第二章4「帳簿という仕事」
全面的に自己責任でお願いします。
気付けば、机の上には書類が増えていた。
レシート。
領収書。
銀行の明細。
メモ。
取引内容を記録した書類。
どれも単体ではただの紙切れだが、まとめると「記録」になる。
優守はノートパソコンを開いた。
画面には会計ソフトの初期設定画面が表示されている。
(ここからは、ちゃんと“形”にしていく段階やな)
税理士からも、会計ソフトの導入は早めにと言われていた。
理由は単純だ。
後からまとめると、面倒になるから。
優守は淡々と入力を進める。
事業区分。
口座連携。
収入の分類。
作業は地味だった。
だが、嫌いではない。
むしろ、頭の中が整理されていく感覚に近い。
そのときだった。
視界の端に、わずかな違和感が走る。
(……またか)
優守は軽く目を閉じた。
意識の中に、情報が“展開される”感覚がある。
領収書の一枚一枚が、ただの紙ではなく「意味付きのデータ」として並び替えられていく。
日付。
用途。
事業区分。
税区分。
それらが、勝手に整理されていく。
(仕訳の補助か……いや、ほぼ自動分類やな)
完全自動ではない。
だが、明らかに人間の判断速度を超えている。
必要な確認だけが、最後に残る形だ。
優守は小さく息を吐いた。
「……便利すぎるやろ」
思わず独り言が漏れる。
手は止めない。
むしろ、スピードは上がっていた。
もう頭の中で分類が終わっている。
あとは会計ソフトへ入力するだけだった。
領収書をスキャンすれば、候補が三つに絞られる。
最終確認だけを自分がやる。
(これ、もう“作業”って言っていいんか? 最初にAI作ったのは正解やな)
そんな疑問すら、どこか他人事だった。
ただ、確実に言えることがある。
楽だ。
圧倒的に楽になっている。
数時間後。
机の上の書類は、きれいに分類されていた。
入力ミスはない。
仕訳も一通り終わっている。
優守はパソコンを閉じた。
「地味やけど……嫌いじゃないな、こういうの」
誰に言うでもなく、そう呟く。
派手な成果はない。
誰かに褒められるわけでもない。
だが、確かに“整っていく感覚”だけはしっかりあった。
そしてそれは、奇妙なことに――
今の優守にとって、一番安心できる種類の感覚だった。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




