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転生悪役令嬢はお茶漬けが食べたい【長編版】  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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第17話 改めまして、自己紹介


「塩漬けアンズーが本当に梅干しに似ているのか、すぐさま実験をしたいところだが……」

「時期的に無理でございますね」


更に今は秋。冬に向かいつつある季節だ。梅……もとい、アンズーの実はきっと初夏だろう。


「そうっ! そうなんだよ! アンズーの収穫時期は初夏でね」


やはり。小麦や大麦の収穫時期が秋なのだから、日本とブラウンシュヴァイク=リューネブルク王国で、農作物の収穫時期に、大きな差はない。確定。


「半年後……。ですが、その間に赤シソに似た葉があるかどうかの研究もしないといけませんし、半年などきっとあっという間ですわ」

「ああああシソ! 確かにっ! シソがなければ、梅干しの赤い色がないっ!」

「未だどこを探せばいいのか見当もつきませんが。バジルがシソに似た風味になると転生前の書物で見た記憶があるので……。赤いバジルもあれば……。もしくは着色するか……」

「要検討というところだな! シソは今後の課題として、アンズーだけは確保せねば。来年の収穫時期の前に、トリクシー嬢の手元にアンズーが届くように伝えよう」

「ありがとうござます! ぜひお願いしたいですわ!」


わたしとナイジェル様が梅干し談議に盛り上がっていたら。


「あーのー。ナイジェル先輩もトリクシーも、その……、ずいぶんと意気投合してるけど……。話の内容が、俺には全く理解できないんだけどさー」


ギュンターお兄様が所在無さげにぼそりと告げてきました。


わたしとナイジェル様ははっとして、それからナイジェル様は掴んでいたわたしの手をパッと放しました。


「すすすすすすすまないっ! ご令嬢の手を勝手に……!」

「い、いいえ! 大丈夫ですわっ!」

「とにかく二人とも、座ったらー?」


ギュンターお兄様に言われて、慌ててソファに座ります。


そこへタイミングよくというか、おかわりのお茶漬けが運ばれてきて、ナイジェル様は「ありがとう!」と使用人に礼を言って、またお茶漬けをかっこまれました。


「はー……、生き返るこの味……。でも、これ……、米?」

「いいえ。大麦を代用いたしました」

「ああ、大麦……」

「ですので冷やし麦茶漬けにはこれでもいいのですが、やはり、あったか茶漬けに大麦はちょっとばかり違うのでは……と思われまして」


わたしの語りにナイジェル様が「うんうん」と頷かれます。

ちなみにギュンターお兄様は「何を言っているのか分からないよー」というお顔ですが、口を放むことなく静かにしてくださっています。

ゴメンねギュンターお兄様。

わたし、今、お茶漬け愛の賛同者が見つかって、ちょっとばかり浮かれているの。お兄様放置でホントごめん!

お兄様より今はお米様を語りたいいいいいいい!


「お米様に出会いたい。この国に米がないのなら、他国に行ってでも。そうしていつかきっと、炊き立てほかほかの銀シャリ様に巡り合い、出汁もしくは熱いほうじ茶をかけたお茶漬けを心行くまで堪能したい……!」


神に祈りを捧げるように、両手を胸の前で組み、頭を垂れて祈ります。


「わかるっ! 分かるぞ、トリクシー嬢!」 


ギュンター様も力説されました。


「やはり日本人の心は……」

「炊き立てご飯からのお茶漬け!」

「その通りだっ!」


鼻息荒く、意気投合。がっしりと手と手を組み合わせます。

素晴らしい出会いに感謝です!


「ねーってばさー、ニーホンジーンって何なんだいー?」


ギュンターお兄様が足をプラプラさせながら聞いてきます。あー……、お兄様を放置しすぎてご機嫌が……斜めになりつつある……かも……。


「すみません、ギュンターお兄様。その……実は、わたくしには生まれる前、日本という異国で生きて過ごした記憶がありまして……」

「はあ⁉」

「このお茶漬けも、その世界のごく普通の食べ物でして。だから、わたくし、どうしても食べたくて……」

「ほへ⁉」


何を言われたのか分からないよ! というお顔で、ギュンターお兄様が呆気に取られております。


「ギュンター、日本という異国の記憶はこの私にもあるのだ」

「へ? ナイジェル先輩?」

「この今の私、ナイジェル・キースとしての生を受ける前、日本という国で、私は武藤省吾をいう名で過ごしていた……」

「ムトーショーゴ……」


ちなみに漢字ではこう書くと、右の指で、左の掌に書き示してくれた。

こんなふうに漢字をすらすら書けるとは、やはり、元日本人。


んー……、武藤省吾さんね。知らない名前だなあ。

転生日本人という共通項はあったとはいえ、向こうの世界で知り合いではなかったかー。

さすがに転生前から知り合いですなんて言ったら異世界転生悪役令嬢物ではなくて、異世界恋愛になっちゃうかなー……なんて、あっはっは。戯言ですわ。


前世で運悪く死に別れた二人、生まれ変わったら今度こそ一緒に……なんて、壮大な恋愛ドラマにお茶漬けなんて小道具は出てこないよー、あっはっは。ラブロマンスなのに小道具がコメディ? 人情ドラマ? お茶漬けが結ぶ愛? 妄想し過ぎーわっはっは!


思わず転生前に読んだたくさんの小説なんかを思い出して、くすりと笑ってしまったわたしだったのだけど……。


「そういえば……。トリクシー嬢は……」

「失礼いたしました。わたくし、トリクシー・フォン・ラインシュ。生まれる前の日本人としての名は鳥居クミと申します」

「えっ⁉」


ナイジェル様が驚きの声を上げました。あ、あれ? ナイジェル様どうしたの?

まさか、知り合い?

そんなわけないのにねえ?


だって、わたしの……鳥居クミの記憶に武藤省吾さんなんて名前、ないよ?

なんて、思っても、鳥居クミの記憶を全部覚えているわけじゃないしなあ……。お茶漬け食べたい。その思いが強すぎて、家族がどうとか、仕事がどうだったなんかよりも、読んだ小説やテレビで見たニュース番組や料理番組、ネットのレシピ何かのほうが強く印象に残っている。

んー……、あんまり交流のなかったクラスメイトとか……だったりしたかなあ? 小学校の頃の同級生とか、ほとんど覚えていないし。


首を傾げながら、ナイジェル様を見る。すると、ナイジェル様のお体は震えておりました。え、えええええ? どうしたの???


「ほ、本当に……、あなたが、あの、鳥居クミさん……」


あのって、なんだ? あのって。 わたし、鳥居クミは有名人なんかじゃないぞ? ごくフツーの一般人。

学校で表彰とかもされたこともなければ、インタビューとか受けたこともない。

ごくフツーに学生をして、ごくフツーに社会人をして。

ただそれだけの人生だった……はず。


「えーと? ご存じで?」


思い至らないので、本人に直接確認したほうが高い。


「転生前、わたしたち、知り合いではなかったと思いますが……」


ナイジェル様は、大きく頷く。


「知り合いではないです。というか、出会たのはほんのわずかな時間で……。ですが、鳥居クミさん、あなたは私の命の恩人なのです!」

「へ?」



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