第16話 確信……!
ガブリエラ王姉殿下とロズヴィータお義姉様は母娘水入らずでお話するということでしたので、わたしたちもそれぞれに過ごすことにした。
で……、もちろんわたしはギュンターお兄様にナイジェル様をご紹介願いたい……とね。
でも、ナイジェル様も客間でいったんご休憩いただいたり、ギュンターお兄様と積もる話があったり……。
とにかく、いきなり初対面同士の未婚の男女が二人でお話なんて無理な貴族社会。
色々手順とか段階とかを踏まねばならぬのだ。
だから、その間でわたしはとある準備をすることにした。
わたしがナイジェル様にお願いしたいことと関係があるし、更にコレで、ナイジェル様が日本人転生者かどうかがきっとわかる……。
使用人たちに指示を出して、というか、お願いをして。
それからわたしは自室で待機。
待つことしばし。使用人がわたしを呼びに来てくれた。そしてエリンを伴ってサロンに向かう。
サロンでは既にソファでくつろいでいるギュンターお兄様とナイジェル様がいた。
わたしは部屋に入って、すっと淑女の礼をとる。
「改めまして、トリクシー・フォン・ラインシュでございます。トリクシーとお呼びくださいませ」
「ナイジェル・キースです。先ほども言った通り、私は平民のようなものですから、そのようにされなくても構いませんよ」
「いいえ。わたくしのわがままでナイジェル様をお呼びしたようなものですから……」
「私は王宮から魔法省を通して王姉殿下をこちらに送るという仕事を申し付けられましたから、ついでと言えばついでです」
貴族としての儀礼アンド挨拶大会ではあるんだけど、お礼を言いたいのは本心からである。
さて、挨拶大会は終わったので、そろそろ本題に入れますか……。
「ええと、率直にお聞きしますが、トリクシー嬢は私に何か聞きたいことがあるとか……」
「はい。それを申し上げる前に、ひとつ、食していただきたいものがあるのです」
「食して……」
「ただいまお持ちいたします。あ、毒や体に悪い成分のものは、もちろん入ってはおりません。ご不安でしたら鑑定魔法持ちの侍女に確認させますが」
壁の側で控えているわたしの侍女、エリンは毒などの判定ができることを告げた。
「いや……、毒なんてないだろうことは信頼できるけど。ギュンターの妹君だし……」
「ありがとうございます。では、お持ちいたしますね」
わたしはエリンに目配せをする。エリンは頷いて、ドアを開けた。廊下では別の使用人が待機している。料理場にすばやく指示を出すだろう。
そして、少し待って、それがワゴンに乗せられて入ってきた。
給仕の者が、ギュンターお兄様とナイジェル様の前にそれを配膳する。
テーブルに置かれたスープカップの中に入ったもの。そして横に置かれたスプーン。
「ギュンターお兄様、ナイジェル様。まずは召し上がってくださいませ」
ギュンターお兄様は興味津々でスープカップの中をじっと見る。
「何かの穀物の粒みたいなのと、茶色いスープ? 上に載っているのは野菜を刻んだものかな?」
「はい。先日わたくしが開発した……」
わたしの言葉を遮るように、ナイジェル様が叫んだ。
「こ、こ、こここここれは! まさかお茶漬けかっ⁉」
「はい。冷やし麦茶漬けでございます」
ナイジェル様の目が「カッ!」と見開かれます。そして、ガシッとスプーンを掴み、「うおおおおおお!」という勢いで、冷やし麦茶漬けを口にかっ込んでいかれます。
は、早い、早い、早い!
ギュンターお兄様が「ヒヤシムーギチャーヅケー?」と首をかしげている間に、がががががががっと食べ終わりました! 早い!
「すまないがトリクシー嬢、冷やし麦茶漬けのおかわりを所望しても構わないだろうか⁉」
「もちろんでございますわ」
わたしは頷いて、そしてやはりと思う。
お父様やお兄様たちは麦茶をムーギチャというように、日本語の単語の一部分を伸ばして発音する。そういうふうに聞き取れているんだろう。外国語を聞き取る時って、そんな感じだよねえ。
でもナイジェル様はきちんと冷やし麦茶漬けと発音した。
だけど、たまたま耳が良くて、聞き取りが上手いという可能性もあるので……。駄目押しに聞く。
「ナイジェル様。冷やし麦茶漬けは夏には良きものですが、これはまだわたくしの研究途中で、足りない食材があるのです」
「足りない? これでも十分だと思うが」
「いいえ。足りません。日本人の心の食材のうちの一つ。あの酸っぱくも懐かしい梅干しの味がこの冷やし茶漬けに加われば……」
「梅干しっ! 確かに! 梅が加われば、最強最高の冷やし茶漬けの完成だ!」
この納得度。
やはりあなたは日本人転生者……と確認する前に、大事なことを告げる。
「梅干しを完成させたい。この冷やし茶漬けを更なる高みに上らせたい!」
「だが、この世界には梅はない……」
「そう、ないのです。ですが、ナイジェル様がギュンター兄様にお渡ししたアンズと思しきお酒……。あれを見た時にわたしは閃きましたっ! 梅もアンズもアプリコットもっ! 比較的近い果実です! 熟したアンズを酒に投入するのではなく、熟す前のまだ硬い実を、塩漬けにすれば、梅干しに近い何かができるのではないかと……!」
ナイジェル様はスプーンを置いて立ち上がりました。そして、わたしの側にやって来て、わたしの両手を掴みました。
「トリクシー嬢っ! 君は天才かっ!」
いえ、単なるお茶漬け愛好家です。
「あの酒は私の故郷で作っているモノだが、今の今まで梅に近い、もしくは梅干しになる可能性がある果実だとは全く認識していなかった!」
ぎゅうううううううっと強く握られるわたしの両手。
「ナイジェル様、あの果実は梅に似ていると思うのですか、いかがでしょう?」
「熟したアンズーは甘くて……、だが、熟す前なら……、更に塩漬けにすれば、まさに梅干し……。イカン、想像するだけで口の中に唾液が……」
梅干しを思い浮かべるだけで、口の中に唾液が湧き上がるのは、梅干しを食したことがある者のみ!
やはりあなたは日本人転生者……!
わたしは確信をしました。




