第30話 公開! 『妄想日記』ですわ!
自分の妄想を他人に知られるのは恥ずかしいけれど。
脳内お花畑のヒロインちゃんの『妄想』を皆様に公開するのは……ちょっと楽しいかもしれない……。
なんて思うわたしはやっぱり悪役令嬢なのかしらね?
悪役令嬢するよりも、お茶漬け研究にまい進したいけど!
でも、ここできちんと身の潔白を証明しておかないとね!
きちんと婚約破棄。自由の身にならないと、あとからイチャモンつけられても面倒だ。
それに桃色頭ちゃんも、わたしに冤罪をふっかけるつもりで日記モドキを用意していたんでしょう?
たとえば……、何かの物語で、ヒロインちゃんが、『悪役令嬢がこの場所であたしを虐めました』って主張して、でも虐めを見ていたはずの証言者の位置からすると、間に柱とか壁とかがあって、虐めなんて、透視能力者でない限り見えませんよ……なんていうのがよくあるじゃない。
見えない位置から見たというだけではなく、いろんなざまぁモノのヒロインちゃんの主張って、事実と矛盾することが多いのよねえ。
冤罪なんだから当たり前だし、その矛盾を悪役令嬢が突くんだけど……。
桃色頭ちゃんは、主張と現実が矛盾しないように、念入りに設定を作ったのよね、きっと。で、それが、その日記モドキ。
でも、ご苦労様。
悪役令嬢役のわたしは、貴族学院を休学していた。学院どころか王都にも不在。ラインシュ領では新聞記者のインタビューも受けていたから、所在地は判明している。
何をどう綿密に設定しても、無駄ムダ無駄ムダあああああああ! でございます!
そもそも、わたしが王都に不在って程度の情報は掴んでおきなさいよ! 詰めが甘い!
「えーと、そこのご令息。とりあえず、二日前の日記を読んでくださる?」
「あ、えっと、あのその……」
「わたくしがその妄想日記に触れた後、改ざんされたなどと言われては困りますので」
「で、ですが……」
「四の五の言っていないで! さっさと該当ページを開いて読み上げなさい!」
必殺、侯爵令嬢ビーム!
あ、もちろん出ませんよ?
でもそんな勢いで、じろりと睨む。
紫頭のご令息は、しどろもどろになりながらも、音読した。
「『……ドレスに似合うようにって、髪飾りをいただいたの。あたしの桃色の髪に生えるようにって、アントン王太子殿下がプレゼントしてくれた。嬉しかった。なのに……。トリクシー様が……、あたしには不相応だって、取り上げたの。床に投げすてられた髪飾り。壊れてしまった髪飾り。壊れてしまっても、昼間の太陽の光に照らされた髪飾りはキラキラと輝いて……。あたしは泣くしかできなかった……』」
うんうんと頷きながら、わたしは感心してみせる。
「まあっ! あなたの妄想って、すごいわあ」
「も、もうそう……なんかじゃあ……」
「妄想ですわよ! だって、わたくし、二日前のその日に、王姉殿下と一緒に、ラインシュ領からペガサスのひく馬車に乗って、空を飛んで王都までやってきたのですもの!」
王太子殿下と桃色頭ちゃんは、二人合わせて点目になった。
「ペガサス……?」
「ぺ、ペガサス……」
あ、この世界ではペガサスって言葉はないわよねえ。
疑問に思うのは無理もない。
「ええ、王太子殿下。魔法使いであるナイジェル・キース様の発明ですわ! 馬の背に翼が生えて、空を飛ぶのです! わたくしは王姉殿下と一緒に空を飛び、空から、わたくし自身の手でビラを巻きながら王都にやってきたのです! すっごく目立っていたと思います!」
じゃーんっ! と擬音が付きそうな勢いで言えば。
会場の皆様は「見たぞ」とか「ビラ、わたくしも持っていますわ」とか「次の日の新聞に掲載されていたなあ」とか言い出した。
「昼間なんて、ずーっと空を飛んでおりましたわ。王都にあるラインシュ侯爵家のタウンハウスに到着した後は、外出することなく旅の疲れを癒しておりましたわね。もちろん、王姉殿下もご一緒です! そのワタクシと桃色頭さ……、ええと、ヘレンさんでしたっけ? わたくしとあなたがどうやってお会いできたというの?」
「そ、それは……」
「できるとしたら、あなたがまず空を飛び、空を飛ぶ馬にひかれた馬車に乗ったわたくしのところへやってこないといけないのですけど。あなた、空を飛べますの?」
「う……」
答えることなんてできない桃色頭ちゃん。
「現実には無理でも、あなたの発想……妄想はすごいとわたくしは思うの! 太陽の光に、壊れた髪飾り。キラキラと輝くなんて! 妄想だというのに、まるで本当にあったかのように情景が見えるわ! その妄想力を生かして、あなた、文章を書くお仕事に就いたらいいんじゃないかしら? きっと文才があるわよ!」
褒めるようにして貶す。
こうすれば、ヒロインさんが悪役令嬢を「ひどい」なんて言えないでしょう?
褒めて褒めて褒めてあげるわよ!
「ねえ! その妄想日記、わたくし、もっと読みたいわ! 紫頭のご令息。一週間前のページを開いて、そこを読み上げてちょうだい!」
「は、はははははい……っ! ええと、一週間前は……『貴族学院の課題はあたしには難しいの。でも、がんばってレポートを書いたのに。トリクシー様はあたしの書いたレポートを取り上げて、それを取り巻きの皆さんと読み上げて、そして笑ったの。『こんな内容を読まされる教師も大変ねぇ。あら、誤字。こちらは主語と述語が一致していないわよ。提出する前に、きちんと修正なさったら』と言って……、あたしのレポートを池に投げたの』です……」
「あらまあ。今度はツッコミどころの多い妄想ですこと」
思わず素で言ってしまったわ。
ツッコミって……侯爵令嬢が使っても大丈夫な単語だったっけ? まあいいか。
「わたくし、一週間前には貴族学院などにはおらず、まだラインシュ領で農業研究をしておりましたけど」
桃色頭も王太子殿下も何も言えない。
「それに……取り巻きの皆さんって、どなた? 後ろに控えているご令息やご令嬢?」
多分、悪役令嬢の悪事の証人として集められたであろう、令息や令嬢が、一斉に後ろに下がっていく。
無関係ですー、たまたまここにいただけですーって顔で。
うわー、すごい掌返し。さすが貴族! 厚顔です。
逃げられないのは妄想日記を手にしている紫頭のご令息くらいかしらねえ。
ご令息とヒロインちゃんとアントン王太子殿下の周囲から、人が減り、三人の姿が非常によく目立つ。
桃色頭ちゃんは、少しきょろきょろして周りを見てたけど、味方が居なくなったとみて焦ったのか、金切り声を出してきた。
「と、取り巻きは取り巻きですっ! 誰でもいいでしょう!」
誰でもいいわけないのよねえ……。
まあでも、余罪追求とか、協力者の皆様をここでさらし者にするなんてこと、わざわざしていたら、時間がいくらあっても足りない。
それは後ででいい。
ちらと、ギュンターお兄様を見る。お兄様は頷きはくはくと唇だけを動かす。
よし、あとちょっと時間を稼ぐ必要がある……か。
「先ほどはあなた様の妄想を褒めましたけど……、取り巻きはちょっと……。ここは個人名であるべきですわよねぇ。もしくは具体的な外見描写でも……。まあ、妄想ですので、仕方がないとはいえ……。ごめんなさい。先ほどの文章だけで、あなたに文才があるなんて、短絡的のお褒めしてしまって。こちらの文章はちょっと……、惜しいですわねえ……」
本気で残念そうに見えるように、わざとため息などを吐いてから……わたしは、ふっと気が付いたように言った。
「あ、でも! ここだけがちょっとイマイチ文章力に難ありで、でも、他の部分は素晴らしい描写がなされているかもしれませんわね! 学院の教師の皆様に添削を願ってみます? 添削した上で、事実と妄想の差異も書きあらわしたら面白いかもしれません!」
親切ぶって、提案までしてみる。
「わたくしの実際の行動は、新聞記事を追えば簡単に分かります! その新聞記事とあなたの妄想を書き並べて、事実と妄想の相違を明確にした上で、書籍にでもすれば……。新しい文学になるかもしれませんわよ! タイトルは『あたしの妄想日記。現実とはここまで違います! さあ、みんなでどこが違うか検証してみよう!』なんてどうです? 出版していただけたら、わたくしも一冊買いますわ!」
ここまで言えば、桃色頭ちゃんは壮大なる妄想力を持つ女と皆様に認識されたでしょう。
せっかくさっさと婚約破棄が成り立って、あとはさよーならーだったのに、わざわざ、まぜかえして自分がかわいそうなヒロインよムーブなんて余計なことをするから、こういう目に合うのよ。
雉も鳴かずば撃たれまいって言葉知ってる?
つまりはそういうことよ。
さて、さっさと終わらせて、お茶漬け研究するぞー。




