第二章13「それでも仕事をする」
全面的に自己責任でお願いします。
翌朝。
優守は、いつもの時間に目を覚ました。
目覚ましが鳴る前だった。
カーテンを開けると、朝の光が部屋を照らす。
「今日もええ天気やな」
コーヒーを淹れ、軽く朝食を済ませる。
昨日と違うのは、有給休暇ではないということだけだ。
会社へ向かう必要はない。
そもそも、もう会社に頼らなくても生活はできる。
昨日、そのことを改めて実感した。
だから今日は、のんびり過ごしても誰も困らない。
優守はコーヒーカップを片付けると、自室へ向かった。
パソコンの前に座る。
電源を入れる。
いつものように管理画面を開いた。
教材販売。
オンライン講座。
アプリ。
メール。
売上。
特に大きな問題はない。
「さて」
自然とノートを開く。
昨日考えていた企業向け研修の企画。
AIに市場調査を依頼し、資料を整理する。
必要なページを書き出し、料金設定を考える。
気が付けば、一時間近く作業していた。
「……あれ?」
キーボードを打つ手が止まる。
画面を見つめたまま、小さく笑った。
「何してるんや、俺」
誰にも頼まれていない。
納期もない。
今日中に終わらせる必要もない。
やらなくても生活は変わらない。
それなのに。
気付けば、いつものように仕事を始めていた。
椅子にもたれ掛かり、天井を見上げる。
(昨日、『働かなくてもええ』って思ったばっかりやのにな)
会社へ行く必要はない。
生活費を稼ぐためでもない。
将来が不安だからでもない。
では、なぜ自分はパソコンを開いたのか。
少し考える。
だが、答えは出ない。
「習慣……なんかな」
二十年以上。
毎日のように働いてきた。
仕事をするのが当たり前だった。
その名残なのかもしれない。
しかし、それだけではない気もする。
昨日考えていた新しい事業。
市場調査の結果。
AIがまとめた資料。
それらを読んでいると、不思議と次のアイデアが浮かんでくる。
「ここはこうした方がええな」
「初心者向けも作れそうや」
「企業ごとに内容変えても面白そうやな」
気付けば、またメモを書いていた。
誰かに命令されたわけではない。
評価されたいわけでもない。
昇進も、ボーナスも存在しない。
それでも手は止まらなかった。
昼前。
一区切りついたところで、優守は椅子から立ち上がる。
コーヒーを淹れ直し、窓際へ向かった。
外では、平日らしい静かな時間が流れている。
以前の自分なら、この時間は会社のデスクで仕事をしていた。
今は違う。
場所も、時間も、自分で決められる。
「自由って、こういうことなんやな」
ふと呟く。
働くか。
休むか。
何時に始めて、何時に終えるか。
すべて自分で選べる。
それが何より大きな変化だった。
コーヒーを飲み終え、再び作業部屋へ戻る。
パソコンの画面には、途中まで作った企画書が映っている。
少しだけ考え、優守はマウスを動かした。
「あと少しだけ進めとくか」
締め切りがあるわけではない。
今日やらなくてもいい。
それでも、続きを作りたいと思った。
その理由は、まだ自分でも分からない。
だが、不思議と嫌ではなかった。
優守は静かにキーボードを叩き始めた。
その答えを、まだ知らないまま。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




