第二章11「新しい種」
全面的に自己責任でお願いします。
月曜日。
優守は朝から、いつもの自宅の作業部屋にいた。
パソコンには複数の画面が表示されている。
教材販売の管理画面。
講座サイトの管理画面。
アプリの売上レポート。
どれも大きな問題はなかった。
「なかなかやな」
思わず呟く。
独立当初は毎日数字を確認していた。
売上が気になって仕方なかったのだ。
だが最近は違う。
確認はする。
しかし必要以上に気にしない。
数字に振り回されると長続きしないと思うからだ。
コーヒーを飲みながら資料を眺める。
(今の収入だけでも十分なんやけどな)
生活費。
税金。
将来の備え。
全部考えても余裕はある。
焦る必要はない。
だが、だからこそ考える。
次の一手を。
会計士との面談でも言われた。
一つに依存しないこと。
収益源を分散すること。
それは優守自身も強く意識していた。
「さて」
ノートを開く。
そこには様々な候補が並んでいた。
新しい教材。
オンライン講座の英語などの語学部門。
企業向け研修。
AIを活用した業務支援ツール。
どれも実現可能だ。
しかし全部やる気はない。
人間の時間は有限である。
優守はそのことをよく知っていた。
「一個ずつやな」
そう言いながら候補を整理していく。
やがて一つの案に目が止まった。
企業向け研修。
ようは社員のスキルアップのために、企業側が費用の一部を負担して学習してもらう制度だ。
会社員時代の経験も活かせる。
語学はチートを使っているが、資格は一通り取得済み。
顔出しも不要で特に問題はない。
需要も十分にある。
最近は特にグローバル化の流れが強い。
初期費用もほとんどかからない。
「うん、なかなか悪くないんちゃうかな」
むしろ相性は良い。
個人向け講座で積み上げた内容も応用できる。
優守はメモを書き始めた。
対象企業。
研修内容。
料金設定。
必要資料。
やるべきことを書き出していく。
すると不思議なことに、少しずつ形が見えてきた。
(結局、事業ってこれの繰り返しなんやろな。あとはAIの出番や)
思いつく。
調べる。
試す。
改善する。
大成功を狙うわけではない。
小さく始める。
駄目なら撤退する。
良ければ育てる。
それだけだ。
今の優守にとっては、育成ゲームのようなものだった。
昼を過ぎた頃。
ノートは数ページ埋まっていた。
優守は満足そうに頷く。
「まあ、ぼちぼちやるんやが、書き出すと案外やり込んでしまうんだよな」
焦らない。
急がない。
だが止まらない。
それが今の自分のやり方であることを、改めて思い出す。
ふと本棚を見る。
大量の本が並んでいた。
営業。
会計。
税務。
法律。
経営。
投資。
AI。
独立してから増えた本ばかりだ。
そしてその中には、誰にも言えない秘密もあった。
異世界から手に入れた本。
優守だけの力。
だが最近は思う。
チートは確かに便利だ。
しかし今の自分を支えているのは、それだけではない。
学んだ知識。
積み上げた経験。
信頼できる専門家。
そういったものも同じくらい大切だった。
「結局、勉強と人間関係や。浅く広くがベストなんや」
小さく笑う。
そして新しい企画書を開いた。
まだ形にもなっていない小さな種。
だが事業というのは、そういう種から始まるものだ。
優守は静かにキーボードを叩き始めた。
次の収益源を育てるために。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




