第10話 いざ、冷やし麦茶漬け!
文章一部修正しました
えーと、コーン茶は……たしか、利尿作用や抗酸化作用、むくみ解消、血糖値抑制など、健康や美容に役立つ多様な効果が期待できるとかなんとかで。
我が領の平民の皆さんの健康増進にも役に立ちそうですが! そちらの事業は美容と健康に多大なる興味を持つお義姉様に一任。
わたしは、やっぱりお茶漬けが食べたいのだ!
とりあえず麦茶はできたので、お茶漬け第一弾として、冷やし麦茶漬けにまい進だ!
とすると……、次は白米の代用品としての大麦の研究をしなくてはならない。
もちろん白米と大麦は食感も味も何もかもが違う……。それは分かっている。
炊き立ての、あのっ! つやつやした白いご飯。立ち上がる湯気と香り。口に含み、噛み締めた時のほのかな甘み……。食べ物を超えたしあわせの象徴といっても過言ではないあのお米様と炊いた大麦は違う……!
麦ごはんもそれなりに美味しいとは思うけれど、個人的には、麦飯様にはすりおろした山芋に出汁を加えたものを加えたい。麦飯にはとろろがベストパートナー!
単体ではやはりお米様が圧倒的優勢……!
しかし現状は、お米様は見つかっていない。
麦飯様の秘められたポテンシャルに期待するしかないのだ!
というわけで、再び厨房をお借りした。
麦茶の成功があったからか、厨房の料理人も快く、厨房の一画を貸してくれます!
もちろん、借りるのは料理人たちが忙しくはない時間のみだけどね。
興味津々なのか、親切なのか、料理人の皆さんが、収穫後に穂先だけ切って数か月乾燥させていた大麦を用意してくれたのよ! しかも大量に!
ありがたい!
それでは早速、脱穀作業開始!
といっても、全自動脱穀機なんてあるわけはないから、当然人力です。
麦茶の時のように、この世界にある何かの道具を使うと大麦の粒が砕けるかもだから人力!
道具の改良はいつかするとして……、今、必要なものは己の手と手袋。
素手で麦の穂先を揉むと……痛いのよ。
チクチクと、とげとげと、穂先が手に刺さるのね。別に血が出るほどではないんだけどさ。
せめてゴム手袋があったら……。なんて、ないものねだりをしても仕方がないので、乗馬用の皮の手袋を手に嵌めます。
貴族の令嬢には乗馬も必須項目なので、乗馬用手袋はいっぱいあるのです。
では、手で、麦の穂先を揉み揉み揉み揉み……しましょう!
わたしが揉み揉みと、大麦の穂を揉み続けていたら、料理人さんたちが手伝うと申し出てくれた。ありがたーい!
「では、大麦の穂を十個くらい掌に乗せて」
「はい」
「手で揉み揉み……を、続けてみて下さい」
「はい!」
手伝いの皆さんにももちろん手袋を渡して、わたしと同じように脱穀してもらいました。皮手袋の良いところは脱穀と一緒に籾摺りもできちゃうところね。……人力だから、腕が痛いけど。そこは我慢よ!
「できたら、お皿とかざるに入れて」
「はい」
「もみ殻をざっくり手で取り除きます」
「分かりました」
めんどくさいよねー。でも美味しいものを作るには、めんどくさいのを乗り越えないといけないの!
「では次は、皿やざるを揺すって、フーって息を吐いて息で不要なくずを飛ばしてね」
……これを何回も繰り返すの。すると……脱穀と籾摺りがほぼ完成です!
とはいえ、このままでいきなり炊くわけにはいかない。
何故なら、今の状態は、お米様で言うと玄米状態。
ホントなら精米機にかけて、玄米状態を白米状態にしたい。
とはいえ、精米機は当然ないし、大麦一粒一粒の……、ええと、外皮っていうのか表皮っていうのかは分からないけど、とにかく薄皮? 茶色な部分を取りたい。
取りたいんだけど、一粒一粒ナイフで削ってぬか部分に当たるところを削るなんて……無理。
悩んでいたら、厨房にありました! すり鉢がっ!
玄米状態の大麦をすり鉢に入れて、布を野球のボール大に丸めたもので、すり上げてみる。すりこぎの棒でぐりぐりしてしまうと、精米を通り越してすりごまになってしまいそうだから!
はい、がんばって、すりすりすりすり。
な、なんとか、茶色っぽい玄米状態から、すこーし薄茶色の大麦になってきたよ!
「こ、こんなところでいいかしら……?」
も、もうね、淑女の細腕は疲労疲弊で、明日ぜったい筋肉痛……。
疲労困憊でも、ここで終わりではない。
ボールもしくは深めの皿に大麦を入れて、水に浸します。ゴミとかカスは水に浮いて、大麦の粒は底に沈むの。ゆっくりと数回に分けて洗い、そしてざるにあげて二日ほど天日干し。
しばし待つ間に、バッキバキになっていた腕の筋肉痛もなんとかおさまりまして……。
さあ! それでは早速大麦を炊いてみましょう!
わくわくしながら、米と同じように大麦をとぐ。更に吸水。一時間くらい吸水させてから、米と同じ水分量で炊いてみた。
……結果、失敗。
硬い! マズい!
あっちゃー……。やっぱり押し麦にしないと駄目かな……。
「……お嬢様、これでは食べるのは……」
「そうね……。硬いわね……」
捨てるのはもったいないので、野菜や肉を入れて、雑炊……リゾットにして美味しくいただきました。かなり煮込んだわよ……。
ああ、もったいない……って、リゾット!
「リゾットにしたら柔らかく食べられたのよ! ということは、大麦を炊く時の水分量が足りなかったということじゃないのかしら⁉」
米と同じ要領で大麦を炊くのがきっと間違えなのだ。
とりあえず、大麦を三時間くらい吸水させてから、米の二倍の水分量で炊いてみた。
すると……。
「あ、食べられますね」
お米のようなもっちりとした柔らかさはないけど。まだちょっと硬いし、大麦一粒一粒がなんて言うのか、引っ付いてないでぽろぽろしている感じだけど。
でも、オッケーオッケー! お米様に近づいてきたわよ! これならわざわざ押し麦にしなくても大丈夫かも!
「やっぱり水分量が違ったのね!」
「ですが、まだ少々硬いようですので……、次回試すときは二倍よりもう少し大目にしてみましょう」
試した結果、吸水四時間、水分量二倍半くらいが適量だったわ!
炊いた大麦を指でつまむと簡単には押しつぶせないくらいの弾力を感じる。ちょっとだけ食べてみたけど、芯が残る感じもない。やったわ! 押し麦にしなくても、このままイケる!
ちなみに水分量を研究する間に、野菜の塩漬けも作っておきました。カブに似た野菜と、その葉の部分を塩につけただけ。浅漬けね。ふっふっふ。抜かりなし。
さあ!
いざ、冷やし麦茶漬けよ!
わくわくしながら炊き立ての麦飯を茶碗……はないので、深めのスープボウルに盛る。その麦飯の上に刻んだ浅漬けを乗せ、用意していた冷たい麦茶を上から注ぐ……。
お箸でかっ込みたいところだけど、スプーンですくって飲むようにして食べる……。一応ご令嬢なので、お上品に……。
大麦のちょっとムチッとした食感。朝漬けの塩味とポリポリ感。そこに冷えた麦茶が合わさって……割と、美味しい。
割と。
予想以上には。
でも……足りない。
試食をした料理人のみんなは「サラサラ食べられますね」とか「暑くて食欲のないときとかにいいかもです」とか言ってはくれた。
でも……「美味しい」という言葉は出なかったわ……。
そう! 炊き立ての新米の、あの圧倒的なおいしさ! 我が前にひれ伏せ! と言わんばかりの旨さがない。
足りない……。味が、食感が、具材が足りない……。
「……焼きのりが欲しい。わさびが欲しい。白ごまが欲しい。切実に梅干しが欲しいいいいいいいいいい!」
何ということでしょう!
冷やし麦茶漬けとしては、一定の成功は収めたけど。収めたゆえに、不足があることに気が付いてしまった!
代用品としてはアリだけど、あくまで代用でしかない。これはわたしの求める真なるお茶漬けとは違う……! あ、ああああああ……。成功したことによって、更にお茶漬けへの渇望がっ! 増しに増しに増してしまったわ!
どうするわたし⁉
「海苔は……海に行かないと駄目だろうし、行ってもワカメとかジャイアントケルプとかしかなかったらどうしようだし。そもそも天然モノの海苔があるのかしら? 養殖するんじゃないかしら? だったらすぐには入手は無理だわね。ワサビ……、山に行けばあるかしら? ワサビに似たハーブはあるかもしれないけど、ミントとか入れちゃったら違う感が更に倍増……。ああ、梅干し……! この冷やし麦茶漬けに! 今ここで梅干しを投入出来たら! きっと満足感はマシマシになるはずだわ……!」
欲しい。
梅干しが欲しい。
ならば、探して作るのみ。
梅に似た実を探し、ビネガーと塩に付け込み、赤紫蘇に似た何かを探すか作って。
そうして、冷やし麦茶漬け梅干し乗せバージョンを完成させるのよ‼




