第40話 きしめんですよ
ご挨拶よりも先にきしめんなんて……と、思いつつも、食欲は止まらない。
だって、きしめんだよきしめん!
そりゃあね、ブラウンシュヴァイク=リューネブルク王国の主食は小麦。
小麦があれば、麺は作れる。
麺はね。
小麦に塩を混ぜて、少しずつ水を加えて、練って練って練って……。寝かして、できた生地を薄ーく伸ばして切ればいい。
だけど、きしめんは麺だけでできているのではないっ!
麺類で大切なのは汁! 汁だよ汁‼
きしめんの汁っていったら、鰹節に醤油にみりんでしょおおおおおおお!
このカイエン男爵領にはあるのか⁉
鰹節と醤油とみりんがあるのか⁉
あるのなら、わたしのお茶漬けが新たなるステージに向かうことができる!
ね……猫まんま、食べたいなー……ではなく。
お茶漬けだけど、出汁茶漬けができるということじゃない!
ナマズの魚醤の完成を待たずとも、醤油が手に入る⁉
しかも、日本人転生者のおじい様が作ったのだろうから……ショーユと思ったのにナンプラーが出てきたなんてミスマッチは起こらないはずだ!
心臓がバクバクするくらい、マジドキドキで待つことしばし……。
どんぶりに入ったきしめんが用意された!
ふおおおおおおお! 見た目はフツーのきしめん!
でも、この異世界で、フツーのきしめんが出てくるっていうこと自体が奇跡だよ!
「あ、あああああ……、この黄金色の汁は……」
「はい。川魚を燻製にしたものを薄く削ったケーズリブシというものと数種類の香味野菜、少々の酒を加えてつくったスープでございます」
待って、今、ケーズリブシって……それって、つまり、鰹節よね⁉ 川魚だから鰹じゃないか! でも、削り節……。ふおおおおおお! 先達は居た! カイエン男爵のおじい様! ありがとおおおおおおおお!
「い、いただきます……!」
どんぶりに口をつけて飲み干したいところではあるのだけれど! エリンに怒られるから! お上品にスープをスプーンで掬います。
そうして、そっと口へ運び……。
「ふおっ!」
「こ、これは……」
わたしとナイジェル様が同時に声を上げてしまった。
「鰹出汁……」
「……に、似ていますが……、そこに加わる野菜の甘み……」
「さらりと飲み干せてしまうほどののど越しの良さ……」
「麵に汁の味が染みて……うまい」
醤油は使っていない感じ。でも……出汁と野菜だけでここまで美味しくなるの⁉ これは、川魚が何らかのうまみを持っている?
ええいっ!
考えるのは後っ!
考えるな感じるんだ食すんだ―――――――!
あとはもう、無言で食しました、きしめんを!
だって、こんなにもきちんと出汁のきいた汁なんて……!
ああ、出汁。
あなたと出会うために、わたしはこんな遠くまでやってきたのね……。
なんて、梅を一瞬忘れた程のインパクト!
いやいやもちろん忘れていないけどね!
この出汁に、麦ごはん入れて、梅干し入れて。ごくシンプルな出汁茶漬け、食べた――――――――い!
「……カイエン男爵。このスープの作り方、わたくしに教えていただくことは可能かしら? できれば、ケーズリブシも買って帰りたい。いいえ、今買うだけではなく、定期的に購入は可能かしら?」
さあ、レッツ商談です! 買うぞーっ!




