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転生悪役令嬢はお茶漬けが食べたい【長編版】  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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第29話 もーそーですね!


「あなたの言うことはなんだか分かりません! とにかくあたしはあなたに苛められたんです! 謝ってください!」


……いきなり桃色頭の推定ヒロインちゃんが叫びだした。


わたし、アリバイあるよ。

冤罪吹っ掛けるんなら報復は覚悟しろ。

今、そう言いましたけど!


わたしの話が理解できなかったのかな?

とにかく謝れって、推定ヒロインちゃん、クレーマーですかいっ!

それとも、自分が注目を集めないと気が済まない感じの人?


あー……、迷惑うううぅぅぅう!


とはいえ、こういう展開も予想済み。

それに対する対策も、心の内で決めてあった。


「あなた、どこのどなた?」


だって、初対面だもん! まずはここからだよねえ。


「初めまして……ですわよね? それともどこかでお話でもしたことがあったかしら?」


ないよー。

遠くから見たことはあっても、話したことはないよー。


「は、はああああ⁉ アンタがあたしを虐めたって言ったでしょう⁉」

「わたくしたちは初対面ですわよねえ」


つまり、虐めなんてない。


「それともわたくしの記憶がないだけで、どこかで出会って、お話でもしましたか? 会っていたのなら、ごめんなさいね。でも、出会ってお話した記憶はないの。あるのなら、それはいつ? あなたからの自己紹介はあったのかしら?」


記憶になくてごめんなさいね、と謝ってみせる。

相手の言うことに対して全部謝るのではなくて、おぼえてなくてごめんと一部分限定謝罪。そして、お話を聞きますよという姿勢をとる。

クレームに対するときにはここ大事! テストにも出るよ! 嘘だけど!


「あ、あああああたしを知らないわけないでしょおおおおおお!」

「……有名な方なの、あなた。もしかして舞台の女優さん? わたくし半年間もラインシュの領地に籠りっぱなしで、農作物研究をしていたものだから、王都の流行に疎くてごめんなさいね」


桃色頭がわなわなと震えだしました。


「あたしはヘレン・フォン・シュルツ! アントンの恋人っ! 知っているハズでしょう!」

「ヘレンさんとおっしゃるの? そう、王太子殿下の恋人さん? 舞台の女優さんじゃなかったのね。初めまして」


にっこにっこと笑ってみせます。王太子殿下を呼び捨てにしたことはわたしはスルー。

周囲の生徒たちは「男爵令嬢が王太子殿下を呼び捨てにするなんて」と、顔をしかめている人もいるけど。

そこを突っ込むと、話が長くなるので割愛っ! 

わたし、もうアントン殿下の婚約者じゃないからねー。わざわざツッコミ入れないよ!

そんなことより、この無駄な断罪、なるはやで終わらせて、さっさとお茶漬けしたいのよー!


「ごめんなさいね。わたくし、殿下の親しいオトモダチなんて、全く知らなくて」

「友達じゃなくて恋人!」


そこも詳しく突っ込むと、話が長くなるので割愛。というか無視。

わたしに都合がいいように話をもって行く。


「交流日に王城で王太子殿下をお待ちしていても、お越し下さらないし。いらしても何時間も待たされた後なので、一言二言交わしただけでラインシュの屋敷に帰らざるを得なくて……」

「はあ? 何を言っているのよ! あたしはアンタに虐め……」


桃色頭のセリフをわたしは遮る。


「ですから。王太子殿下の個人的な交流関係など全く把握していないと言っているの。そう、恋人さんでしたのねえ。婚約者との交流として、王城でいつまでも待っていても、殿下がいらっしゃらなかったのは、婚約者だったわたくしとの約束よりも、恋人さんとのデートを優先していたのねぇ。知らなかったわあ」


にこにこの微笑みのまま、アントン王太子殿下を見つめます。


「あら? 王太子殿下。恋人さんがいらっしゃったのなら、わざわざ今日この日まで待たずとも、わたくしとの婚約など、さっさと破棄したほうがよろしかったのでは?」

「は? な、何だと⁉」

「わたくし、婚約など、破棄したくて破棄したくて破棄したくて破棄したくて破棄したくて。半年も前に破棄申請をしていたのに、破棄できずに、ずーっとこの日を待っていたのですよ。わたくし、一刻も早く殿下と縁を切りたくて。なのに無意味に半年も待たされて」


繰り返す。破棄破棄と、何回でも繰り返してやる。

半年前から待っていたのだとも強調。

もちろんわざとよ!


「恋人さんだって、待っていたのでしょう? 早くわたくしと殿下の婚約が破棄になって、あなたが正式に次のアントン王太子殿下の婚約者として大勢から認められる日を」


さーって、サクサク進めましょー。


「わざわざ、卒業パーティなどで婚約破棄宣言などしなくても、半年前に、もう、既に、婚約破棄の準備は整っておりまして、書類もこの通り、殿下のお名前を書くのみの状態で、半年、ず――――――――っと! 待機をっ! していたのです!」


更に繰りかえす。


「ああ、虐めというのは半年待たされたことを指すのかしら? でもねえ、わたくしが指示して無意味に半年間を待たせたわけではないのよ。卒業パーティの場で婚約破棄を叫びたいというのはアントン王太子殿下のご希望なの」


わたしのせいではありませーんってね!


「だから、責めるなら、アントン王太子殿下を。あなたもいつまで経ってもアントン王太子殿下の正式な婚約者ではなく、不安定な恋人なとどいう立場で。きっとお心は複雑だったわよね? 早く正式な婚約者になりたいって」

「あ、あたしは……」


はい、ヒロインの言葉など、ぶった切りますよ!


「いいのよ。分かりますわ。恋人なんて、いつ捨てられるかもわからない不安定さ。一時的な関係ではないのか。弄ばれているだけではないのか。そんな不安をお持ちだったのでしょう?」


同情いたしますわーってね!


「早くわたくしと殿下の婚約など破棄して、自分との婚約を結び直してほしい。せめて、国王陛下や王妃様にお会いして、アントン王太子殿下の次の婚約者として認められたい。そんな不安と焦りと心痛」


分かりますわーっと、理解を示す……フリをする。さて、この流れであれば、用意していた『キーワード』をもう言っても大丈夫そうね。うん、よし! 


「きっと、あなたは不安と焦りに苛まれ過ぎたのねえ。アントン王太子殿下ともほとんど交流もしていない、あなた様とも会話したことない、しかも王都にもおらず、貴族学院も休学して、ラインシュ侯爵領にて過ごしていたこのわたくしに虐められたなんて『被害妄想』さえ口にするとは……。かわいそうねえ、あなた」


そう、被害妄想。

婚約破棄の書類にサインをもらって、サクッと終了してくれればよかったんだけど。

ぎゃあぎゃあうるさく冤罪にかけようとするならば……推定ヒロインちゃんもアントン王太子殿下も、言っていることはすべて 『妄想』ですよね……って言ってやるつもりだったのよ。


だって、わたしが虐めをしたなんて事実もないし、物的証拠もない。

ラノベやアニメのセオリーに則って、ナイフで切られたドレスとか、池に落とされた教科書とかを用意されるかもしれないとは思ったけど。


わたしが行ったという証拠ではないからね。


まあ、だから、何を言われても、何を証拠とされても、仮に証人を連れてこられても。


それ、みーんな、桃色頭ちゃんと王太子殿下の妄想でーっす!


「も、妄想なんかじゃあないわ! ちゃんと……」


証拠があるとでも言うつもりだったのかな?

でも、桃色頭ちゃん、言えずに口をはくはくと動かすのみ。


んんん? 何だろう? えーと?

桃色頭ちゃんは、ちらと後ろを見た。これまで推定ヒロインちゃんと王太子殿下の後ろに立っていただけの取り巻きさんたちかな?


その中の一人、紫色の髪をした令息が、卒業パーティの場だというのに、何故だか使い込んだ感のあるノートを持っている。

名前は知らないけれど、彼、王太子殿下の側近……かしらね?


「あの、殿下の後ろの紫色の髪のご令息。そのノートは何かしら?」


わざとらしく指摘する。

ヒロインが悪役令嬢に破かれたノート……とか、池に投げ捨てられたノート……とかではないわよね? でも何らかの証拠物件? 

そうでもないと、卒業パーティの場でノートなんて持参しないわよね?


「あ、あの、その、これは……。ヘレンの日記です……」


しどろもどろになって答える紫頭。


「まあっ! 日記! どうしてそんなものを? パーティの場で、学院生活を振り返って、懐かしむためにお持ちになったの?」


わたくしはコトンと首を傾ける。もちろんわざとだけどね!


「思い出を語るのには日記があったほうが分かりやすいものね!」

「そ、そそそそそうなんです……」


紫頭の令息がどもった。汗もかいているし……。まだ寒さの残る時期なのに。


「あら? もしかして……それって……『妄想日記』なのかしら?」

「はあ⁉」

「いえ……、この半年間、妄想に至るまで心痛だったのでしょう? ですから、その妄想と心痛を、そのノートに書き留めていた……。如何につらかったのか、妄想に至るまでの辛さを……、殿下にご理解いただきたくて、日記をお書きになったのかと思ったのよ!」

「違いますっ! これは、この日記は、実際にあなたにあたしがいじめられた記録……」

「では、検証してみましょう」


せっかくなので、利用させてもらいますー!


「はい?」

「わたくしが、いつ、どこにいて、どんなことをしていたのか。先ほど申し上げましたわよね。わたくし、ラインシュ領にて、複数回、新聞記者からのインタビューを受けております。そして、その記事は既に新聞となり、我が国の国内で販売済み。しかも、ラインシュ領では王姉殿下と一緒に半年という期間を過ごしております。わたくしが半年間、王都に居なかったことは公的に証明できるのです!」


そして、にっこりと笑う。


「ラインシュ領から半年間出ていないわたくしが、その『妄想日記』の中でどう描かれているのか、事実とどれだけ異なるのか。実際に見比べてみましょう!」


素晴らしい小道具を用意してくれてありがとう桃色頭ちゃん!

でもそれ自爆案件よー! 墓穴掘りよー!

ほーっほっほっほ……なんて、思わず悪役令嬢的に高笑いしそうになりましたわ! 

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