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Uranus 第六特命巡視捜査隊  作者: サロ
第2章白きシロモノ
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19/22

第17話 ふたつのナンバー

「《江東 お 12-58》」


一拍。


「本来、会っちゃいけない車同士が国道で出会ったのがーー今宵の事件の始まりってことになる」


月城さんが自前のゲーミングチェアへ深く寄り掛かりながら、そう言い切った。


第六情報捜査チーム『Hekatē(ヘカテ)』が入る地下二階フロア。


複数の大型モニターには、都内各所の監視映像や通報情報、交通網の状況が絶えず更新され続けている。


その情報の海から切り離されるように、月城さんの作業用モニターには二台の白い車両だけが映し出されていた。


一台は【WASHINO’Transport】のロゴが入った軽バン。


もう一台は、別の所有者名義で登録された白色車両。


どちらも実在する。


どちらも存在する。


なのに。


「沙与ちゃんが覚えてた前のナンバーと、廣目ちゃんが覚えてた後ろのナンバー……つまり言っちゃうと」


月城さんがモニター上の二台を順番に指差した。


「どっちも正解」


その一言に、地下二階と603号車の空気がわずかに変わる。


「なんでおんなじ国道で会っちまったのかな〜」


小言を漏らした直後。


ポテトチップス二袋目が開く音が響いた。


同時に、キーボードを叩く左手が画像を拡大する。


『……アタシ、ミスってなかったんだ』


助手席から聞こえた廣目の呟き。


『うん』


よかったね。


通話中にディスプレイ通話へ切り替えていた私のスマートフォンから、月城さんの「ロゴも似てんな」という声も流れていた。


トラックボールが転がる。


切り出し画像の前処理が終わったらしい。


これでもっと綺麗に見えるはずだ。


「こりゃ……ガチでそっくりだぞ」


パリ。


ポテトチップスを噛む音。


(マルヒの石母田が入院してくれて、こっちの煽り野郎はさぞ助かっただろう)


2099年なんて、ミリ単位の画像一枚あれば開示請求も裁判沙汰も秒で起こる世の中だ。


それが今まで出会わなかったのは、奇跡としか言いようがない。



『ヒフミさん』


お、この声は廣目ちゃん。


どした。


『もしかしてロゴってBlueな感じですか!?』


鋭いね。


流石、動体視力が飛び抜けてるだけある。


「よく走行中の車両のロゴなんか覚えてたね」


『目はいいんで〜! へへ』


この会話の合間にもトラックボールは転がり続ける。


拡大。


補正。


輪郭抽出。


白飛びしていた部分へ徐々に色が戻っていく。


「ほれ」


スマートウォッチへ送信される二枚の画像。


一枚は【WASHINO’Transport】。


もう一枚は。


『……ア』


廣目ちゃんが小さく声を漏らした。


青。


正確には紺に近い。


書体も似ている。


配置も似ている。


走行中ならまず見分けられない。


「……BlueじゃなくてNavyだけどな」


パリ。


「まぁ、十分似てる」


オレはそう言ってゲーミングチェアを一回転させた。


「似てるつーか、似せてんだよな」


金髪の前髪越しにモニターを見つめる。


この書体の出自が分かれば。


「ただ」


オレは口を開いた。


「会社名の割に綴りがおかしい。英語圏の人間が作ったロゴじゃない」


一拍。


「どう? 分かんない?」


運転席に座っているはずの十六歳へ向ける。


得意だろ。


『……え』


(あ、このトーンは聞いてなかったな)


「だから、そのロゴが何語か分かる?」


しばしの沈黙。


『……古英語を祖としたゲルマン語派じゃないでしょうか』


一拍。


『英語もその語族の中の一つですし』


パリ。


「……正解。流石だなぁ」


『授業で習わざるを得なかっただけです』


少しだけ低い返答。


「ふ〜ん……廣目ちゃん大丈夫か?

ついて来れてる?」


『いえ、母国語がゲルなんとかなの知らなかった……語族って?』


『言語のグループみたいなもん』


質問に沙与ちゃんがちゃんと答えている。そりゃ聞くわ。


「安心した」


『何がです!?』


「いや、オレだけじゃなかったんだなって」


再びポテトチップスの咀嚼音。


一拍。


「ここまで分かったし、ひとまずは東京湾岸警察署を通して確認してもらおう」


ゲーミングチェアが小さく軋む。


「これでシロなら一件落着なんだよな〜……ふぁぁ眠」


『『お疲れ様です』』


「おう。じゃ、オレは湾岸署に投げとくから。沙与ちゃん達は当番頑張れ〜」


通話が切れた。


603号車のディスプレイがアプリ表示画面へ戻る。


私はBluetoothを切った。


車内に戻るのはエンジン音と無線だけ。


さっきまで賑やかだった月城さんの声が消えると、不思議なくらい静かだった。


「……語学、得意なんだ」


廣目がぽつりと呟く。


「実習で色んなとこ行ったからね」


私は前方へ視線を向けたまま答えた。


「廣目だって英語と日本語が喋れるんだから充分だよ」


「そーかなぁ?」


廣目が首を傾げる。


「もっと喋れた方がカッコイイじゃん!」


「……その認識はなかったわ」


思わず返してしまう。


「カッコイイんだ……」


「え〜」


603号車にブレーキランプが灯る。


午前三時。


車両はゆっくりと夜の道路へ滑り出した。




『ーー石母田さん、他にも何か見たものはありますか?』


警察に尋ねられたその一言。


廊下の隅、耳を澄ますグレージュ髪の保安官がいる空間で。


夜の名残が濃いこの朝も、同じ答えを繰り返す。


「……俺、後ろを見て……」


指先が真っさらな布団を掴んだ。


言葉は出ない。


「結局、マルヒは何を見たんですかね?」


601号車。


助手席の堀宮が尋ねる。


俺は薄緑の瞳で交差点の流れを見ながら、「そうやねぇ」とボヤいた。


「警察の聴取の途中で喋るのやめちゃいましたし」


「うん」


言葉を切って左折させる。


(……あれはストレスの麻痺症状や。言葉詰まってたし)


思い出さへんってより、思い出したない感じ。


(そこまで怯えるようななんかを見たのやろか?)


着信が鳴った。


俺のや。


「堀宮、代わりに取って」


「はーい」


ウエストポーチのポケットから抜かれた銀のスマートフォン。


時刻は午前四時半を指している。


「湾岸署……なんでですか?」


「逆に俺が聞きたいわ」


発信者を二度見した堀宮が通話画面をタップした。


『ーーこんな変な時間にすみません。頼まれていたロゴの件とは別件なんですけど』


一拍。


それを聞いた堀宮が電話口を押さえ、驚いた顔を俺へ向けた。


「いやっそれは勝手に頼まれてただけよ!? ふひみ先輩が勝手に……俺の名前をつこて」


「……ホント自由すぎますね。中断してすみません。それで、なんでしょう?」


『実は』


一拍。


『マルヒである石母田の車両のドライブレコーダー、見つかりました!』


((は?))


お互いに顔を見合わせた。


疑問も口から同時に出た。


「「……どこで?」」

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