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転生悪役令嬢はお茶漬けが食べたい【長編版】  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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第4話 トリクシーのお茶漬け研究メモ 


「……ふう! お父様もお母様のお話の通じる方でよかったわ!」


話を終えた後、わたしの私室に戻った。

他の使用人たちに着替えを手伝ってもらっているうちに、エレンには温かいお茶を淹れてもらう。一口飲んで、ほっと息を吐く。


「あ、エレン。今日はご苦労様。もう下がって休んで。明日からは領地に帰る準備をするんだから、忙しくなるわよ。もちろんあなたも一緒に領地に行くんだからね!」


エレンには必ず付いて来てもらわなくてはならない。

だって、エレンってば、鑑定魔法が使えるんだもの!


ただし、エレンが使える鑑定っていうのは、食べ物に毒とか虫とか何かがが入っているかどうかとか、食べ物を食べたらお腹を下したり、具合が悪くなったりしないか程度のもの。魔法学校に入学したり、魔法使いになって身を立てるなんてレベルには達していない。


だけど、私たち高位貴族に対しては、これほど素晴らしい能力もないわ!

王族も高位貴族も、毒殺を恐れて、カトラリーは銀のものを使ったり、毒見役を置いたりしているのよ。

それが、エレンがいれば、見れば一瞬で人体に害があるかないかわかる。

仮に海でクラーケンを捕獲したら。可食可能か、すぐに見分けられるのよ!

わたしもエレンと同じような鑑定魔法が使えればよかったんだけど……、残念ながらわたしが使えるのは別の魔法。

だから、エレンは、これから様々な食材を試すわたしには、絶対必要な人物なの! 人体に安全な食べ物か、そうでないのか。

それが見分けられるだけでも素晴らしいのよエレンの能力は! 安全、第一。食中毒や腹下しも怖いからね!

ぜったいに側から離さないわエレン!


わたしの意気込みは満々だったけど、侯爵家の令嬢が王都から領地に行くとすれば、簡単にサクッとは行くのは無理なのだ。


着替えなどの準備だけではなく、護衛の手配、道中で泊まる宿の確保などなど、しなくてはならないことがたくさんある。


とはいえ、それをするのは使用人たちで、わたしは特にすることはない。

「お嬢様、準備が整いました」と言われたら馬車に乗ればいいだけだ。


「まあ、でも。ボケーっと待っているのは時間の無駄」


わたしは自分の机の上にノートを広げた。


お茶漬け補完計画……。ちょっとタイトルが大袈裟ね。 研究メモ程度にしてみよう。

わたしはノートの一ページ目に「お茶漬け研究メモ」と書いてみた。


「まずは大きく分類。お茶漬けに必要なのは、一に白米、二にお茶もしくは出汁、三、四、五、六……白米の上に乗せるトッピング……具材は多種多様にある……」


ノートの二ページ目に「白米」と書いたけど……、小麦が主食のこのブラウンシュヴァイク=リューネブルク王国に米はない。そもそも水田自体がない。


東南に位置する他国ならあるかもしれないけど、日本のコシヒカリやササニシキとは違う種類のコメかもしれない。

まあ、多少の妥協はするけれど、最初からジャポニカ米を求めるのは難易度が高すぎるかもしれない。インディカ米的な種類なら……あるかな? でもインディカ米はカレーやチャーハンにはあうけどお茶漬けには……。ううん、妥協、大事。とにかく米であればいい。目標レベルを最上級にしておくと代替品では満足できなくなる。


「米のことは後回しにして……お茶漬けの具材から考えて行こう……」


海に面している国土だし、川もある。


「魚はいるのよね、魚は……」


さっきの夕ご飯は鯛っぽい白身の魚のゼリーだった。刺身で食するのが可能なら、鯛茶漬け的にもできるかも。あー、でも鯛茶漬けだったら出汁とワサビが欲しい……。厳しいかなあ、ワサビは。

それに衛生上の問題もある。

刺身……、下痢しないかしら?

いや、いや、いや、いや。諦めるのはまだ早い。エリンの鑑定様様だ! 鑑定してもらって、それでもこの似非中世ヨーロッパ的世界で刺身を食えば下痢をするというのなら……、佃煮でもなんでも作ってみせよう。醤油はないけど。あー、やっぱり塩系かなあ。だったら、塩鮭! これなら多分大丈夫! きっと鮭かマスに似た魚もいることだろう。


わたしはさっき「白米」と書いた下に「具材その一。鯛的な白身魚。可能であれば刺身茶漬け。出汁、ワサビ、後程検討。具材その二。鮭、もしくはマス。塩焼き」と書いた。


魚は入手が出来れば塩焼きすればいい。簡単な話。

そう、塩を使ったものならば、簡単なのだ。魚も、野菜も。


「カブやダイコンに似た野菜はあるし! ニンジン的なのもある!漬けものは可能……!」


カブやダイコンをテキトウな大きさに切って、塩につけて、可能であれば唐辛子とかも入れてみたいけど、塩だけでも漬物はできる。

漬物が出来たら、それを刻んで炊き立てのお米の上に乗せればいいだけだ。


「魚系、野菜系……、具材はこの似非中世ヨーロッパ的世界でも、きっとなんとかなる。具材の中でどうしても欲しいけど、この世界にはなさそうなのが………梅干し」


日本人たる者、どうしても梅干しは欲しいっ!


「梅に似た果実……。プラムとか? アンズ? スモモ……? ウチのラインシュ侯爵家にはないけど、他の領地にならありそうよね……。梅の木ってバラ科サクラ属の落葉高木だし。これだけ薔薇が栽培されているのなら、近しい品種はあるだろうし……。あ、でも薔薇の花の木とバラ科の梅は違う種類かしら? それに……梅って、昔は漢方薬だったのよね? 農家よりも薬師を訪ねたほうが良いのかしら……?」


不確かな知識をぶつぶつ言いながら、別のページに「具材その三。梅、プラム、アンズ、スモモ。検討。農家もしくは薬師」と書く。


「うーん……、探すとしても。梅に似た実があるだけじゃあ、梅干しにならない。塩と酢。酢はビネガーで代用するとして。問題は……シソ」


プラムの塩漬けというだけで、なんとなく梅っぽい感じにはなりそうなんだけど……。


「シソ……、シソは欲しい……っ!」


想像するだけで、口の中が唾液でいっぱいになる梅茶漬け。梅干しだけがデデンっ! と白米の上に乗っかっているのもいいけれど、赤紫蘇もそっと梅干し様の側に居てほしいの……。


「シソ……、シソに近い植物って言ったら……。あ、ミント、ローズマリー、ラベンダー、セージ、マジョラム、オレガノ、タイム、レモンバーム、バジル」


シソ科の西洋風ハーブならあるだろう。だって、ここ、多分、似非中世ヨーロッパ的世界のだし。


「ああ、そういえば。バジルは加熱すると大葉の香りに近くなりやすい……って、どこかの本で読んだことがあるわね……。香りが近いのなら、赤紫色を着色すれば……イケるかも!」


よし。どのくらい加熱するのかとか、バジルの研究をすれば、シソ問題はクリアだ。

よし、よし。希望が見えてきた。梅干しっぽいものはできそう!


思い付きを忘れないように、ノートに書く。

バジルを加熱して大葉にする。可食な花から赤紫の色素を抽出して、色を付けて赤紫蘇っぽくする……。


「ふっふっふ……。為せば成るの精神で、前向きに頑張りましょー!」


いきなりブラウンシュヴァイク=リューネブルク王国中を食材探しに回ったりとか、他国に行くのは無理でも。


「王都から領地に向かう道中、そして、我がラインシュ侯爵領。そこでお茶漬けが作れるかどうか、とにかく食材を集めてチャレンジよ!」


ノートを胸に抱いて、わたしはベッドに飛び込んだ。


夢の中では炊き立ての白米と梅茶漬けを心ゆくまで堪能したわたし。


……朝起きたら、枕がヨダレで湿っていたわ。おほほほほ。お恥ずかしいわ~。





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