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Uranus 第六特命巡視捜査隊  作者: サロ
第2章白きシロモノ
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第12話 良品と粗悪品

「……そういえば、警察署に諸用って?」


「あぁ。ちょっと報告書に必要なものを取りに」


 場面は、一時間ほど前に遡る。



「あ〜……満車だから麻布警察署の駐車場借りよ」


「え? 目的地、保安麻布署だよね!?」


「大丈夫大丈夫」


 ウィンカーを出したのち、何食わぬ顔で入るネイビーブルーの603号車は前進駐車する。


 不安がる瑛梨をよそに、私は目の前の警察署を指差した。


「保安の署っていうのは——」


 指が隣へ動く。


「目と鼻の先」


「なるほど〜! でも、行き方……」


 次にすぐ下の小路を指差す。


「よく見て。ほら、警官が行き来してるでしょ?

あそこ通ればいいから」


 瑛梨は二回目の「なるほど」を口にした。


「めちゃ近いんだね」


「うん。

じゃ、さっき言った通りに受け取りよろしく。私は麻布警察署に諸用があるから」


 ジャラっと鳴る車のキーをポケットへしまい、警察署の階段を軽やかに上がる。


 顔なじみの警官たちに会釈し、自動ドアを通った。


 向かう先は捜査一課。

 この界隈の挨拶は、朝晩問わず決まってる。



「おはよーございます」


「お!ナイスタイミング……おはよ、毘乃木さん」


 立ち上がり、こちらへやってくる三十代の男性。

岡本先輩より少し年上に見えるその人は、諸橋(もろはし)さん。

 

新卒時代からの顔なじみだ。


 カウンター越しに会話する。


「データの受け取りです。あと……その後、進捗あったかなぁ〜と思いまして」


「あったけど、のらりくらりでさ。

薬物をスキマバイトで捌くなんて世も末だよねぇ」


 その言葉に、思い出す。


 蒙古斑が半分消えかけていた、先程のあの若い男。


——瑛梨が来る前、三月下旬。


 私は夜道のネオンに光る残留に目を凝らしていた。


「……なにこれ」


 白手袋の指先で触る。


 白い。


 白すぎる。


(違う)


 skeletonはもっと——細かくて、透明なはずだ。これは粒が大きい。


(……粗悪品?)


「——だからぁ!オレはバイトなんですって……お巡りさんも夜廻りさんも頭硬すぎっしょ。

いや、知りませんって!!」


 黄色いホログラムの規制線の向こう。


 詰められても、のらりくらりと逃げる売人。


 購入者は、現着時にはすでに急性中毒で意識がなかった。


 応急処置中も——


「夜廻りさん結構若いんですね」

「え? 逝っちゃいました?」


 事の大きさを、理解していない。


(つい「黙ってろっ!!」と怒鳴ってしまった……)


 そこは反省してる。


(……言いすぎたかもしれない)


 一拍。


(……いや)


——そんな奴の調書データを取りに来た。



「取調でもヘラヘラと相変わらずでさ〜、マジでこっちの気力削ってくんのよ」


「……地獄ですね」


「いやホントよ!」


諸橋さんの肩がガクッと落ちる。


「……今回ってさぁ、“綺麗”だよね」


 そう。本件のskeleton絡みは、どれも綺麗で——線にならない。奇妙すぎる。


「ウチでも言ってます。

綺麗だって……線にならないって」


「だよなぁ……そこまでは一緒なんだよ」


 頷く。


「ただ」


 一拍。


「バラバラってのは、ちょっと分かんねぇな……俺らは”目の前の一件”だからさ」


「ですよね」


 一度受ける。


「バラバラっていうのは——」


 一拍。


「硝子のような良品と」


 一拍。


「白すぎる粗悪品」


「両方が、同時に出回ってるんです。

……肌感ですけど」


 沈黙。


(……消え方が違う)


 羽田の時の男。あれと、同じだ。


「そっか……厄介だね。ま!

そんな厄介な奴の調書データを取りに来るとは……保安の四課って、もしかして証拠主義なの?」


「はい。だいぶ」


 苦笑いを返す。


 提出した翌日。

岡本先輩に手招きされた時は、正直、冷や汗だった。


「その、四課がなぁ」


 言葉を選ぶ声。


「調書データも添付しろって突き返してきた。

ごめんな」


「え……」


「毘乃木、ごめんな」


「……え?」


「俺も止めたんやけどな」


 差し戻された書類。昨日、仕上げたもの。


(……調書データ?)


(つまり、麻布署に”機密ください”って言うの?)


(コンプライアンスって知ってる? 

……通るの、これ)


「……分かりました」


 笑顔で言う。


 まず電話。説明。交渉。


(……面倒。

受付で切られたら、恨む)


 ⸻


「——ありがとうございます。お手数おかけしました」


 茶封筒を受け取る。


「いやいや。頑張ってね、報告書」


 ⸻



「……四課ってそんななの……They’re such a hassle」


 瑛梨の表情が少し引く。


 私はハンドルを切りながら言う。


「でも」


 一拍。


「大切な部署よ」


 言葉にはしない。


 厄介で、面倒で——それでも必要な場所。

 第六にいる以上、いつか関わる。


 だから今は、まだいい。


 ⸻



 しばらく、車内に沈黙が落ちる。


 エンジン音。


 流れていく夜の街。


「……毘乃木さん」


「ん?」


「良品と粗悪品……」


 瑛梨の声が、少しだけ落ちる。


「同時に出回ってるって、どういうことですか」


 信号が赤になる。車が止まる。


 一拍。


「作ってる場所が、ひとつじゃない」


 私は静かに言う。


「それとも——意図的に、分けてる」


 瑛梨の黙る気配がした。


(どちらにしても厄介だ)


 信号が、青になる。


 アクセルを踏む。車が動き出す。


 帰着まで、あと少し。


 報告書はまた今夜だ。


 良品と粗悪品。綺麗すぎる流通。切れた糸。



 ——何かが、確実に動いている。

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