途中の宿泊場とかも作って……。あ、お金は気にしなくていいよ。工事費用、全部ラインシュ家持ちにするから。カイエン男爵は土地だけ用意して」
カイエン男爵、目玉が飛び出ていましたけどね。道を作るのって、すんごいお金かかるし、普通は大事業よねえ。
でも、ウチ……ラインシュ家、お金はすんごいあるのよ……。まず、トイレ事業で莫大な儲けが。それにブラウンシュヴァイク=リューネブルク王国にもう今後は税金なんて、支払う気ないしねー。今まで税金として支払っていた分の半分程度大街道作りに使っても、別に問題ない。軍備とか? まあ、それもこっそりしているだろうけどね。
あ、そうだ、トイレ。
「ギュンターお兄様。うちの傘下になったお家には優先的に簡易トイレ売り出し……えーと、割引料金で売り出してみたらどうかしら?」
身内価格的な感じで……。
「あー、持ち運び式簡易トイレねー。あれ、素晴らしいよねえ……。うん、よし! せっかくのご縁だから、早速カイエン男爵にもいくつかプレゼント……」
後日、ギュンターお兄様がカイエン男爵に持ち運び式簡易トイレ&簡易テントを五つほどプレゼントしたら……。百倍の注文数が入りまして、更にラインシュ領、ラインシュ国の傘下に入るよーって承諾だったのが快諾に……。めっちゃ前向きに。
はっはっは。




