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Uranus 第六特命巡視捜査隊  作者: サロ
第2章白きシロモノ
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16/22

第15話 国道357号線

「証言、取りに行こっか」


アタシの一歩前を行くバディがそう言う。


頷いて横へ並びかけた時、「あ……腕章曲がってるね」と、左上腕の蒼い腕章を直してくれた。


「ありがと。

……まず、通報者から聞いた方がいいよね」


通報者は、被害者が倒れていた角にある小さなショップの店員だった。


若い女性店員が、まだ興奮の抜け切らない様子で話し始める。


「いや凄い音だったんです! バンっ!!って音がしてぇ〜……隣のお店の、裏に置いてた立て看板で叩いたのかなぁ……ほら、あれ」


指差された先。


深緑色の木製看板が真っ二つに割れていた。


血溜まりの中に破片が散っている。


「その時、叩いてた人の服装って覚えてます?

四葉の蒙古斑とか」


「ん〜ごめんなさい、夜廻りさん。人間だったかジェミニだったかは……驚いてお店から出てきた時にはもう……私も血見てパニクっちゃって。

でも、あそこの角に防犯カメラがあったと思うの」


「ありがとうございます」


次に向かったのは、被害者が入店していた飲食店だった。


店内には魚介スープの香りが残っている。


「いつも来てくれてる常連さんでね!!」


店長が言った。


「常連さん。入店した時、変わった様子とかありました?」


「いや。いつもスマホと車の鍵だけ持ってウチへ来るんだけど……店内での様子?

そういえば、今日は誰かと電話してたなぁ〜……会社の人かな?

鈴木くん分かる〜?」


「はい? お客様の様子ですか? 確か〜……」



当時刻、19:13ーー



「ーーは? んだよっそれ。それ……それってそっちの仕事でしょう!! 直接、課長に言ってくださいよ。俺……ちっ、だりーな。あの」


「『お待たせしました! こちら、魚介つけ麺大盛りですね〜』……当時、こんな感じで僕は給仕してて。それから〜」


店員の鈴木は記憶を辿るように話を続けた。


「あ、どーも。分かりました? え〜はい……だから!! ……って感じに今日は荒れてて。ただ、僕も他の給仕したり片付けしたりで……はっきりした自信ないんですけど」


「そっちの仕事?」


アタシは目線を上げた。


「ええ。その常連さん、配送業やってるんです!! あ〜……トラックじゃないみたいですけど」


そこへ店長が割って入る。


「実は、ウチの斜め向かいの園芸店さんに下ろしててね〜……終わったらウチにいつも寄ってくれるみたいな。

来る頻度?

そうだなぁ、大体月二くらいかな……お嬢ちゃん。あそこの赤レンガの店だよ」


指差す方角へアタシは振り返った。




「ーー鑑識入りまーす!」


「はい、お願いしまーす……じゃあ、被害者の人定しようか」


久世に促されるように、榊が口を開く。


「被害者の男性は人間。名前は石母田(いしもだ) 憲和(のりかず)……煽り運転の常習犯です。

さっき班長が警察へ確認取ってくれて判明しました」


「どうやって判明したんですか?」


「スマホ。救急隊員が拾ってくれててな」


榊はそう言って続けた。


「手帳型ケースのポッケに免許証入ってた。まぁ意識あるし……目ぇ覚ましたら班長と堀宮が事情聞いてくれるはず」




ーー搬送先の病院



「……煽りの常習って」


「しょーもないな」


堀宮の引いた声に、岡本班長がバッサリ切る。


病室の出入り口そばのベッドを一瞥したまま、腕を組んで続けた。


「恐らく今回が初ちゃう……煽った奴に逆襲されるん。イキった結果がこのざまや。大バカやろ」


「自業自得ですね……」


「けど加害者だって終わってる。お互い様や。

お、目ぇ覚めそうかな」


「……ここ、どこだ……病院?」


頭部に包帯を巻いた男がゆっくり目を開ける。


漂白したような白い天井。


その左端に、見知らぬグレージュ髪の男が立っていた。


「ええ、病院です。石母田 憲和さん」


差し出された二つ折り手帳。


“芝桜に三日月”ーー保安章を見せられた瞬間、石母田の顔色が僅かに変わる。


自分のやった事への自覚はあるらしい。


反省しているかは不明だが。


「……保安がな、何の用ーー」


「寝起きなのに、びっくりさせてすみません」


岡本は言葉を遮るように穏やかに続けた。


「お話を伺いたいんですよ。あなたを殴った犯人とーー煽り運転について」



薄緑の瞳が静かに石母田を捉える。


「自覚、ありますよね?」


「いやいやいやっ!殴ってきたあの男は……ちょっと遅かったから道中、軽くクラクション鳴らしただけですって!!

それで看板で殴られるとか過剰でしょ!!!!」


病室へ声が響く。


「しかも待ち伏せですよ?!」


完全に己を被害者側へ持っていこうとしている。


そこへ堀宮が「確かに悪質ですねぇ」とワンクッション挟む。


しかしーー


「でも、繰り返してたんですよね?クラクション」


蛍光色のスニーカーが一歩前へ出た。


「TOKYOレンガ倉庫に着くまでの道中。何度も……車間も詰めて。


国道には警察のNシステムが設置されてるので、嘘はバレます。ここからは正直に話していただけると嬉しいです」


次に、またグレージュの髪が動く。


今度は正面。


「で」


薄緑の瞳が石母田を真っ直ぐ捉えた。


「あなたを殴ったその犯人へ、実際はどれぐらいクラクション鳴らしてたんですか?」


ついに誤魔化せないと悟ったのか、石母田の目が伏せられる。


「ご、5〜6回かな。いや!もう少しやったかも」


「……そうなんですね。その時も車間詰めた?」


「つ、詰めました」


次に続くのは堀宮だ。


「それとぉ……幅寄せって」


「しました。すみません」


「しちゃったんですねぇ……その時、怒鳴ったりしてません?」


「いえ。

代わりにクラクション鳴らしたかもしれません……長く」


堀宮が横目で流す。


それを受けて俺は腕組みを解いた。


「1分、じゃないでしょう? どれほど?」


「ええっと……結構3分くらい」


「くらい?」


「いえっ、3分“も”ですね……ごめんなさい。それに単発を繰り返して。

時間指定だったのでイライラしてて」


石母田の声色がようやく落ちる。


だが、俺らが聞きたいのはその先だ。


ベッドフレームを掴み、身を乗り出す。


「ありがとうございます。正直に言ってくださって。

それで……その犯人の特徴って覚えてますか? 

人間だったかジェミニだったか」


尋ねられた石母田の目が左上を向いた。


過去を思い出そうとする心理的な動き。


ここから先、嘘はなさそうだ。


「幅寄せの時は気づかなくて、ラーメン屋を出たアノ時に……」



ーーTOKYOレンガ倉庫 19:00


「ありがとうございました!」


石母田は一言礼を言った。


『KOHANA園芸』


もう何年も付き合いのある得意先だ。


主に培養土や園芸用肥料などを納品している。


(なんとか時間指定に間に合ってよかった)


ホッと息を吐く。


「石母田さん、再来週もよろしくお願いしますね! はい、これサインしたんで」


店主の湖花(こはな)浅子(あさこ)が伝票を差し出した。


「来週はプランターも合わせて納品でしたよね?

はい。それじゃあ」


一礼して、その場を後にする。


取引先がこんな優しい人ばかりならいいのに。


理不尽に怒鳴られるのは本当に勘弁してほしい。


(次のお宅は21時指定だったな〜……ひとまず休憩)


自動ドアが開く。


魚介スープの香り。


「ーーはい、いらっしゃーい! お、配送屋さん。カウンターどうぞ」


海岸沿いだから店内の暖かさがありがたい。


注文を済ませ、ふとスマートフォンを見る。


(業務用RIRINか……は? 営業部の不在着信??)


文章で返そうとした瞬間、営業部から再度着信。


(休憩なんだから切ればいいんだけどな……)


嫌な予感しかしない。


「ーーは? んだよっそれ。それ……それってそっちの仕事でしょう!!」


思わず怒鳴る。


(中身が潰れてた……それは梱包係の問題でしょう!? 運転手のせいにすんなよ!!)


「そもそも、運転手個人にクレームって今の時代ありえないでしょ……え?

お客様、名札見て電話掛けた??」


(あの一瞬で!?)


「それとクレームって言うなら……

直接、課長に言ってくださいよ。

俺……に。ちっ、だりーな」


つい本音が漏れる。


「ーーお待たせしました! こちら魚介つけ麺大盛りですね〜」


「あ、どーも」


一拍。


「……分かりました? え〜、はい……だから!!」


(何。営業部って文句ひとつ添えないと気が済まねぇの!?)


ムカつく。


休憩中くらい穏やかに食わせてほしい。


「分かりましたよっ!!」


通話を切る。


「……最悪だわ」


呟いて割り箸を割った。


ーー20:00頃


「ご馳走様でしたぁ! 寒っ」


潮風が冷たい。


一気に仕事したくなくなる。


そんな事を口には出さず、配送用の白い軽バンへ向かおうとした時だった。


ジャリ。


別の靴音。


視界の隅で振りかぶられる“何か”。


レンガ倉庫へ来る途中、()()()()()()()()()()だった。


ーーーバンッ!!!!!


側頭部への強打。


砕ける深緑の木製看板。


そこまでだ。


脳裏に残ったのは、右頬に浮かぶ四葉の蒙古斑だけだった。


ーー病院


「……ジェミニだったわけですね。右頬に蒙古斑のある」


俺の確認に石母田は頷く。


国道357号線。


慢性的な渋滞地帯。


だがーーそやからって煽ってええ理由にはならへん。


「……その犯人と出会う前も、他の車煽ってたりします?」


「な、何台か……抜かしました。ネイビーブルーの車とか」


その瞬間、眉がピクリと動いた。


自然と左手がイヤモニへ触れる。


ワンタップで外部通話。


その相手はーー



「毘乃木。

お前もなんか言ってやれば?」


榊先輩が私に言った。


いや、そう言われても。


(怒られてるの廣目だし)


目の前では、眼鏡を直した久世先輩が、同じく眼鏡をかけたサーモンピンク髪の少女へ詰め寄っていた。


「雑談だって立派な証言になるんだ!!

メモってないってどうすんだよっ!!!!!」


「え〜でも、園芸店さんとの会話はちゃんと覚えてますし!」


「お前の記憶力なんか、アテにしてねぇんだよ!! 

一字一句が大事なんだぞ?! 

すでに説明できてねーじゃん!!!!

毘乃木を榊と一緒の防犯カメラ確認に回すんじゃなかった……血圧上がって死にそうだわ」


「え?ダイジョーブですか?」


完全に火に油。


これは流石に助けた方がいい。


久世先輩が死ぬ。


私は肩を軽く叩いた。


「廣目さん。特視隊の日常業務って初動捜査なんですよ」


「……はい」


「私達が集めた証拠や証言を基に捜査がスタートするの。その為の報告書を、所轄やナンバー課に上げなきゃいけない。そこに『夜の7時くらいに〜……確かぁ〜……』って書くの?

アホなのっ!?

しかも別れる時に言ったよね? 

全部書いてって。途中から白紙はダメでしょ!!」


「話長くて諦めた……」


そんな上目遣いされても困る。


「どーする?」


(……仕込んどいて正解だった)


私は廣目の左腕を持ち上げた。


スマートウォッチ。


ピッーー


『配送時間はいつも夜の7時で。名刺? ありますけど』


KOHANA園芸 店主・湖花浅子の証言が再生される。


さらに廣目がメモ帳に刺していた名刺を抜き、久世先輩へ差し出した。



【WASHINO’Transport】


この顔、明らかに呆れてる。


私はそこに触れず、「南駐車場行ってきます」と告げた。


「犯人の逃げた方角には南駐車場があります。

357号線方面です」


一拍。


「それと……榊先輩と確認した防犯カメラを見るに、膝をついて被害者のポケットか腰辺りから“何か”を持ち出そうとしてた。

ラーメン屋の店長が『いつもスマホと車の鍵だけ』って言ってましたし」


手をグーにして示す。


「断定はできないですけど、映ってた手の形なら車の鍵だと思うんです」


久世先輩が続ける。


「走ってきた犯人にぶつかりそうになった目撃者も、『目立った物は持ってなかった』って言ってたしな」


「はい」


服装もラフなTシャツと黒パンツ。


血溜まりに膝をついてても目立たない。


ただ、目撃者も夜闇で顔までは見ていない。


(だから被害者側から埋めていくしか今はできない……)


「廣目、一緒に駐車場……何その顔」


振り返る。しかし……


「アタシ録音されるぐらいには信用されてないんだなぁーって。てかいつの間に?」


「ん?

腕章直した時にこっそり」


「……え。ヒドっ!」


私はシューズカバーを外しながら言い切った。


「そりゃ信用しないよ」


顔を上げる。


「いちいち新人信じ切ってたら仕事になんないもん。

漢字勉強中の人が途中で諦めるかもなんて予想内だし、記憶頼りもチルドレンあるあるだし……」


腰のウエストポーチへシューズカバーをしまう。



「信用されたかったら仕事して」



そう言って規制線へ踵を向けた。


「ふ〜ん……現場職って厳しーねぇ」


廣目が後を追う。

黄色いホログラムとテープのその向こうへ。



ーー南側駐車場



「Isn’t that a bit much? メチャ広くない?

こっから白の軽バン探すの?」


「すぐ無理って言わない。探すよ」


「防カメは〜?」


「残念ながら故障……班長、何かご用ですか?」


イヤモニの外部通話。


咄嗟に左指先で押さえる。


『……ジブンら、今夜357号線走ってる?』


「はい。私達、湾岸署管内ですけど」


返答した瞬間、駐車場の奥からダイレクトに響くような音が響いた。


震えるような腹への重低音と振動。


「……あ。すみません、続きなんですか?」


『変やのに煽られへんかった? 白いのとか』


その声色で少し思ってしまう。


(……まさか被害者が本当にあの煽り運転なのか?)


口を開きかけた時だった。


「見つけたよ! ナンバープレート一致!」


廣目の声。


小走りで向かった先。


眼前には白い軽バン。


《江東 お 12-58》


確かに、あの煽ってきた車のナンバーだった。


「毘乃木さん、車内チェックしようよ! どうした?」


「ーー廣目、あのさ」




ーー病院の廊下


俺はイヤモニ越しの声を聞きながら、警官が聴取中の病室へ視線を戻した。


足が動く。


割り込むのは気が引けるけど。


「すみません石母田さん。追加でもう一点だけ確認させてください。

その白い軽バンのナンバーと車種って」


「ええ。ナンバーは《江東 お 12-58》です。ただーー」


私は軽バンをじっと見た。


廣目も不穏そうに車体を見比べる。


「毘乃木さん……車種、本当に?」


「うん」


一拍。



「この車はーー私たち603号車を煽ったやつじゃない」

人定じんてい

対象者となった者を特定する為の情報・行為


ナンバー課

捜査一課等の数字がふられた部署に対する呼び方


Nシステム(自動車ナンバー自動読取装置)

捜査等に活用される警察設備。

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