第43話 さあ、さばきましょうか!
カイエン男爵の館に戻りました!
まずは、昨日から水に浸しておいた大麦を炊いていきます。
その間に釣ってきたコノシロに似た魚をさばきます。
まずはウロコ取り。この世界、便利な専用道具なんてないので、包丁の背でウロコを丁寧に落として、水で洗います。
次は胸ビレの付け根から包丁を入れ、腹側、頭と切り進め、背骨に沿って内臓を取り出します。
血あいの部分も切り込みを入れて、薄い塩水で洗っていく。
「……手際がよろしいですねえ」
カイエン男爵が感心したみたいに言ってくれた。
感心というか……、侯爵令嬢なのに、という戸惑いも、声音には含まれているよう。
「ええ! 実は食材研究をしておりまして!」
腹側の黒皮が残っていたので、それを処理しながら答える。
「王太子殿下との婚約もなくなりましたので! かといってすぐに次の婚約者を選ぶのも……、というか、婚姻や婚約自体しばらく遠ざかっていたい心境なのですわ! そこで、梅……アンズーやいろいろな食材を元に、新しい食材開発をしていきたいと思っておりますのよ!」
衒いもなく答えれば、それ以上はツッコミは入れられない。
ちょっとくらい疑問とかに思ったところで、美味しいご飯を作って、それを食してもらえれば、皆様ごまかされ……いやいや納得してくれるはずだし。
こうしているうちに下処理は終了! 次は三枚おろしだ!
すいすいすいと、切れ味の良い包丁で、背びれに沿って包丁を浅く入れ、尾に向かって切り進める。もう一度包丁を入れて、背骨に沿って身を切り離す。腹を手前にして、尾に向かって包丁を入れて、反対側も切って行って……、両側の身を外すと、はい! サクッと三枚おろしの完成!
さて、やっぱりこの魚、コノシロ同様に小骨が多い。
ちょっともったいないけど、骨が多い部分は包丁でスーッと切って取ってしまう。もうちょっと柔らかな骨だったらカリッと揚げて骨せんベいとかも作れるんだけど……、この魚の骨は、揚げても無理! って感じに硬そうである。
何かに再利用できたらいいんだけどね……。うーん。とりあえず今は、骨取り後の身をなんとかしよう。
「えーと、塩、下さいっ!」
身をお刺身よりもちょっと太めに切って、まず塩を振る。キッチンペーパーがあれば出た水分を取りたいところ……でも、ないから……って、あああああ!
「ボーラス・リーベル!」
しまった! 用意しておけばよかったあああああああ!
うかつっ! わたし、うかつすぎる!
塩漬けにした塊肉を包んで保存しておけば、腐りにくくなる上に、余計な肉の汁を吸ってくれる葉っぱ! ゆかりにしても大変美味しいアレを!
「持ってくればよかったあああああ!」
キッチンペーパー代わりにつかえるじゃないのよおおおおおお!
その場に崩れそうになった私に、カイエン男爵家の料理人さんが言った。
「あ、ありますよ?」
「へ?」
「ボーラス・リーベル」
マジか⁉
「いいいいいいいただいてもよろしくて?」
「はい」
いやっふー! ありがたい! 神か!
「こちらでは肉の保存によく使いますので、常備しています」
へえー、ラインシュ領……というか、北の方ではあんまりない葉っぱだったんだけどねえ。元々こっち側の葉っぱだったのかな?
ありがたくいただいて。別の皿にボーラス・リーベルを敷いて、その上に魚の切り身を乗せていく。そして並べた切り身の上にボーラス・リーベルで蓋をして、軽く上から押す。
「おおっ! 余計な水分が抜けていくわ!」
水分と共に、臭みも抜けるといいなー。
では、使い終えたボーラス・リーベルはここでサヨウナラ。さすがに魚の臭み付きではゆかりにもできない。
「白ワインとアンズーをください!」
深めの皿に、白ワインとスライスしたアンズーを乗せて、その上に魚の切り身を乗せていく。
これで臭みが完全に抜けるといいなー。
ここまでの作業をしているうちに、米ならぬ大麦も炊けた。火を止めて、蒸らします。
それから、別の鍋にお湯を入れて、蒸し器をその鍋の上に乗せる。
刺身茶漬けにしたいところだけど、やっぱり魚の臭みもあるし、何よりこの世界の人は生の魚を食べる習慣がないからね! 今日のところはふんわりと蒸しますよ!
一分くらいかなー? 軽めに蒸して、あとは余熱で……。
この間に、蒸らしておいた大麦をお茶碗に盛って、蒸した魚の切り身をのせる。
んんんー、魚だけだとちょっとさみしいなあ。
「削り節も乗せよう! ゴマと……、あ、残ったボーラス・リーベルも、洗って塩を振って、フライパンで軽く炒りますか!」
小ネギがないからねー。その代りにボーラス・リーベルの千切り!
最後に冷やしただし汁を用意してもらって……。さあ! 冷やし刺身じゃないけど蒸し魚茶漬けだけど! 実食です!




