第二章8「異世界との定期便」
全面的に自己責任でお願いします。
朝、コーヒーを淹れる。
お気に入りのマグカップから立ち上る湯気を眺めながら、優守はパソコンを起動した。
メールを確認する。
教材受講者からの質問が数件。
ココナラの問い合わせが一件。
特に急ぎの案件はない。
平和だった。
そして、もう一つ。
優守専用の管理フォルダに、新しい通知が表示されていた。
異世界側からの定期連絡だった。
「今月の取引の分か」
そう呟きながらファイルを開く。
内容はいつも通りだった。
・精製塩
・保存用砂糖
・裁縫針セット
・高品質紙
・インク
・農具補修部品
・乾燥野菜セット
・胡椒
・出汁の素
・ガラ出汁の素
・ミックススパイス
・ガラス製品
などなど。
どれも特別な品ではない。
こちらから送るものは、百円ショップや業務用スーパーなどで購入できるものばかりだった。
優守は思わず笑う。
「なんか、平和やなぁ」
異世界との取引が始まった頃なら驚いていたかもしれない。
だが今は違う。
むしろ安心する。
大事件が起きない。
緊急注文もない。
戦争もない。
飢饉もない。
それが一番良かった。
優守は発注内容を確認しながら通販サイトを開いていく。
注文。
比較。
在庫確認。
発送予定確認。
作業は流れるように進んでいく。
スキルが働いているのは分かる。
今では呼吸をするのと変わらない。
複数サイトの価格。
送料。
在庫数。
発送速度。
それらが頭の中で自然に整理されていく。
さらに梱包作業に入る。
ここでも少しだけチートが働く。
どの商品をどの順番で詰めれば破損率が下がるか。
重量配分をどうするか。
過去の配送記録から最適解が浮かんでくる。
「便利やけど、相変わらずよう分からん不思議な感覚やな」
苦笑しながら作業を続けた。
数時間後。
発送準備は完了した。
優守は椅子に座り直す。
今度は異世界側から届いた品物の確認だ。
・薬草加工品
・木工細工
・織物
・手作り装飾品
・保存食の試作品
こちらも地味だった。
だが、それでいい。
魔法の剣もない。
伝説の秘薬もない。
世界を変えるような何かもない。
優守は一つ一つ状態を確認していく。
以前のような興奮はない。
代わりに管理意識の方が強くなっていた。
パソコンの管理シートを開く。
【異世界取引管理表】
発送日。
発送内容。
受領日。
受領内容。
保管場所。
推定価値。
備考。
それらを一つずつ入力していく。
正直、面倒だ。
だが必要だった。
優守は何度も税理士と相談している。
異世界から受け取った品を、そのまま売上として計上するわけではない。
現実世界で販売した時点で売上になる。
それまでは在庫として管理する。
その方が説明しやすいからだ。
優守にとっては、それが何より重要だった。
帳簿を見ながら小さく呟く。
「チートより説明責任の方が面倒やからな」
思わず苦笑した。
異世界との取引自体は順調に行われている。
問題は現実側だった。
税金。
帳簿。
保管記録。
販売記録。
それらが曖昧になる方が怖い。
だから記録する。
だから残す。
だから専門家に相談する。
それだけの話だった。
もちろん取引の詳細については、取引先保護や守秘義務の観点から説明の仕方を工夫している。
だが、売上や在庫管理そのものは税理士の指導通りに記録していた。
昼過ぎ。
異世界側から追加の報告が届いた。
『塩の供給が安定しました』
『保存食の品質が向上しました』
『紙の流通量が増加しています』
『農具修理の効率が改善しました』
優守は一つずつ読む。
そして頷く。
「うんうん。それでええ。うまいこと皆やってるみたいやな」
派手な話ではない。
誰かが王になるわけでもない。
魔王を倒すわけでもない。
ただ生活が少し便利になった。
それだけだ。
だが優守は、その方が好きだった。
現代日本だって同じだ。
毎日コンビニに商品が並ぶ。
電気がつく。
水が出る。
それは誰かが地味な仕事を続けているからだ。
異世界も、内容こそ違えど同じなのだろう。
夕方になると、優守は今月分の収支表を確認していた。
オンライン講師収入。
AI相談収入。
教材販売収入。
それらが並んでいる。
異世界関連の数字もある。
だが割合としては少ない。
もちろん…
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




