第27話 お待たせさせられました、婚約破棄です!
さて、久しぶりに貴族学院に向かいます。
王太子殿下からのエスコートも当然ないし、婚約者へと贈られるドレスとかも全くないでございますよ! ドレスなんてもらっても、いらないケドね!
とりあえず、エスコート役はお父様。
更に付き添いのギュンターお兄様。
それから、執事に扮したナイジェル様と、もちろんわたしの侍女のエリンもいるわよー。
皆でぞろぞろと卒業パーティの会場へと向かいます。
絢爛豪華なシャンデリアに、床には赤いカーペット。城の大広間とそん色ないくらいに豪華で広いダンスホールには、もう既に卒業生たちやその保護者達が大勢待機をしていた。
で……、そのホールの中央に仁王立ちかってくらいにエラソーに立っているのがアントン・フォン・ブラウンシュヴァイク=リューネブルク王太子ね。燃えるような緋色の髪と瞳だからってわけではなく、そのエラソーさ加減が超目立つ。
そして、はい、お約束!
今か今かと婚約破棄宣言を待ち構えているアントン王太子の右腕には、あたしこそがヒロインよ! とか言わんばかりの桃色頭の可憐なるご令嬢がしがみ付いている。
えーと……なんだったかな、彼女の名前。
ちょっと待って思い出すから……。
とか思っている間に、始まっちゃいました!
「トリクシー・フォン・ラインシュ! キサマのような心貧しき女はこの俺様の婚約者に相応しくない! キサマと婚約は破棄だ!」
宣言に、わたしは間髪を入れずに答える。
「はい! ようやくですね! 準備はできておりますので、こちらの婚約破棄届にサインを願います!」
執事に扮したナイジェル様が鞄の中から、あとは王太子の名前さえ書けばいい状態になっている婚約破棄届を取り出し、恭しく王太子に差し出す。
その横で、エリンはインク壺とペンを構えて持っております。完璧です!
「わたくし、トリクシー・フォン・ラインシュが、アントン王太子殿下との婚約破棄をしたいと、父であるラインシュ侯爵を通して、国王陛下へと申し出たのは、今から半年前の秋のことでございました。婚約など即座に破棄したい! そう願出でましたが、陛下からのお返事は『婚約の破棄は承諾するが、破棄するのは貴族学院の卒業パーティでとなる。半年待て』とのことでございました」
アントン王太子が、幾度か口を挟みかけましたが、そこはそれ、わたしの側にはギュンターお兄様とナイジェル様という魔法使いがついている。
わたしがべらべら喋り終わる前まで、アントン王太子のお口はチャックだ! コッソリと魔法発動ね!
「どうして即座に婚約を破棄せず、半年も後の卒業パーティまで待たなくてはならないのか……。理由は『王太子殿下が、卒業パーティで、婚約破棄を、叫びたいから!』とのことでございましたので、それではと、わたくしは半年間領地に籠り、時の経過を待ちました」
小麦や大麦の穂が金色に輝いている風景を見ながら、わたくしは王都からラインシュ侯爵と向かったのよねー。
「ということで、殿下。『王太子殿下が、卒業パーティで、婚約破棄を、叫びたいから!』婚約を破棄するのは半年待て、と言われたとおりにわたくしは待ちました。もう叫ばれたので、気はお済になりましたよね? ですので、こちらの婚約破棄届にとっととサインを! もう殿下の名前を書いていただければよいように、すべて整えておりますので!」
さあ書け! やれ書け! とっとと書け!
ナイジェル様がにこにことした笑みを浮かべて婚約破棄の書類を差し出します。
エリンも、ペンを「どうぞ」とばかりに突き出します。
「サインさえいただければ、あとはこちらで書類は提出させていただきますので、皆様、心おきなく卒業パーティをお楽しみくださいませ」
こちらの要求をサク――――――――っと述べますよ!
だって、断罪だのなんだの余計なことを言われて、長引かせたくないんだもの。
さっさと終わらせて、お茶漬け食べたいのよー!
書類とペンを突き出されたアントン王太子は、自分の予定通りに物事が進まないのが不快なのか「んぎぎぎぎぎっ! キサマ!」とか、訳の分からない言葉を発しています。
「こちらは半年も待たされているのですから、さっさとお書きくださいませ?」
不敬を承知で、わたしが言えば、アントン王太子は「ギロリ」とわたしを睨みます。
「それとも、婚約破棄を宣言しただけでは足りませんか? わたしを冤罪に落としてしまわないと気が済まないとか?」
ふふん! どうせ、あることないこと証拠もないのに「わたしが悪い」とかいうおつもりだったんでしょうけどねー。
先にわたしが言っちゃうモンねー。
今から、王太子が、わたしに、難癖をつけるのは、す・べ・て! 根拠のない冤罪ですよーん!
「ええええええ冤罪などではないっ! トリクシー・フォン・ラインシュっ! キサマは嫉妬にかられ、この俺様が愛するこの可憐なヘレン・フォン・シュルツに惨い虐めを行った!」
あ、そうそう、桃色頭の男爵令嬢ってば、そんな名前だったっけ。
「いつ、どこで、わたしが、そちらの方を、虐めたというのですか? わたくしは、秋から今まで約半年間、王都にはおらず、我がラインシュ領にて王姉殿下と共に過ごしていたというのに」
さあ、言えるものなら言ってごらん!




