第34話 シソ、揉みながら、清浄魔法。そして……!
魚釣りに行ったときに、川べりにシソ的な植物は自生していた。
食べられなかったけど……。
でも、似ている植物があるってことは……可食で、シソに似たものもあるってことでは? 期待は大。
しかも頃も良し。
シソ、もしくは赤紫蘇って、日本だと四月から六月くらいに生えるのよね。収穫は十月くらいまでできるけど。
だったら……ちょうどいい。
探しましょう!
人海戦術で川土手を探す……のはいくら何でも……。
似ていても毒がある葉っぱばかりが集まりそう……。
だがしかし! わたしは侯爵令嬢なのよ! 使え! 権力! そして、莫大な資金!
ブレンネッセルっていう名の大葉に似た植物は見つけたのだから、そのブレンネッセルに似た葉で、毒のない、食べられるはっぱを探しているって商人とか農家の皆さんに聞いてみればいいのよ!
うっふっふ。
ブレンネッセルに出会ったのは失敗ではない。あれは出会い。次の出会いのための布石。
というわけで! 商人さんたちの頑張りに期待!
待つこと数週間。
商人さんが持ってきてくれた、シソに似た植物は……。
「あの……、お嬢様のご要望通りの葉に近いと思うのですが……」
確かに近いけど。
「赤い……」
「大きい……」
赤紫蘇って、赤の文字がついているけど、実際は紫色っぽい葉っぱよねえ。ま、絞れば汁は赤いんだけど。
でもこの葉の赤は……くすんだ紫色ではなく、トマトみたいに鮮やかな真っ赤。
しかもサイズがでっかい!
新聞紙くらいの大きさの葉っぱ! なんじゃこりゃ!
「この葉はボーラス・リーベルと言いまして、塩漬けにした塊肉を包んで保存するのに使用されます」
「へえ……」
「腐りにくくなる上に、余計な肉の汁を吸ってくれるので、大変重宝しています」
なるほど。抗菌効果がある葉っぱ。しかも吸水仕様。異世界便利食材の一種かしら?
ま、いいか。大は小を兼ねる。
トマト色だろうとなんだろうと赤色なんだから、梅に赤色を着色するにはむしろいいかも。梅干し色というよりも、鮮やかな赤っ! っていうふうになりそうだけど。
さて……せっかく入手した赤紫蘇ならぬボーラス・リーベルを調理場に持って行って、まず水洗い。そして塩をぶっかけて揉みます!
揉んで揉んで揉んで揉んで揉んで……、灰汁を出して、絞って、一度水洗いはしなくてもいいんだろうけど、こっちの世界の植物なので、念のため……って、あれ?
「ナイジェル様」
わたしの横で、わたしと同じようにシソ揉みをしてくださっているナイジェル様を見る。
「はい?」
「ナイジェル様か、お仲間の魔法使いさんたちの中で、清浄魔法とか使える人はいます?」
「は?」
「えーと清浄魔法。ラノベとかアニメの中ではおなじみの魔法ですよね? 『クリーン!』とか呪文を唱えると一瞬にして体とか部屋とかがきれいになる……」
あ、あれ? 有名魔法じゃなかったのかな?
魔王を倒す旅に出た勇者一行の中に、清浄魔法を使える人がいると、何週間もお風呂に入らなくても大丈夫! 魔物の返り血を浴びた後もすぐにきれい!
ドアマットヒロインが、継母とか意地悪な異母妹とかに掃除を命じられても一瞬で屋敷の中がきれいになる。
おなじみだよね?
「あー……。そういえば、あっちの創作物の中では……、よくありましたね……」
「はい」
赤紫蘇ではなくボーラス・リーベルに清浄魔法をかけてもらえたら……って、あああああ! ナマズにもかけてもらえばよかったああああああ!
「ええと、とりあえず、仲間たちと研究をしてみますね……」
「つまり、今はない?」
「はい。今後の研究課題としては面白そうですが」
うーん、なかったか! 仕方がない!
「では、もう一度シソを洗って、塩もみしましょう」
再び揉んで揉んで揉んで揉んで……。
出来上がりました!
だけど!
「……梅を漬け始めてもいないのに、シソが先にできてしまった」
あー……、保存性はあるので、時期まで氷室で保管しておけばいいか。それにそろそろナイジェル様の故郷に行って、アンズーをもらってくるし。
「あの……、これ、『ゆかり』にしてみてはいかがでしょうか?」
「はい? 『ゆかり』?」
なにそれ? 女性のお名前?
「ご存じないですか? 有名なシソのふりかけで……」
「あ、ああああああああああああっ! 『ゆかり』ちゃん! 六兄弟ふりかけセット!」
あった! そういえばあったわ! スーパーのふりかけコーナーには常にある某社の有名ふりかけ六種類! どうしてだか、商品名がひらがなの人名! ちなみにわたしはワサビふりかけの『しげき』が好き! 切ったキュウリにまぶして食べたり、とろろに混ぜてご飯にかけて食べるの! 美味しいよ!
「作りましょう! 作りましょう! その前にっ! 調理人の皆さん! 麦飯を炊いてええええええええ!」
もう慣れたのか、調理人の皆さんが素早く乗馬用の手袋をはめて、麦の脱穀を始めました。
そう、炊いてと言っても、脱穀して吸水して炊けるのはきっと明日……。
でもいいの。
わたしはシソふりかけを先に作る。
塩もみしたボーラス・リーベルをさらに絞って水分を出す。包丁でみじん切り。そして、鍋に投入! 乾煎りしますよ!
煎って、煎って、煎って、煎って……。少々小皿に取って味見を……。ナイジェル様にも味見をしていただく。
「塩気がもうちょっと……」
「ですね!」
鍋に塩を追加投入して、さらに煎る。
ふっふっふ。
シソふりかけの完成です!
「明日、麦飯が炊き上がったら! このふりかけを麦飯にぶっかけて食すのよ!」
ぜったいに美味しいわ、これ!
さて、待ちに待った次の日です!
料理人の皆さんと、わたし、それからナイジェル様で、わくわくの実食タイムです!
まずは炊きたての麦飯に、シソふりかけをぶっかけます!
ほんわりと湯気の上がる麦飯様とシソの風味、それから塩気。
これだけで、ものすごい満足感!
がっしがっしと食します!
ふおおおおおおお!
シソの風味で、麦飯の麦感……麦臭さが……減っている。これはすごい。白米を噛む感触とは異なるけど、麦感が減る! なかなかに素晴らしい!
さすがシソ! いや、本当はシソじゃないけど! ボーラス・リーベルだけど!
やっぱり薬味サイコー!
感動のあまり、お代わりを……と思ったら、料理長さんがわたしにすっと冷やし麦茶が入ったカップを出してくれた。
「オーチャズケにしてもよろしいかと……」
わたしの目が「かっ!」と開いたわ!
熱々の麦飯。そこにシソふりかけ。
世界はそこで完結しなかった!
完璧だと思われた二者の世界に、更なる冷やし麦茶を投入……。
ああ……、天国はこんなところにあったのね……。
「し、しあわせ……」
ナイジェル様も即座に完食し、無言で三杯目に突入しているわ……!
「料理長」
「はっ! トリクシーお嬢様」
「これは素晴らしいわ!」
「ありがとうございます!」
「お父様やお母様、お兄様たちや家族のみんなにもシソふりかけ麦茶漬けを……」
お出しして……と言う前に、料理長が崩れ落ちた。
「申し訳ございません、トリクシーお嬢様。炊いた麦飯はもうなく、更にシーソフリカケも……、残りが少なく……」
あ、あら? あんなに作ったのに⁉
見れば、ホントに残りすくない。
調理場をぐるりと見る。
……料理人の皆さんもお代わりをして、ナイジェル様は四杯目に突入している。
そりゃあ、なくなるよねえ。あはははは……。
……商人さんにまたボーラス・リーベルを注文しよう。今度は十倍くらいの分量で。あっはっは!




