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Uranus 第六特命巡視捜査隊  作者: サロ
第2章白きシロモノ
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第16話 白い軽バン

「ーー私は運転席のあるフロントだけを覚えてて、廣目は被害者が運転してた車のバックのナンバーを覚えてた。

だから、お互いに記憶してた車が違ってたんじゃないかって」


当番勤務、後発組の休憩時間。


そう説明すると、煮え立つ深型フライパンの前に立つ快君が眉を寄せた。


「そんなこと、あり得ます?」


懐疑的な声。


その瞬間、不意にキッチンタイマーが鳴った。


「あっ、はいはい!」


タイマーを止めた快君が、深型フライパンの柄を握る。


「じゃ毘乃木先輩、ザル押さえててくださいね!」


(マジで?)


思わず一歩引く。


(マジで……この23時にうどんの湯切りする気!?)


次の瞬間。


ザバァーッ!!


勢いよく湯がシンクへ流れ落ちた。


一気に立ち上る湯気。


(……まぁ、腹が減っては戦はできぬって言うし)


「その夜食根性が凄い……熱っ!」


「先輩、湯切りは気をつけないと!

はいっ、皆さーん!! できましたよ〜!!!

だしは麺つゆと白だし、自分で割って作ってくださいねぇ〜」


「「「「はーい!」」」」


休憩室に広がる返事。


気配を察知した隊員達が、ぞろぞろと入ってくる。


「今日のうどん何ー?」


「讃岐ですね。あ、天かすありますよ!」


「おっ、やった。長ネギあるじゃん。当たり日〜!」


用意していたお椀と割り箸が、次々と減っていく。


そのうちのひとつを、岡本先輩が手に取った。


「堀宮の『あり得ます?』、実はあり得るかもしれへんわ」


((((え?))))


ほんの少し、休憩室の空気が変わる。


「……どうしてですか?」


岡本先輩の次に讃岐うどんを取ろうとしていた快君が首を傾げた。


「ほら、車ってマイナーチェンジとかで旧型と新型あるやん?

せやから、毘乃木と廣目が見たもんが、色は同じでも実は別の車やったって不思議やないねん」


ネギを掴みながら続ける。


「しかもこちとら、車内は無線やら会話やらで忙しいし。ネギいる?」


「ほしいです。あ〜、なるほど。

確かに僕達って、前見ながら周囲も注意しなきゃですし、バディとのコミュニケーションもしてるから……ズレるの自然ですね〜。

毘乃木先輩、つゆどっちですか?」


「……めんつゆ」


((((なるほど……))))


微かに空気が休憩へ戻った。


三人並んで席に着く。


手を合わせ、割り箸を割る。


でもーー私は考えてしまっていた。


603号車を煽った、あの白い車。


あれが、偽造ナンバーだったかもしれないことを。



「そうだ。ドラレコって、やっぱり持ち去られたんですかね……毘乃木先輩達、車内チェックしたんでしょう?」


皆がぼちぼち食べ終え、解散ムードになった頃。


片付けをしながら堀宮が聞いてきた。


まだ水を飲んでいた私は頷く。


「……うん。したんだけどね……」


思い起こされるのは、約二時間半前ーー。



「アタシ、ミスったってこと!?」


「ううん。そうじゃない。

恐らく、お互いに記憶の食い違いってだけ……見つけたからには、車内チェックしてみよう」


黒いウエストポーチから白手袋を引っ張り出す。


「失礼します」


断って助手席ドアへ手をかけた。


まず飛び込んできたのは、運転席側の灰色シートへ付着した血痕。


(そこで膝ついたのか……とすると、ダッシュボードに用?)


視線を動かす。


だが。


(……ハズレ。配達用の手袋に、法人の給油カードしかない)


後部座席を見る。


全部倒され、配達品置場になっていた。


「……廣目、グローブボックス見て」


「OK〜……んー、車検証? だけだね」


そっか。


じゃあ、何を取った。


膝をつくほど必死に、何を。


「あ」


正面。


スマートルームミラーの少し後ろ。


配線。


その先に、本来あるはずのーー。


「ドライブレコーダーがない」


「「確信犯じゃん」」



ーーピチョン


隣の給湯室から、水滴の落ちる音。


休憩室には、向かい合って座る私と快君しかいない。


「それは……余程見られたくない何かがあったか、映ったか」


その言葉に頷く。


「もしくは、その両方か」


こればっかりは、警察の車両解析待ち。


時計を見る。


24時36分。


(……いい加減、仮眠行こ)


席を立つ。


「電気、消しますね」


「うん」



午前一時過ぎ。


ラジオの流れる車内。


「〜♪ ……あ?」


男はハザードランプを焚いた。


路肩へ停車する白い軽バン。


ナンバープレートは《千葉 え 94-63》。


男はディスプレイオーディオへ触れる。


「ーー先日はどーも! 使えそうです?

そりゃあよかった……運んだ甲斐ありますよ!」


軽い笑い。


「あ〜……それね。ま、なんとか。正直、焦りましたけどね」


一拍。


「分かりゃしないですって。たかが人間。今頃、病院じゃないですか」


そう言って、少し身を乗り出した。


街灯が頬を照らす。


右頬。


そこに浮かぶ、四葉の蒙古斑。


「えぇ、ええ。気をつけますよ……特に保安とかいう“猫のよまわりさん”には。

あのナンバープレート、もう使うのやめた方がいいですね。目ざといから」


男が助手席を見る。


そのシートには、一枚のナンバープレートとドライブレコーダーが置かれていた。



『東京湾岸警察署から連絡あったぞ。《江東 お 12-58》は間違いなく石母田憲和ーー【WASHINO’Transport】、ワシノ運輸の登録配送車だそうだ』


情報捜査室リーダー・月城ひふみの声がリフレインする。


私は603号車へ乗り込み、慣れた手つきでエンジンをかけた。


でも、そのリフレインが止まらない。


だから。


助手席へ廣目が乗り込んできたことに気づかなかった。


「毘乃木さん?」


ビクッ。


肩が跳ねた。


(……久々)


新人時代で治ったと思っていた、この反応。


「……え。ご、ごめん」


「いや、別に驚かすつもりじゃ……」


廣目の声が少しだけ弱くなる。


私はエンジン音へ意識を逃がした。


「……ちょっと考え事を」


「ふぅん?」


納得してない声。


視界の端で、サーモンピンクがこちらを見る。


「毘乃木さんって、たまーにそういう反応するよね」


心臓が一拍だけズレた。


咄嗟に視線をフロントガラスの向こうへ逃がす。


……真正面。


601号車。


(大丈夫。岡本先輩こっち見てないし……うん。

バレてない。そう。きっとバレてない)


「密行第二弾、行こうね。仕事……仕事しないと」


独り言みたいに呟きながら、機器を指差し確認。


マイクを取る。


「ーー司令センター、どうぞ」


再び夜が廻る。



東京都品川区東品川。


「「「ご迷惑おかけしました……」」」


頭を下げる大学生グループ。


その横には、緊急車両で保護していた酔っ払いの女の子。


廣目が私の隣へ並ぶ。


この子は酒に呑まれ、横断歩道脇で熟睡していた。


通報を受けて来てみれば、「友達がいるはず」と言う。


その友達を、一緒に探したのだ。


「ちゃんとご自宅へ帰ってくださいね」


「はぁい。

マジすみませんでした……シュシュの夜廻りさんの言う通り、ちゃーんと帰りますっ!」


そう呼ばれた私は、彼女達を見回した。


明らかに酔いが残っている。


足元が少し揺れている。


焦点もまだ甘い。


(……いくら友達と一緒とはいえ)


「んじゃ帰りまーす!! バイバーイ」


右隣の廣目がつられて手を振る。


「気をつけて! 前見てね、前!!」


「「「「はーい!」」」」


しばらく見送る。


……あ、転けそう。


「やっぱ、新馬場駅まで送ってあげればよかったかな?」


廣目が小さく呟く。


私も同感。


でも。


(いや、本人の意思が最優先だから)


そう考え直し、運転席へ向かうため車道側へ出た。


その瞬間。


『ブロロロロー……ッ』


震えるような重低音。


(TOKYOレンガ倉庫……同じっ!)


思わず顔を上げた。


黒い夜道を、低いエンジン音が滑る。


普通の軽バンには珍しい、腹へ響くような振動。


白い車体。


背後の交差点をサッと左折していく。


異変を察した廣目がナンバープレートを見る。


ーー《千葉 え 94-63》。


「ん〜、毘乃木さん。どっか気になりました?」


「……エンジン音」


私だけが、その白を目で追う。


「そう? 普通でしたけどね?」


首を傾げる廣目が先に助手席へ乗り込む。


瞬きして、私も運転席へ乗り込んだ。


もしかしたら。


そう思った。


でも。


『沙与の耳はきっと正しいで。けど、それだけを信じ続けるんは良ぉない』


リンクキャンディを噛む音。


元バディの声。


薄緑の瞳。


直感は時に、証拠にならない。



603号車 車内。


エンジン始動。


廣目がシートベルトを締める音。


発進しようとサイドブレーキへ手をかけた瞬間、私の水色スマートフォンが鳴った。


(……月城さん?)


月城ひふみ。


情報のスペシャリストであり、私達後輩にとっての大先輩。


通話越しに、ポテトチップスを食べる音がした。


『ごめんな。今ちょっといいか?』


「はい」


パリ。


『沙与ちゃん、寝る前に情報捜査室(ウチ)で「偽造ナンバーじゃないか」ってボヤいてただろ?』


「……はい」


『オレも気になって、その被害者が走ってた時間帯の国道357号線ライブカメラ引っ張ってみた……そしたら、同じナンバーが二台走ってる。

完全にもう一台は偽造だ』


背筋が冷える。


「……それって、被害者の石母田憲和かどうか分かりますか?」


パリパリ。


『うーん。それはちとムズいなぁ。まぁ、東京湾岸警察署に確認してもらうことはできる』


「……そう、ですか」


『いくらオレが“魔女”って呼ばれてても……正真正銘か否かまでは判断しかねるぜ。

ただ、そのどっちもが煽り運転のクソ野郎なのは間違いないな』


私は顔を上げた。


引っかかる。


「どっちも、ですか?」


『ん?』


……パリ。


「だから、マルヒの石母田が煽ってるなら分かりますけど……もう一台もなんですか?」


『おう。こっちもかなりエグいぞ……交通課への通報履歴見てるが』


(……通報履歴って秘匿じゃ。聞かなかったことにしよ)


『つまり……ここ最近の《江東 お 12-58》の煽り運転は、偽造と正規の二台がやったことだ』


一拍。


『本来、会っちゃいけない車同士が国道で出会ったのが、今宵の事件の始まりってことになる』

マルヒ

被疑者のこと

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