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転生悪役令嬢はお茶漬けが食べたい【長編版】  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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第42話 まず、魚釣りです

初対面の男爵。そのお屋敷にいきなり押しかけて泊まらせてくれと言った挙句に調理場を借りるだけではなく、お茶漬けを作らせてもらう。


……こちらの世界の常識に照らし合わせるまでもなく、失礼なのは分かっている!

侯爵令嬢たるわたしが行うことではないとも分かっている!


だがしかしである。


目の前にある冷やし出汁茶漬けの可能性。


作る以外の選択肢はないっ!


というわけで。まずは麦飯の仕込みから。


大麦をいただいて、脱穀して吸水。はい、ここまではいつもの流れですね。

それを調理場の片隅に置かせていただいてから、釣りに行きますよ。


わたしとエリン、ナイジェル様。そして、カイエン男爵家の使用人たちと……何故だかカイエン男爵ご本人も同行し、釣竿とビール樽、そのビール樽の中に半分くらいまで氷室で保管してあった氷を詰めて領内中央を流れる川へとやってきた。


川……、うん、川。

川っていうとですね、日本のごくフツーの川を思い浮かべますね?

河川敷があったり、橋が架かっていたり、春の小川でうらうらと……って感じの。


「ええと、カイエン男爵。これ、川ですか?」

「はい、川ですが?」


いや、川だよ川。確かに上流から下流へ向けて大量の水が流れておりますとも。

ええ、大量……の、大河。


中国の長江とか黄河とかみたいに対岸が見えないほどのでっかい川っ!

ええと、日本の墨田川は全長約23キロメートルで、中国の長江は6300キロメートルだったっけ? あんまりよく覚えていないけど。でも上流から下流までの長さがそんだけ違うってことは、対岸までの距離だって大きく異なって……。


いや、目の前に広がっているのは長江じゃなくて、カイエン男爵領の川……なんだけど。


「大河……。対岸がうっすらとしか見えない……」


なんて例えればいいんだろう? 神奈川県側から千葉県側を見たカンジ?

東京湾が海ではなく川だった感じ?


そんな感じ……。どんな感じ……。


「と、とにかく魚っ! 魚を釣りましょう! 何が釣れるかな⁉」


とにかく川があるっ! とすれば、何かしらの魚がいるはず!

魚釣りなんてしないで、漁師から魚を買い上げればいいのに……というカイエン男爵とエリンの視線は無視して。


わたしとナイジェル様はキャッキャと童心にかえって釣竿を持ちますよ。

ちなみにサビキ釣りをするつもりです。楽しーよねえ、サビキ。まず餌をバーッと撒いて、魚を集めて釣り竿を下ろす。初心者向けの釣り方でっす!


「いやー……、何年振りでしょうかねえ、魚釣りなんて」

「あ、経験者ですか、ナイジェル様も!」

「ええ。まあ……釣り竿で魚を釣るのはあちらで……」


ああ、日本で、ですか!


「こちらでは……、浅い川に足から入り、手づかみでしたね……。ドジョウとかフナに似た魚を……」

「ああ、なるほど……」


近所に小川があって、魚が居れば、男の子は入るよね! 入ったら、魚を手づかみするよね!


なんてことを、きゃっきゃとおしゃべりしつつ、釣り竿をクイクイ動かしたり、川に餌を撒いたり。


わたしも日本では何回か渓流釣りとか釣り堀に行った記憶があるなあ……なんて。うん、多分、日本でもお父さんが釣り好きだったんじゃあないかなあ……。


もうあんまり覚えていない日本の記憶をしみじみと思いながら、魚釣り。


……うん、釣れた。

今度はナマズじゃなくてよかった。フツーの……30センチくらいの大きさの平たい……ええと、木の葉みたいな形をしている。背びれの端がまるで糸のように長くなっている。腹にしっかりと角があり、全体は銀白色で背側は黒っぽい。


「コノシロに似ていると思いますが……」

「そうですね」


とりあえず、エリンに鑑定してもらう。


食べられるけど骨が多いと出たそうな。あと臭いが気になるって……。えーとどうしよう……。


「ますますコノシロに似ている……ということは、江戸前寿司で」

「ああ! コハダですね!」


そうコハダ。

マグロが江戸前鮨の華なら、コハダは真打ちだとかなんだとか、酔ったおっちゃんが飲み屋で熱く語る魚。コハダは煮ても焼いても食えないけれど、塩と酢で締めて、鮨飯と合わせると別物のように旨くなるとか何とか……。


で、コノシロは、そのコハダが成長したバージョン。


稚魚のときは「シンコ」、若魚のときが「コハダ」、ちょっと大きくなって「ナカズミ」で、成魚で「コノシロ」と呼ばれる出世魚。


「ううーん。コノシロまで育つと骨が太くてしっかりするから食べにくいって聞きますよねえ」

「でもうまみも強くなって味わい深いという説も……」


ナイジェル様と一緒に悩む。


そもそもコハダが「煮ても焼いても食えない」と言われるのは臭いから。だから、お酢で臭みを取るのよね……。


「刺身なら……いいんですけど」


わたしが食べたいのはお茶漬けだ。せっかくの削り節があるので出汁茶漬けが食べたい。

コハダの酢締めは……合うのかな?


「う、ううううう……。とにかくカイエン男爵のお屋敷に戻っていろいろやってみますか!」


レッツ・チャレンジ・クッキングよー!






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