第二章 第6話「最初の依頼」
全面的に自己責任でお願いします。
スマホが小さく震えた。
優守は机の上に置いていたスマホを手に取る。
通知だった。
ココナラからのメッセージ通知。
数日前に出品したサービスに問い合わせが入っていた。
タイトルはシンプルだった。
【AIを使った業務効率化相談】
教材作成と並行して始めた小さなサービスだ。
まずは需要を知りたかった。
だから価格も抑えている。
大きく儲けるつもりはなかった。
メッセージを開く。
---
「AIに興味はあるのですが、何から始めればいいか分かりません」
---
そんな一文から始まっていた。
優守は最後まで読む。
相手は四十代の会社員。
地方の中小企業で働いているらしい。
毎日、報告書の作成やメール対応に追われている。
AIが便利だとは聞く。
だが実際に触ってみても使い方が分からない。
動画を見ても専門用語ばかり。
結局、何も変わらなかった。
そんな内容だった。
(……まぁ、そうなるよな)
優守は少し苦笑した。
検索すれば情報は出てくる。
だが情報が多すぎる。
初心者ほど迷子になる。
だからこそ教材を作ろうと思ったのだ。
数回のやり取りの後、依頼は正式に成立した。
内容はシンプル。
オンライン面談一時間。
その後、業務内容に合わせた簡単な活用資料を送る。
報酬は五千円。
大きな金額ではない。
昼食代なら何十回分にもなるが、人生を変える額ではない。
だが優守は少しだけ緊張していた。
副業時代の経験はある。
それでも個人事業主として受ける最初の依頼だった。
当日。
面談は問題なく始まった。
相手が困っていることは明確だった。
AIを知らないのではない。
使い方が分からないのだ。
だから優守は難しい話をしなかった。
第一回のテーマは、メール作成。
それだけに絞った。
毎日の業務で必ず使う。
効果も分かりやすい。
初心者が最初に成功体験を得るには十分だった。
実際の業務メールを例にしながら、
AIへの指示の出し方。
修正の仕方。
確認すべきポイント。
一つずつ説明していく。
最初は戸惑っていた依頼主も、三十分ほど経つ頃には自分で文章を作れるようになっていた。
予定していた一時間は、あっという間だった。
最後に優守は今後の流れを説明する。
第二回は報告書作成。
第三回は情報整理。
第四回は資料作成補助。
第五回まで受講すれば、日常業務でAIを活用できるレベルを目指せる。
さらに継続コースでは、
動画編集補助。
情報発信。
副業への活用。
そういった内容も扱う予定だった。
依頼主は何度も頷いていた。
「なるほど……順番に覚えていくんですね」
「一気には無理ですからね。道具は慣れが大事です」
優守がそう答えると、相手は少し安心したように笑った。
「それなら私にもできそうです」
その言葉を最後に、初回講座は終了した。
数日後。
再び通知が届く。
評価とメッセージだった。
優守は何気なく開いた。
---
「ありがとうございました。
正直、最初は半信半疑でした。
ですが教えていただいた方法を試したところ、毎日時間を取られていたメール作成がかなり楽になりました。
今まで何十分も悩んでいた文章が、短時間で形になるようになったのは驚きでした。
残業時間も少し減り、家族と過ごせる時間も増えました。
メール作成だけでも十分価値がありました。
それと、とりあえず五回コースの継続受講を申し込ませていただきました。
今後ともよろしくお願いします。」
---
優守はしばらく画面を見ていた。
五千円。
金額だけなら小さい。
宝くじの当選金額と比べるまでもない。
だが、不思議なことに嬉しかった。
売上が入ったからではない。
誰かの問題が一つ解決した。
その事実の方が大きかった。
優守はパソコンを閉じる。
窓の外は夕方だった。
会社員だった頃、自分も同じように残業していた。
効率化なんて言葉を聞いても、結局何をすればいいのか分からなかった。
だから少しだけ分かる。
あの依頼主が何に困っていたのか。
そして、なぜ感謝してくれたのか。
スマホを机の上に置く。
売上は小さい。
だが、それでいい。
優守は静かに息を吐いた。
そして、新しく作りかけの教材ファイルを開く。
感謝の言葉を読んだ今なら、少しだけ良いものが作れそうな気がしていた。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




