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転生悪役令嬢はお茶漬けが食べたい【長編版】  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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第14話 妖精は通信魔法で、空飛ぶ馬は……

確かにロズヴィータお義姉様は言いました。

「母は飛んできてくださるでしょう」と……。

でも、まさか、マジで飛んでくるなんて……!


何を言っているのかと思うでしょうが、起きたことをありのままにお話ししますわ……。


まず、ロズヴィータお義姉様がお手紙を書いた当日に、最強女神様からのお返事がやってきました。


当日に!

お返事が!

マジですかー⁉ 

現代日本のインターネットの高速通信とかじゃないんですよ?

ギュンターお兄様の魔法、すごい!


でもいくら魔法でも、一国の北側の領地と西南方面に位置する王都との通信……。

魔法でも一瞬じゃ無理でしょう? 飛行機飛ばすくらいのお時間はかかるのでは?

もっと早い?


まあ、とりあえず、白ヤギさんからお手紙ついて、黒ヤギさんったら即座に返事……は、魔法のある世界だから、通信魔法だからと納得はしよう。


だけど、王姉殿下が乗った馬車がリアルに飛んでくるとかアリなの⁉


あ、あああ……、淑女らしからぬ叫びを上げてしまったわ……。いや、鳥居クミの、転生前の記憶を取り戻してから、ぞんざいな言葉を使ったり、お嬢様言葉を使ったりと口調が整いませんが……。


それはともかく。

ええと、ですね。

わたしがラインシュ侯爵領に帰ってきたときは、敢えて船ではなく馬車を使った。

お茶漬けに役立つ農作物を見たかったからね!

そのおかげで大麦発見に至ったけど、それは置いておいて。

馬車ではものすごい日数がかかる距離なのよ。

船を使って川を遡上したとしても、一週間かそこらでは辿り着かないんですよ。


それなのに……。


「三日後には到着するってさー」と、ギュンターお兄様がへらりと言った。


「え、えええええ⁉ 三日後おおおおお⁉」


どゆこと???

出発の準備に三日かかるじゃなくて、三日で着く???


わたしは混乱した。


ギュンターお兄様の耳の側では、半透明で背中に羽のついた妖精みたいな女の子がパクパクと口を動かして何かを話しているようです。

本物の妖精ではなく、これがきっとギュンターお兄様の通信魔法の一種なのでしょう……。


「あー、うんはいはい、了解ですー」


通信の相手が誰だかは分からないけど、ギュンターお兄様は半透明の妖精さんみたいな女の子の言葉に頷いて。

そうして、更に二言三言、妖精さんと言葉を交わした後、その妖精さんの姿がふっと消えた。魔法での通信が終了したということだろうか。


「ナイジェル先輩のペガサスで、王姉殿下の乗った馬車を引いてくるって~。だからすんごい早いだよー」

「ペガサス⁉」


え、え、え? 

ここに、この世界にそんな生き物が居たの?

ペガサスってあれでしょ?

ギリシャ神話に登場する伝説の馬。鳥の翼を持ち空を飛ぶことができる馬って……。


「うん。ナイジェル先輩魔法。すごいよー。馬に大きな翼を生やして、空を飛ぶんだー」


すごいよーって言ったギュンターお兄様の顔は自慢げに笑っていた。


わたしは、すごい魔法に驚いたんじゃなくて、この世界にペガサスなんて名称の空飛ぶ馬がいることに驚いたんだけど。


だって、当然だけど、転生前の世界とこの世界は違う。

ブランデーとかワインって言葉はあっちもこっちも同じ名前だけど。

トウモロコシって言葉はないけどコーンって言葉はあったり。

麦茶はなくて、発音してもムーギチャになったり。

共通項、異なること、様々だけど。


魔法で作った空飛ぶ馬の名前がペガサスって、なんか気になる。


だって少なくともブラウンシュヴァイク=リューネブルク王国や近隣諸国には空を飛ぶ馬なんていない。空を飛ぶのは鳥くらい。遠くの……かなり遠くの他国では、ドラゴンがいるとか何とか聞いたことはあるけれど、少なくとも我が国ではドラゴンはいないし、ガーゴイルとか空飛ぶ魔物はいない。


伝説的な物語でも空を飛ぶ馬なんて登場しない。


そもそもギリシャ神話の空飛ぶ馬がペガサス……っていう話がこちらの世界にあるわけはないし。

だったら、どうしてナイジェル先輩とやらは空飛ぶ馬の名前をペガサスにしたんだろう?

たまたま偶然の一致?

それとも……。


「ギュンターお兄様。空飛ぶ馬の名前がどうしてペガサスというのですか? ブラウンシュヴァイク=リューネブルク王国や他国で空飛ぶ馬の名前がペガサスという物語でもあるのでしょうか……?」

「いやー? そういう物語とかは聞いたことはないなあ……。そもそも馬が空を飛ぶって発想がないしー」


それはそうだ。

転生前の世界では、神話があるから「馬だって空を飛ぶ」って発想はある。ファンタジー的な物語でもしばしば馬は空を飛ぶ。


だけど、この世界にはそんな発想は……ない、よね? わたしが知らないだけかしら?


「ナイジェル先輩はねー、魔法学校に通っていた学生の時からねー、空を自由に~飛びたいな~って歌ってて……」


え、えええええ⁉

そ、そのフレーズは……。ほとんどの日本人は知っている未来から来た猫型ロボットのアニメの主題歌では……!


「飛ぶ研究をして作り上げたのが、鳥の翼が背中についている馬なんだよねー。だから、ナイジェル先輩独自の魔法だと思うよー。名前もカッコよさそうなのをテキトウにつけたんじゃないかなー?」


こ、これは……まさか……。まさかとは思うけど、ナイジェル先輩とやらも……日本人転生者では?


だって、わたしがトラック転生なんてしたくらいだ。

この世界に、ブラウンシュヴァイク=リューネブルク王国に、他国でもいいけど、日本人転生者がいてもおかしくはないって思うんだけど……。


もしも、ナイジェル先輩とやらが、本当に日本人転生者だったら。


わたしはドキドキした。

日本人ならわかるよねえ、あのお米様の! 炊き立てご飯の! あのほんわりとした匂い! 米を食わせろという渇望! もしや同好の士と出会えるかも⁉


期待と不安でドキドキドキドキと、わたしは三日後の到着を待った。

待った……。

待った……。


そして、本当に、空を飛んできたガブリエラ王姉殿下とナイジェル様ご一行! 

ペガサスがひいてくる馬車!


「うわ……、あれ……」

「な、なんですのあれは……」

「マジですか……」


空を見て呆気に取られているのはわたしだけではない。


お父様、お母様、フォルカーお兄様、ロズヴィータお義姉様、ラフェド、そして我がラインシュ使用人と護衛の者たち……が、茫然とながら空を見上げる……。


「あはははははは! 相変わらずすごいなー」


ギュンターお兄様だけがお笑いになっているこの状況。


本来、客をお迎えするのは屋敷の玄関ホールでだ。

我が家の玄関ホールなんて、馬車が十台くらい入って来ても、まだ余裕があるくらい広いのよ?

でもギュンターお兄様は「ナイジェル先輩のペガサスは玄関ホールには入りきらないから」というから、屋敷の前の庭園でお越しをお待ちしていた。


……遠く、我が屋敷の前庭の更に向こうに……、門の外に広がる一本道とその道の左右に並んでいる広葉樹……の、上に、最初は豆粒くらいの何かが見えた。


その何かが近づいて来るうちに、翼のある馬が馬車をひいて、空を飛んでいる様子が見えたのね……。その姿がだんだんと大きくなって……、翼を上下に動かすバッサバッサという音も聞こえてきて……。


見えたのが、空飛ぶ白馬の優美な姿……などではなく。


超絶大きな翼をガッシガッシと動かしながら、ムキムキマッチョなお馬様たちが、何台もの馬車をひいて飛んでいたのだった……。


「あ、あ、あ、あれが、ペガサス……たち……」

「そう! すごいでしょー」


ギュンターお兄様が自慢げに胸を張ります。


何故自慢げ……。


優美な美少年が現われると思っていたら、パンツ一丁のボディビルダーが現われたというくらいの違和感がありありですよ!


何故ペガサスが筋肉ムッキムキなの⁉


そう、空飛ぶ馬は、例えるならボディビルダーの人。


ペガサスなんて優美な単語から、優雅に空を飛ぶんだろうって思っていたわたしの予想をはるかに超えるマッチョ具合。


……アレは……あの馬なら、世紀末救世主伝説に登場する身長実は十メートルを超えているだろうと漫画の画面から読み取れるような、ゴリゴリの筋肉男を乗せて戦場を走りまわっても余裕であろう。お馬様の前足で、雑魚敵なんて踏みつぶせるに違いない……。

むきっと、歯を剥いて、ぶるるるるるるっと嘶きを上げて。十台以上の馬車、つまり、十頭以上のマッチョ馬が、空を飛んでいる……。


シュールだ。

余りにもシュールだ。


そうして、翼だけでも優に十メートルはあるであろうお馬様たちが、我が家の前庭に降り立ったのであった……。




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