第28話 退路を断っちゃおう!
「……王姉殿下? 王都に居なかった……?」
「ええ! ガブリエラ王姉殿下はこの半年間、我がラインシュ領にてご滞在いただきました。わたくしがこの半年間、ラインシュ領から出ていないことは、王姉殿下が保証してくださいますわ!」
ふっふっふ。
ちゃーんと王姉殿下にはお願いしておりますもんねー!
さ、でも、もっと退路を断っちゃおう!
「それからわたくし、領地で麦茶などの研究をしておりましたので! その研究もすべてラインシュ領で行いまして! 研究成果に関しては、ペガサスで空を飛びながら、各地にビラを巻きつつやってきましたので! 実は、事前に王都入りしていたということは全くございませんよ! わたしがペガサスに乗り、空からビラを巻く姿を自分の目で見ていた平民、貴族の皆様は多数います」
「んぎぎぎぎぎぎっ!」
「それとですねー、わたくし、この半年間で、新聞社からのインタビューを複数回、多岐にわたって受けているんです! この会場内の皆様、当然新聞をお読みの方も多いでしょう! わたくしのインタビューはその新聞の記事になっているのです!」
まあねー、アントン王太子殿下は新聞なんて読んではいないでしょうけどねー。桃色頭も読まないっぽいしねー。
「婚約の経緯も、その婚約はラインシュ侯爵家側に拒否権はなかったことも、十歳のときから長きにわたる婚約期間に、わたくし、トリクシー王太子殿下との交流で、どれほど辛酸を舐めさせられたのか。王太子殿下がわたくしに向かって怒鳴った暴言、婚約者であるわたくしを蔑ろにして、平民上がりの男爵令嬢ヘレン・フォン・シュルツと懇意にしたこと。ヘレン・フォン・シュルツへ対し王太子殿下が贈ったプレゼント
一覧、金額、購入、購入店の帳簿の写し……。すべて、金額の端数に至るまで、明記し、新聞記事に掲載していただいておりますわ!」
「な、なにぃっ!」
卒業パーティにご参加の生徒さんたちや保護者たちも、ああそういえばそんな記事読みましたわねー的な顔で、うんうんと頷いている。よし!
「だから、わたくし、殿下との婚約なんて、とっとと破棄したかったんですよ! なのにわざわざ半年も待たされて! ほんと時間の無駄! 婚約破棄することは半年も前に陛下の許可も取っているんだから、さっさと名前を書いてくださいませね! わずか一行、名前を書くだけで、わたくしとあなた様は他人に戻りますわ!」
ふんがーっ!
ここまで言って、冤罪かけられるものなら言ってみろ!
と思ったのに……。
「ふざけるなー!」
とか、王太子が逆上して騒ぐから……、わたしはわざとらしく、ため息を吐く。
「ふざけていません、真面目に、さっさと、婚約を破棄したいんです! 名前くらいとっとと書けますよね? それともご自分の名前も書けないんですか?」
「馬鹿にするなっ! 名前くらい当然書ける!」
「では、ペンをどうぞ。書類はこちら。名前を書く位置は、ここですよ」
わざとらしく指をさして差し上げます。
「んぎぎぎぎぎぎっ! 書類を寄越せっ!」
ものすごーく汚い字ですが。
大勢の貴族の前で、書いてもらいましたからね! 目撃者はたくさんいるということで、はい、婚約破棄、成立……は、この書類を国王陛下に提出してご捺印いただかないといけないんだけど。
「ナイジェル様、エリン。この婚約破棄届をガブリエラ王姉殿下の元へ届けてくれる? ガブリエラ王姉殿下から国王陛下にお渡しして、承認を得るということは、もう既にご承諾いただいているから」
いろいろねー、手はずは整えていたんですよ、暇だったから。
ガブリエラ王姉殿下もわたしの味方になってくれました!
うん、コーン茶とコーンのヒゲ茶が効いたかなー?
ロズヴィータお義姉様がガブリエラ王姉殿下に温めたコーン茶をお勧めして、むくみ解消、美肌に加えて便秘解消されたとかとかとか。あっはっは!
ふと作り方を漏らして、あとはロズヴィータお義姉様が研究してくださって……なんだけど。
わたしの功績みたいに思って下さっているからね!
御礼に……って感じで、わたしの婚約破棄も、賛同してくださっております。
持つべきものは権力者の味方!
国王陛下よりお強い王姉殿下万歳!
お茶漬け研究一段落したら。美肌や美容研究もしちゃおうかな?
御礼的に……。
ふっふっふ……と、笑みでも浮かべたくなるけれど、まだ婚約破棄届にサインをもらっただけ。
あとは、締めて、とっとと撤収しないとねー。
「それでは王太子殿下、これでご縁が切れますが、あとはどうぞご勝手に!」
わたしは、美しい淑女の礼を披露します。
「ああ、そうそう。言い忘れておりましたけど、できもしない冤罪……たとえば、この半年間、わたくしが貴族学院を休学して領地に籠っていたのに、そちらの可憐な桃色髪の女生徒を虐めただの、ノートを破っただの、階段から突き落としただの、物理的に不可能な冤罪を告げるおつもりでしたら、お覚悟をしてくださいませね? 証拠はもちろん提出していたただきますし、証人が嘘の証言をするのであれば、徹底的に、こちらも調べさせていただきます。冤罪ということが証明されれば、容赦なく、その罪を償っていただきますわよ?」
わたしの言葉に、顔を青ざめさせた令嬢が数人。令息も数人。そろそろと後ずさっておりますねえ……。ついでに睨んでおこうっと!
「王太子殿下のご命令で断れなかったとかの言い訳は聞きません。わたくしを冤罪で陥れるおつもりなのでしたら、親族一同ごと没落する程度の報復はされると思っておいてくださいね」
こっちは侯爵家だぞ? しかも王姉殿下という味方もいるんだぞ?
あとは言わなくても……わかるな? でございますわよ!
さ、これで悪役令嬢の役目は果たしたぞ……と言いたいところだったのにいいいいい。




