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色なし魔法士は今日もご機嫌  作者: 橘中の楽
色なし魔法士は飛び級したい
39/103

2の十八 ジョシュアと魔力荒れ

ーーージョシュアさまにわたしごときが連絡してもいいのか?


デニスに背中を押され、一度はやる気になったライラだったが、自室に帰り、冷静になるとダメだった。


ーーー国王の補佐ってめちゃくちゃ多忙だよね?前世の大統領だって、分刻みのスケジュールって聞いたことあるし。


ライラは無邪気にわたしと会う時間を作ってください!などと送れるタイプではなかった。

自室のベットで三時間近く魔力通話とにらめっこをしていたライラ。

途中では、痺れを切らしたフェルが、ジョシュアの元へと飛ぼうとし、ライラに尾を掴まれていた。

今は飽きたのか、クッションの上で寝息を立てている。


結局、ライラがオズワルドに連絡できたのは、日付が変わるような時間だった。


ーーー返信は明日だろうな。


通話を置き、今日はもう寝よう、とライラが立ち上がったところで、魔力通話が着信を告げた。

画面に映し出された見慣れぬ番号。

ライラは驚きのあまり、魔力通話を取り落としそうになりながら、画面をタップした。

まさか、ジョシュアなのでは??と予想し、こっそり録音しているあたりちゃっかりしている。

ドドドドドド、と早が目を打つ心臓。


[ライラックか?ーーーOZに聞いた。何か用か?今、ミーティアウィークの準備に追われていて、来ても相手をできるものがいない。]


通話から聞こえたのは、ライラの予想通り、敬愛してやまないジョシュア本人の声だった。また、なぜか耳慣れない、ゴゴゴという雑音も混じっている。


ライラは自分の魔力通話からジョシュアの声が聞こえてくるという事実に、歓喜したがーーーその通話内容に、しょんぼりと肩を落とした。

しかし、当たり障りない言葉を並べ、通話を切ろうとしたところでーーーようやくジョシュアの声の他に奇妙な音がすることに気がついた。


「あのジョシュアさま、この時間なのに外におられるのですか?何やら耳慣れない音が聞こえるのですが。」


[ーーーああ、これは魔力の音だ。わたしは室内にいる、気にしないでくれ。もう切るぞ。ーーーよく休みなさい。」


え?魔力の音?というライラのつぶやきは、ジョシュアには届かなかった。

すでに、通話は切られていたのだ。


ジョシュアにしては珍しく、余裕がないように感じた。


ライラは妙な胸騒ぎがした。

録音してあった音声を再生してみるとーーー


「ああ、今日もいい声…だけど、ちょっと掠れてて早口になってる?」


ライラは首を傾げーーーすぐに違う番号を探しはじめた。


ライラの真夜中の呼び出しにもーーーレイモンドはしっかりと答えてくれた。


説教は受けたが。


「ーーーライラちゃーん?今何時かわかってる?病気の子は早い時間に寝なさい!」


レイモンドが息を吐くようにライラを叱る。

また、母親みが増したな、とライラは内心で笑いつつーーー


「あの、ジョシュア様の様子がおかしい気がしたんですけど、何か知ってます?」


ライラの問いかけにーーー電話の向こうで、レイモンドがパーシヴァルと何やらやりとりしているのがライラにも聞こえてきた。


もはや、同じ部屋にパーシヴァルがいるという事実に、突っ込む気も起きないライラ。


黙って待っているとーーー次に聞こえてきたのは、パーシヴァルの声だった。

ライラは思わず立ち上がった。

満面の笑みで電話口に向かってお久しぶりです!と叫んでしまい、パーシヴァルに舌打ちされた。


「ついこないだ話しただろ…で?ジョシュアの様子がおかしいって?詳しく説明。」


ライラは、パーシヴァルに先ほどの通話内容を伝えた。

録音もあるから聞くか尋ねたが、嫌そうに断られた。


「ーーーお前、相手もわからなかったのに録音したの?相変わらずやることがストーカーっぽいな。…でも、指摘は的をいている。この時期のジョシュアは、魔力荒れがひどいんだよ。しかも、黒竜さまの加護が弱くなるにつれてひどくなってるって。ーーー俺の方に連絡きてねえから予想でしかないけど。…王宮にいないから気を使ったか。」


ちっ、とパーシヴァルが舌打ちする。


ライラは知らなかった、というか、ほとんどの人に伏せられているのだがーーー黒の魔力を持つ王族は、ミーティアウィークにかけて、毎年体調を崩すらしい。

ジョシュアやパーシヴァルは、黒の魔力が多いせいか、この時期は周囲の人が周りに近づけなくなるほどに魔力荒れがひどくなるらしい。


「ーーー俺とジョシュアは毎年、この時期は同室にして、なんかあったらお互いを呼ぶことにしてたんだ。俺の方がまだマシだったから、なんとかなってたけど、あいつ今どうなってんだ?…俺の方が不思議と大丈夫だったから忘れてたわ。」


パーシヴァルによると、9月から10月にかけて黒の魔力が膨れ上がり、手がつけられなくなるがーーーミーティアウィークの始まりの10月1日になると、必ずおさまるらしい。


「黒の魔法っていうのは本当に不思議ですね?」


ライラのつぶやきに、パーシヴァルは苦々しい声で同意している。

色々と苦労してきたようだ。


それで、話を戻すけどーーーとパーシヴァルが続ける。


「お前さ、俺の代わりにジョシュアの様子見てきてくんね?どうしようもなかったら、俺が戻らないと。」


へっ!?と素っ頓狂な声をあげたライラ。

しかし、パーシヴァルの中では、ライラがジョシュアの様子を確認に行くことはすでに決定事項のようだ。

明日、朝イチで行けと有無を言わせない口調で命令してくるパーシヴァル。

条件反射でライラは、拝命しました!と答えてからーーー本当に自分でいいのでしょうか?と小さな声で尋ねる。


「オズワルドが連絡してこない時点で、ジョシュアは大丈夫って答えてると思うんだよな。ーーーでも、あいつの大丈夫は全く当てにならねえ。」


パーシヴァルが珍しく、ジョシュアに親身になっている。

逆はよくみるのだが。

ライラはそのことが意外だったが…パーシヴァルがボソリと続けた言葉で、納得せざるを得なくなった。


「魔力荒れの辛さは経験者しかわからねえんだよ。内側が燃え上がってるみたいな…、その状況で最後の方は水も食事も、誰も運べなくなるんだぞ?ーーー普通に死ねる、さすがに放っておけねえ。」


ライラは、熱が高い時の体内が荒らされているような感覚を思い出しーーーアレが数百倍になったことを想像した。


ーーーものすごく納得できたわ。ジョシュアさま、大丈夫かな?


しかし、ライラはまだ納得できなかった。

自分が行ってどうなるんだと思ってしまったのだ。


「そこまでの緊急事態ならパーシヴァルさまが今から行った方が良くないですか?」


ライラの問いかけにはーーーパーシヴァルのため息が返ってきた。


「お前ほんと自覚ないのな…お前が唯一可能性あるから頼んだに決まってんだろ。あと俺の、お前らのすれ違いをどうにかしてやろうって優しさ、ありがたく受け取っとけ。」


ぶっきらぼうな口調で伝えられた、パーシヴァルの言葉にーーーライラは泣いてしまった。


「ーーーパーシヴァルさまあ。大好きですぅぅ。」


うへへへへと笑いながらライラは大粒の涙を溢す。


「は?気持ち悪いからやめろ。ーーーしかも、お前も早く寝ろ!ジョシュアの前にお前が倒れるぞ。」


照れたようにパーシヴァルが早口でまくし立て、ブツっと明かりが消えた魔力通話。

ライラはしばらくの間、締まりない笑顔で画面を見つめ続けたのだった。



翌日の早朝、竜門がまだ空いていないような時間に、ライラは王宮のジョシュアの元へと行こうと寮の自室でパタパタと支度のために走り回っていた。


ライラは、いつものラフな服装ではなく、光沢のあるシルクと防魔効果がある蜘蛛魔獣の糸を合わせて作られたワンピースのような服に、ぴったりとした膝まであるブーツを身につけている。

普段の歩きやすい靴と異なり、液状にされた魔石が塗られた靴底が、床の木の板をコツコツと打つ音が気になるのか、ライラは若干すり足になっていて、フェルに笑われていた。


そして仕上げにデニスのお下がりである黒のニットを着て、急いで出かけようとしたライラを止めたのはミシェーラだ。


「ーーーライラ、本気でその格好で王宮にいくつもりなの?」


「ーーー?うん。だって、オズワルドさんが制服じゃなくて、私服で来ていいって言ったから。」


ライラは、一応、突撃することをオズワルドに連絡していた。

パーシヴァルの命令だと書いたら、それはジョシュアさまも断れないですね、とおかしそうにオズワルドも言っていたのだ。


でも急いでるからーーーと言ったライラの腕を掴んだミシェーラ。

困ったような顔でライラが振り返るも、絶対に着替えるべきだと言ってミシェーラは譲らない。


「王宮の『私服』を、私たちの基準で考えちゃダメよ。…ライラ、ジョシュア様の評判を落としたくないなら、今度から王宮へ上がる時は、私に服装を相談してから行きなさい。」


ミシェーラが呆れたような顔をしているのを見て、ライラは自分の服装がどうやらまずいことを悟った。


ドレスコードなど全くわからないライラは、流行る気持ちを抑え、ミシェーラに言われるがまま着替えた。

なぜか、ライラにぴったりのサイズの服が次々に出てきて首を傾げることになったのだが。


「ミシェーラ、この服ってどうしたの?」


「ああ、わたしがプロデュースしてるブランドの新作。ボツになったデザインだから売り物じゃないんだけど、ライラには似合いそうだなと思って取っておいたの。」


何気なく「プロデュースしている」というミシェーラ。

ライラは久々に可憐すぎる友人の実家の本業を思い出した。


ーーーつまり、ミシェーラのブランドのファンにはとんでもない価値のある服なんじゃ?


本当にもらってしまっていいのか、考え込んだライラ。

しかし、すぐに思考を放棄した。

ライラの生きてきた基準の物差しの中に、「特注ブランドの服」というカテゴリは存在しなかったのだ。


本人がいいと言っているならいいかと無理やり結論づけーーー今度どこかへ行ったら、自分がミシェーラとデニス二人にお土産でも買ってこようと決意する。


しかし、ライラには気になることがあった。


「ーーーミシェーラ、なんでフィメルよりの服ばっかりなの?」


「そんなのわたしと…偶然うちに来てたデニスの願望に決まってるじゃない。ーーー一応ニュートの服よ?可愛らしいデザインのものが多いけど。」


センスはいいから心配しなくていいわよ、と言われ、そういうことじゃないんだけどなと思いつつーーー二人の友人が選んでくれた物を、断れるライラではなかった。


出来上がったのは、黒い膝下のシャツタイプのワンピースに、腰のところをベルトでしめたスタイルだった。


鏡を見たライラが目を輝かせる。


「この色、ジョシュア様の瞳の色だ!」


一見すると真っ黒なのだが、光が当たると青いグラデーションが見えるデザインの布地は、若いフィメルに一番人気の色だった。加工が難しいため値段も張るのだが、ライラはそのことを知らない。

想像通り、大喜びする友人を見て、ミシェーラも満足げにうなずいた。


「ちゃんとパーシヴァル様のお供の時バージョンもあるのよ。そっちは紫のグラデーション。」


ライラはしばらく、くるくると回って青いグラデーションにうっとりしていたがーーーベルトにはめ込まれた魔石の色を見て、苦笑いした。


「ーーーその基準でいくと、このベルトの魔石の真紅は、デニスの色だね?」


ベルトには純度の高い真っ赤な魔石が波紋のように散りばめられている。

黒地に赤が映えてーーーワンピースとは対照的にマスキラよりのデザインだ。


ライラの言葉にミシェーラがふふふと笑った。


「そのベルトは普段使いできるように、ライラが好みそうなマスキラよりのデザインにしたの。デニスが夏の間に狩った、ワードタイガーの瞳から取ったらしいわ。」


「ワードタイガーって…ほぼ上級の中級魔獣じゃなかった?」


「兄様方に手伝ってもらったと入ってたけど、瞳の魔石をもらえてる以上はデニスが主体で倒したんでしょうね。」


魔獣から得られる素材は多岐に渡る。

しかし、その中でも魔石は一体につき一つしか得られないため、価値が高く、狩りにおいて一番貢献度が高い者が取るのが通例だそうだ。

これらはデニスの受け売りである。

ライラは魔獣を狩る予定などないので、他人事のようにほうほうと聞いていただけだが。


赤属性同士で相性が良かったのだろうがーーー十三になりたてで、強力な魔獣を倒すデニスはやはり規格外なのだろう。

うっすらとそんな気がしていたライラは、やはりなと内心うなずいていた。


「デニスって才能もあるし、顔も整ってるし、本当に私に惚れてなきゃ完璧だったのにね。もったいない。」


「そんなことを真顔でいうニュートに惚れたなんて、デニスがほんとに哀れだわ。ーーーとか言いつつ、ちゃっかりもらうライラが好きよ。」


「だって、このベルトかっこいいもん。デニスにお礼言おうっと。ーーーでも今は急がなくちゃ。ミシェーラ、今度改めてお礼はさせてね。」




シャーマナイトのドアがズズウン、という重い音を立てて開くと、オズワルドが扉の前で出迎えていくれた。


部屋の奥からは、ゴゴゴゴゴーーーという鈍い音が絶えず響いてきている。


いつもの金髪美女や、その他の使用人の姿が見えないことにライラは首を傾げた。

オズワルドは、そんなライラの様子を見て、目を見開く。


「ライラックさんは、本当に何も感じないのですね?ーーーあの扉をくぐれるのが、今の王宮ではわたしだけなのですよ。」


オズワルドは苦笑している。

ジョシュアとパーシヴァルの部屋は、特別仕様なのだそうだ。

二人の魔力荒れによって破壊されないように、何重にも魔法がかけられているらしい。

年々ひどくなっているように思います、とオズワルドは苦い表情だ。

ジョシュアの魔力との相性がいい彼でさえ、ジョシュアの寝室がある部屋の扉はくぐれないらしい。


「昨日で三分が限界でした。今日はもう…入った瞬間、多分立っていられないでしょう。絶対誰も入れるな、とジョシュア様からは言われていますが、パーシヴァル様の命令が、ライラックさんにはありますもんね?」


悪戯っぽくライラに笑いかけた後ーーーオズワルドはふと真顔に戻った。


「一週間、主人を放っておくことになるのかと思うと、わたしも気が重かったのですよ。」


だから、パーシヴァルさまのお気遣いは大変助かりますとオズワルドは言った。


ただしーーージョシュアは絶対にいい顔はしないだろうとも呟く。


「わたしは十月一日に、ライラックさんは今日、ジョシュアさまから叱責を受けるでしょうがーーー覚悟しておきましょうね。」


入り口から三つ目にあたる、ジョシュアの寝室の扉の前には、中から大量の魔素が漏れ出していた。

オズワルドは魔力に当てられるのか、二つ目の部屋までライラを案内すると、足早に引き返して行った。

徐々に魔力の密度が高まっていくのはライラにもわかったので、恐縮するオズワルドにあとは任せてくださいと伝えた。

ライラの手には朝食だという盆が載せられている。


「ーーー失礼しまーす!」


ライラは騒音に負けないように大声で叫び、フェルに目配せして、扉を空けてもらった。


ライラは一歩室内に踏み入れーーーまるで、滝壺の前に来た時のような感覚になっていた。


ーーーマイナスイオンを全身で浴びているみたい。


ジョシュアから溢れ出しているのだろう、今までに経験したことがない濃度で黒の魔素を感じる。

心地よい感覚にライラは笑顔になったがーーーガタンっという物音がしたため、慌てて机に食事を置き、天蓋の方へと駆け寄った。


しかし、室内に怒鳴り声が響いた。


「ーーー来るな!…誰だ?OZか?…わたしのことは放っておけ。普通の人間と違うから一週間くらい飲まず食わずでも平気だ。」


ゼイゼイという息苦しそうなジョシュアの声。

ライラはびくっとしてあと数歩のところで立ち止まったがーーー意を決したように、黒のビロードを掴むと、一気に中を開けた。


ジョシュアは寝台から転げ落ちたのだろう。

床でうずくまっていた。

ライラは、やめろ…と言い続けているジョシュアの低い声を無視し、彼の大きな手をとった。

軽く手を引き、引き上げようとしてみるもーーージョシュアは苦しそうに、唸るばかりで、動かない。

床に寝そべった姿勢のまま、力が入らないらしいジョシュア。

フェルが浮遊魔法をかけようとしていたが、彼自身が発する魔力に弾かれてしまっていた。


ライラは慌てて鞄の中をあさり、身体強化の魔法陣を取り出した。

ライラには一瞬しか効かないが、一瞬あればジョシュアを寝台にあげるくらいはできるだろう。


フェルの呑気な応援の声が響く中で、190リュウほどもあるジョシュアをなんとか寝台にあげた時、ライラはすでにくたくたになっていた。


ジョシュアはずっと苦しそうに目を閉じていたがーーー寝台に寝かされたことで、意識が戻ったらしい。

ハッとしたように目を開きーーーライラの姿を捉えると、彼の表情は驚愕の色に染まった。


「なぜここに人間が?ーーーOZか?すぐにでてけ…。」


ーーーあれ?ジョシュアさま、わたしが誰だかわかっていないのかな?


ライラは名乗るべきなのか迷いーーー今は自分の名前よりも優先させるものがあることを思い出した。


出てけ、と繰り返すジョシュアの口元に、用意されていた雑炊や水を運ぶ。

はじめは拒否しようとしたジョシュアも、そのうち諦めたように黙ってなされるがままになった。


「食事はよし。清浄魔法はーーー多分弾かれるな。フェル、ジョシュアさまの体を拭いてあげて。ーーーせめて、ローブから見えているところだけでも。」


そう言って、ライラは濡らしたタオルをフェルに向けて差し出した。

フェルは、「はーい」という返事とともに、器用に浮遊魔法を使ってタオルをスイスイと操っている。


フェルが体を清めている最中に、再び眠ってしまったジョシュアの顔を、ライラは椅子に座って眺めていた。


しばらくすると、ジョシュアは悪夢でも見ているのだろうか。

目を閉じた彼の顔に苦痛がにじむ。


「ーーー俺のせいで…かあさま。すまない。」


そんな呟きと共に宙に伸ばされた手。

ライラは無意識のうちに、その手をつかんでいた。

思い出されるのは、幼い頃に出席した国葬。


ーーー確かあれも、秋だったはず。…王妃さまが亡くなったことに、まさかジョシュアさまは関わっている?


苦しそうなジョシュアはうなされ続けている。

ライラは、ジョシュアに聞こえていないと理解しつつも、語りかけずにはいられなかった。


「ジョシュアさま、大丈夫ですよ。あなたの気持ちは天にも伝わっていますよ。」


ライラが優しくジョシュアの手を握り締めているとーーー彼が目を覚ました。


そして、真っ青になった。


「ーーーフェル…ということは、お前はライラックか?…今すぐここから立ち去れ。俺はもう、誰も失いたくない。」


早くいけ、命令だ。というジョシュア。

しかし、ライラは黙って彼の手を握り続けていた。

大して力も入れていないライラの手を、振り払わないのがジョシュアの答えだと思ったからだ。


いつまでも、立ち去れ、早くいけ。そればかりジョシュアは繰り返す。

黙ったままのライラにかわり、言葉を発したのはフェルだ。


「ライラはパーシヴァルに頼まれてきたんだよ。何を怖がってるのか知らないけど、ライラは魔力に気圧されることはないから大丈夫。ーーー今のジョシュア、ボロボロじゃん、せっかくきてあげたんだから、ボクたちに世話されときなよ。」


フェルの指摘した通り、満足に食事が取れなかったせいか、ジョシュアは少し痩せてしまっていた。

いつもの力強さに、儚さが加わり彼の美貌に磨きがかかっているようにライラは感じた。


黙り込んだジョシュアにーーーライラもやっと口を開いた。


「ジョシュア様、後で命令違反の罰はいくらでも受けますから、今はお側にいることをお許しください。わたしはこの通り、何の問題もなくお世話できるようなので。ーーーパーシヴァル様も心配されてましたよ。」


ライラの言葉にーーーこの日初めて、青みがかったジョシュアの瞳がライラを捉えた。


「ーーー今年、パーシヴァルは平気なのか?」


「ええ。忘れていた、とおっしゃっていましたので、普段通りみたいですよ。」


ライラの言葉に、安心したのだろう。ジョシュアはフッと柔らかい表情になった。


ーーーパーシヴァル様、めちゃくちゃ愛されてるなあ。


ライラがそんなジョシュアをニコニコと眺めているとーーージョシュアは、ようやく自分がライラと手を繋いでいることに気が付いたらしい。

手袋越しではあるものの、驚いたのだろう。繋がれた左手をじっと見つめている。


ライラはジョシュアの反応を見て、慌てて手を引いたがーーージョシュアにギュッと握り込まれたため、手を離すことは叶わなかった。


予想外の出来事に目を白黒させたライラにーーージョシュアはポツリと告げた。


「夢の中で、懺悔するわたしの手を、母様が取ってくれたんだがーーーライラックが来てくれたからか。いつもと違う夢だから、不思議だったんだ。」


ーーーありがとう。


唸りを上げる魔力の渦の中で、聞き逃してしまいそうなほど小さな声で告げられた、お礼の言葉。


ライラは手をギュッと握りしめ返すことで、それに応えた。


ライラはその後、一週間、ジョシュアの離宮に通い続けた。

学園の授業があったため、ゆっくりと話したのは初日だけだったがーーーオズワルドに言われるまま、掃除や食事の用意などジョシュアのために働いた。


九月の最終日、ライラがジョシュアの離宮を訪れると、肝心のジョシュアの姿は見えなかった。

首を傾げたライラにーーー金髪碧眼のフィメル、アイリーンが歩み寄る。


アイリーンが差し出したのは、青いリボンが巻かれた箱だった。


「ジョシュアさまは回復されて、執務に戻られたわ。ーーー開けてみなさい、ジョシュアさまからのプレゼントよ。一週間のお礼だって。」


ライラは箱を受け取ったあと、しばらく固まっていた。

そんなライラを、アイリーンがなぜかデコピンした。


いたっ!?と驚きの声をあげたライラだがーーーそんなライラにアイリーンがピシャリと言い放った。


「早く開けてみなさいよね!?私たちと箱の大きさが違うのよ!」


大きな瞳を釣り上げて怒るアイリーンに急かされ、ライラは慌ててリボンを解いた。

出てきたのは、全てが魔石でできた黒の指輪だった。


ライラはその指輪を魔力灯にかざしてみた。

わずかに光を通すその指輪からは、不思議とジョシュアの魔力を感じる。


ーーーこれ、何だろう?


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