第二章10「先生方との面談」
全面的に自己責任でお願いします。
休日の午後。
優守は駅前のビルへ入った。
今日は月に一度の面談日だ。
独立してから定期的に行っている。
税理士。
会計士。
弁護士。
それぞれとの打ち合わせだった。
(こういう人らと自分の会社の話をするようになるとはなぁ。会社員時代なら考えもしなかった。
彼らはみんな、営業時代の取引先で知り合った人たちや。
当時は普通に営業していただけやったんやけどな)
受付を済ませる。
最初は税理士との面談だった。
「本堂さん、こんにちは。お仕事順調そうで良かったです」
「こんにちは。ありがとうございます。これも色々相談に乗っていただいた先生のおかげです」
資料を受け取り席に座る。
税理士は数字を確認しながら頷いた。
「順調で、とても良い流れですね」
「そうですか?」
「はい。かなり健全ですし、透明性もあります。文句のつけようがありません」
「健全ですか。それはよかった」
「ええ。売上だけ見ればもっと攻める人もいますが、本堂さんの場合は利益率が高いです」
「無理してないですからね」
「それが一番ですよ」
税理士は笑った。
「借入もありませんね」
「はい。ないですね」
「無駄な経費もありません」
「そもそもネット商売ですので、そんなに使わんですし」
「税金の準備も問題ありませんよね?」
「はい。お聞きしていた通りにやってます」
「それなら安心です。正直、税理士としては非常に楽な顧問先ですよ」
「褒められてるんですか?」
「もちろん。褒めてますよ」
二人とも笑った。
続いて会計士との面談だった。
こちらは事業全体を見る立場である。
「本堂さん、順調ですね」
開口一番そう言われた。
「みんな同じこと言いますね」
「だって順調ですから」
会計士は資料をめくる。
「収益源が分散されていますね」
「一応意識してますから」
「講座収入」
「はい」
「教材販売」
「はい」
「アプリ関連」
「はい」
「どれか一つが止まっても即死しません。良いことです」
「そこは考えました。一つのことにこだわるのも悪くはありませんが、冒険できるほど若くはありませんので」
苦笑いしながら答える。
「素晴らしいことです」
会計士は本気で頷いた。
「独立した人の失敗パターンは一つです」
「なんです?」
「だいたい一発当てようとする」
「ああ……」
「本堂さんは真逆です」
「大当たりは怖いんですよ」
「その感覚が本来は正しいです」
会計士は苦笑した。
「事業はマラソンです」
「短距離走ちゃいますもんね」
「その通りです。そして途中で息切れして倒れてしまう人が多いんです」
「なるほどなぁ」
「本堂さんは今のままで十分ですよ」
最後は弁護士との面談だった。
「こんにちは。お世話になっとります」
「はい。こんにちは」
弁護士は書類を閉じた。
「こちらも色々と順調ですよ」
「特に問題なしですか?」
「契約関係は問題ありません」
「助かります」
「ただし一件だけ」
優守は首を傾げた。
「例の件です」
「ああ」
すぐに分かった。
無断転載だった。
講座内容を勝手にまとめて投稿している人間がいる。
教材の画像も一部使われていた。
「増えてます?」
「ええ。少しですが増えています」
「面倒ですねぇ」
「そうですね。以前お話しした警告の対象も含まれています」
優守はため息を吐いた。
弁護士は冷静だった。
「現状は証拠収集を継続しています」
「はい」
「URL保存」
「はい」
「スクリーンショット保存」
「はい」
「ログ保全」
「はい」
「完璧です」
弁護士は頷いた。
「まず削除要請を行います」
「それで終われば?」
「終了です」
「なるほど」
「大半はそこで終わります」
優守は少し安心した。
「じゃあ裁判とかは?」
「まだ考えなくて大丈夫です」
「ですよね」
「悪質なら次の段階へ進みます」
「次?」
「発信者情報開示です」
優守は苦笑した。
「身元特定ですか」
「そうです」
「その後は?」
「損害賠償請求」
「なるほど」
「それでも悪質なら訴訟です」
弁護士は淡々と言った。
「ただ、本堂さんの場合」
「はい」
「感情で動かないので助かります」
「怒っても金になりませんからね」
「その通りです」
二人とも笑った。
「先生に任せます」
「任されました」
「正直、法律は分からんので」
「分からなくていいんです」
弁護士は即答した。
「分からないから専門家がいます」
その言葉に優守は妙に納得した。
面談が終わり、ビルを出る頃には夕方になっていた。
税理士。
会計士。
弁護士。
会社員時代なら縁の無かった人達だ。
だが今は違う。
全部を自分でやる必要はない。
分からないことは専門家に任せればいい。
そのために金を払う。
それもまた事業なのだろう。
(結局、自分は勉強するのは好きやけど、全部をやる気は無いんよな。
良い先生方に出会えてよかった)
空を見上げる。
今日も特に問題はなかった。
事業は順調。
生活も順調。
大きなトラブルもない。
だからこそ備える。
派手ではない。
だが優守は、そういう積み重ねこそが一番大事だと思っていた。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




