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Uranus 第六特命巡視捜査隊  作者: サロ
第2章白きシロモノ
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第13話 エクストラホット

 ギシっと椅子が軋む音。


 主任の顔をした岡本先輩が、視線だけをこちらへ上げた。


「報告書?」


「あぁ。今度は突き返されへんかったで……良かったな」


(よっしゃ)


 内心でガッツポーズする。


 四課へ再提出した、調書データ添付済みの報告書。これでまた差し戻されたら、正直詰んでいた。もう打つ手がない。


「失礼します」


 一礼して執務室を出る。左手首のスマートウォッチが震えた。


 12時半。昼休憩。


(お礼の電話は後でいいか……カフェ行こ)


──────────────────────


「いらっしゃいませ! ご注文をどうぞ!!」


「えと──」


「エクストラホット……おや」


 二列あるレジ。ほぼ同時に顔を上げた。


「第六の紫の子」


「……どうも、白井(しらい)係長」


 白井(しらい) (とおる)。捜査四課係長。


 ──私の報告書を突き返した人。


 気まずい。とりあえず、注文してしまおう。


「レギュラー・ホットのミルキーストロベリーラテ」


「エクストラホイップ追加しますか?」


「いいえ。普通で」


「かしこまりました! お会計お願いしまーす!」


 両者揃って、受け取り列へ移動する。


(……なんで一緒なんだろ)


 横目に、白井係長を見る。相変わらず表情が薄い。でも、ちゃんとこちらを認識している感じだけはある。


(気まずい)


 報告書を差し戻された相手と、昼休憩に並んでコーヒー待ち。できれば遭遇したくない部類だ。


「報告書、読みやすかったですよ」


「はい?」


「だから差し戻しました」


(……褒められてない)


「読みやすい報告書を書く人は、大体、"勘"の精度も高いので」


 白井係長は、温度の薄い声で続ける。そのまま少しだけ、こちらへ顔を向けた。


 黒髪に混じる、緑のメッシュカラー。妙に印象に残る。


「裏付けを取る価値がある」


 私は、瞬きをした。


 その価値のために──


(あんなに奔走する羽目になったってことですかっ!?)


「──167番でお待ちのお客様〜!」


「では」


 白井係長はコーヒーを受け取ると、そのまま去っていった。


(やっぱり、私……四課苦手かも)


 そんなことを思いながら、コーヒーを受け取る。カウンター席へ腰掛け、一口。


「熱っ」


 思わず小さく肩を跳ねさせた。


(エクストラホットだった)


 さっき隣で聞こえた注文を、うっかり引っ張られたらしい。


──────────────────────


「……何してん?」


 低い声。ビクっと肩が跳ねる。


 注文列側へ振り向く。主任の顔をした岡本先輩が、紙袋片手に立っていた。


「……主任」


「ジブン、どうしたん」


「あ、熱かったので……」


「何頼んだん」


「ミルキーストロベリーラテです」


「ちゃう」


 一拍。先輩の視線が、私の紙カップへ落ちる。


「温度や」


(怒られてる……?)


 いや、違う。これは──呆れられてる。


 先輩は小さく息を吐くと、隣の席へ腰掛けた。ギシ、と椅子が鳴る。


「……エクストラホット頼んだん?」


「いえ。普通のを頼んだんですけど」


「けど?」


「……釣られちゃって」


「誰に」


「えと……四課の係長です」


 先輩の眉が、ぴくっと動いた。


「白井?」


「はい」


「何か言われた?」


「『読みやすいから差し戻した』って」


 数秒、沈黙。それから。


「……あ〜」


 納得したみたいな声。


「四課やなぁ」


 即答だった。


「四課って……勘が当たる人間の報告書は裏取る価値あるみたいな考え方するんですかね……」


「するやろな」


 先輩はコーヒーを一口。


「特に、白井はそういうタイプや」


「変わってますよね」


「まぁ変やな」


 否定しない。


(変なんだ……)


 私は紙カップを持ち直す。今度は慎重に、少しだけ口をつけた。


「……熱」


「そらエクストラホットやし」


「……」


 先輩が、ふっと笑う。珍しく、主任の顔じゃない。


 少しだけ──いつもの岡本先輩だった。


「で」


 紙袋が、こっちへ押される。


「昼」


「……あ」


 サンドイッチ。そういえば、ラテしか頼んでいなかった。


「ありがとうございます」


「甘いもんだけで済ますのやめえや」


 一拍。


「ちゃんと食えよ」


(……忙しい時の適当が完全にバレてる)


「はい」


 包装を開ける。その横で。


 岡本先輩は、スマートウォッチへ視線を落としていた。



 主任の顔へ戻るのは──たぶん、あと数分後。

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