2の十四 決闘
ライラたち三人は、朝から机を突き合わせ、二限の属性学の授業の小テストのための勉強をしていた。
「ーーーライラ、赤魔法の権威は?」
デニスが肩肘をつきながら参考書に視線を落とし、問題を出す。
「オク?いや、オケ?ーーーえっと…。」
考え込んだライラ。頭を動かそうとして、ミシェーラに文句を言われている。
ライラの最近伸びてきたという銀の髪は後ろで編み込みにされている。
ーーーライラの髪がお気に入りだというミシェーラによって。
今も、ミシェーラはライラの右側に座り、せっせと細かい編み込みを作っている。
ーーーお気づきかもしれないが、小テストの勉強をしているのはライラだけだ。
デニスは授業中習ったことをその場で覚えられたし、ミシェーラに至っては授業を受ける必要さえ、本当はなかった。
一年生の教室で、二年生の授業の勉強をする三人。
他の生徒たちは、そんな三人を遠巻きにしつつもーーー部活動の雑用をこなしたり、最新のジーゴプレートについて話し合ったりとそれぞれが忙しくしている。
そんな朝の教室にーーー高い悲鳴が上がった。
ニュートの生徒とーーー夏の長期休暇でフィメル化した生徒たちだろう。
前方の入り口付近がにわかに騒がしくなりーーーデニスが顔をあげた。
ライラは先ほどの問題に不正解したため、暗記のし直しに忙しい。
ミシェーラは今目を離すと編み込みが崩れるからだろう。
周りの反応には目もくれずに、手を動かしている。
ーーーそんな二人に、デニスがささやいた。
「ーーーおい、顔上げろ。お客さんきた。」
デニスの声に、ライラはキョトンとした顔になった。
ミシェーラやデニスの元には、部活関連や告白まで、日々たくさんの生徒がやってくるのだがーーーライラにも用がある客とは誰だろう?
一人首を傾げるライラをよそにーーーミシェーラは、ついにきたわね、などと言い、サッと身繕いした。
斜めになったままだったライラの首をデニスが真っ直ぐになおしたところでーーーライラにも、騒ぎの元凶が見えた。
「ミシェーラ=ビリンガム、ライラック=ガブモンド、デニス=ブライヤーズはいるか?」
現れたのは、180リュウ以上ある長身のマスキラ。
青みがかった紫色の髪は、短く切りそろえられている。
視線を動かし教室を見渡しーーーすぐに、ライラたちへと目を向けた。
ライラは、有名人の登場にぽかんと口を開けた。
ーーーライラたちの教室にやってきたのは、王族の一人。四年生のダスティンだった。
長いコンパスで、教室のかなり奥にいた三人の前まであっという間にきたダスティン。
「くっーーーいい筋肉!」
ーーーとミシェーラが唸っている。
乱雑に腕まくりされた前腕が彼女的にはツボだったようだ。
目を輝かせるミシェーラ、呆けたままのライラーーーデニスはそんな二人を見て、若干遠い目になった後、スッと立ち上がった。
そして、ダスティンの前に進み出て、サッと膝をつく。
デニスが所属する魔法剣術部は礼儀に厳しいことでも有名だ。
同じ部の先輩にあたるダスティンに、デニスはすかさず挨拶をしていた。ダスティンも慣れたようにうなずき返す。
「おはようございます!ダスティン先輩!…一年生の教室まで、何をしに?」
デニスの疑問に、ダスティンは例の件だ。などと答えている。
デニスもついにそんな時期ですかと納得の顔だ。
ライラは自分だけが話についていけていない雰囲気にーーー両手をほおに当ててダスティンに見惚れるミシェーラをつつくことで説明を求めた。
ミシェーラはダスティンに視線を固定したまま、コソコソと教えてくれた。
「ーーー黒薔薇団への勧誘よ。まさか、ダスティンさま自ら足を運んでくださるなんて…。」
再びほうっと息をついたミシェーラ。
黒薔薇団というワードをどこかで聞いたぞと思い、ライラは必死に頭をひねる。
そして、ようやく思い出した。
「ーーーあ、アツムさんが言ってたところだ!」
ライラが声を上げたことでダスティンの視線がライラと、その横にいるミシェーラに向けられた。
そしてーーーなんと、ダスティンはミシェーラの前に膝をついたのだ。
ざわめく教室。
王子らしい、凛々しい横顔。切れ長の青い瞳がミシェーラをひたと見据えている。
そんな光景に、王子でもミシェーラの魅力は通じちゃうんだな、などとライラが一人でうなずいている中ーーー
ミシェーラは青ざめていた。
この後、起こることに予想がついたらしい。
慌てて何か言おうとしていたがダスティンの方が早かった。
白い封筒をミシェーラに差し出しながらダスティンのバリトンボイスが響き渡る。
教室内の生徒は誰もが二人のやりとりを固唾を飲んで見守っている。
「ーーーミシェーラ=ビリンガム嬢。来年から黒薔薇団に入るあなたに、わたしが一番に申し込みをしたくて、こうして足を運んだ。…卒業パーティーのパートナーになってくれ。」
ミシェーラは真っ青になりながら耳を赤くする、という器用なことをしながらーーー一瞬ためらうように視線を彷徨わせた後、戸惑いがちに頷いていた。
自分の提案が受け入れられたのを見て、満足そうな表情になったダスティンはーーーミシェーラのマントの留め金の横に何やら黒い薔薇のブローチを刺していた。近くにいたライラには、下につけられた黒のプレートに金色でダスティンの名前が彫られているのが見えた。
ブローチが刺された瞬間、教室内だけでなく廊下からも悲鳴が上がったのはライラの気のせいではないだろう。
いつの間にか、授業前の一年生の教室の前には人だかりができている。
他学年の生徒までもが騒ぎを聞きつけやってきたようだ。
写真の音まで聞こえたように感じ、ライラは思わず眉を潜める。
ダスティンはついでとばかりに立ち去る直前、デニスとライラックの分だと言って封筒を置いていった。
ライラはデニスと顔を見合わせた後、自分の分の封筒を手にとった。
ご丁寧に黒の蜜蝋が施されている。
黒薔薇を象ったマークが、どうやらこの学園組織のシンボルマークらしい。
ーーーなんでわたしがって言いたいけど…これのせいだろうなあ。
ライラは思わず、首にはめられているチョーカーへと手を伸ばした。
冷たいチョーカーが、シャラリと音を立てる。
驚きでしげしげと封筒を見つめるライラとは違い、デニスは以前から黒薔薇団入りをほのめかされていたらしい。というのもーーー
「にいちゃん二人とも入ってたし、こうなるとは思った。」
やっとプレートもらえるなあ、などとご満悦だ。
ジーゴプレートがもらえるのが楽しみで仕方なかったらしい。
ビュンって飛ばすぜ!などと、最近の彼にしては珍しくはしゃいでいる。
来年からは寮の部屋も変わるというデニスの言葉でーーーいかにも特別な集団にライラは本当に自分が入ってていいのかと再度唸ることになった。
しかし、そんな二人の会話に、ミシェーラが入ってこない。
寮の部屋は三人横並びだーーーという話になったところで、ライラたちはようやくミシェーラがおかしいことに気がついた。
どうしたの?と、問い詰めても、ミシェーラは弱々しくなんでもないのを繰り返すばかり。
そこへ一限の担当教員であるフレイザーが入ってきた。
ダボっとしたマントをはためかせながら入ってきた彼は、いつもよりも大きい喧騒に眉を潜めた。
フレイザーは、いまだにざわめく生徒たちが口々に言っている単語ーーーそして、いまだにライラたちの机に出されていた封筒を見て、大体の状況を察したらしい。
いつもの三割増に渋い顔になった後ーーー時間だからと突然授業を開始し、そんな彼を見て、慌てて生徒たちは席に戻って教科書を引っ張り出し、板書を取り始めたのだった。
朝の騒ぎで、属性学の小テストの結果は散々だったーーーライラだけは。
ミシェーラは上の空なのに満点だった。デニスも、当然のように高得点だった。
この世の不条理を恨みつつーーー食堂に来ていたライラたちは、ミシェーラを問いただすことにした。
二人がいくら聞いてもミシェーラは首を振っていたがーーーデニスがやがて怒ったように言った。
「ミシェーラちゃん、俺らってそんなに頼りない?いつも、ライラのために色々手を回してるのは知ってるけどーーー困ってる時は助け合おうぜ?…ダイアナ先輩のことで悩んでんだろ?」
デニスの言葉にーーー俯いていたミシェーラが、ばっと顔をあげた。
そして、観念したように笑い…ポツリポツリと事情を話してくれた。
何も事情を知らないライラにもわかるようにとーーー話はミシェーラの幼い頃までさかのぼる。
ミシェーラは小さい頃から王族やブライヤーズ家など、限られた交友関係の中で育てられた。
そんなミシェーラの幼なじみに、ダイアナというフィメルがいる。
ミシェーラは同じく、幼くしてフィメルになったダイアナに大変懐いておりーーーミシェーラのことを、ダイアナも大変可愛がっていたそうだ。
まるで姉妹のように仲がいいという二人。
しかし、そこまで言ってーーーミシェーラは涙をこぼした。
クーガンがサッとハンカチを差し出している。
レースのハンカチで涙を拭いながらーーーミシェーラはこう続けた。
「ーーーでも、もう、ダイアナさんとの仲も今日でおしまい。だって、だって…ダイアナさんはダスティン先輩の婚約者なの。婚約者が学園にいるのに、なんでわたしなんかを…ダイアナさんがなんて思うか。」
ポロポロと涙を流すミシェーラは、すました顔をしていることが多い普段の大人びた様子からのギャップが凄まじくーーー周りにいたマスキラの生徒たちが、怒りの表情で立ち上がっているのがライラには見えた。
ダスティン先輩はどこだ!などという声が聞こえてくる。
ミシェーラを泣かせるマスキラは、たとえ王族であろうと許さないということらしい。
ミシェーラの頭を撫でつつーーーライラは思った。
こんだけ可愛ければ仕方ないんじゃない?と。
ミシェーラが言うにはダイアナさんも美人ということだがーーーまあ、ミシェーラちゃんには負けるわな、とデニスがボソッと言っていた。
ミシェーラの涙は止まることがない。
ライラやデニスがミシェーラのせいじゃないと言っても首を振り続けている。
そして、あまりの頑なさにまだ何かありそうだとライラが思ったところでーーーミシェーラから衝撃の告白がなされた。
「ーーー私が壊したカップルはこれで、少なくとも百組…もういや。なんで?私は望んでないのに!」
「「ひゃ、百組目!?」」
デニスとライラはハモってしまった。
顔を見合わせーーー確認するように、クーガンを見る。
気まずそうに頷いたクーガン。
あんぐりと口を開けたデニス。
そんなデニスを見て、ライラは少し冷静になった。
デニスがミシェーラに惚れていない貴重な存在だから、幼なじみをやっていけるのかもしれないと今更ながらにライラは気がつく。
泣き続けるミシェーラは、午後の授業を休むことにしたらしい。
ミシェーラのために、どこからか現れた親衛隊の会長が移動プレートを差し出していた。
エスコートされながらプレートに乗るミシェーラと、それを痛ましそうな顔で見守る親衛隊たち。
親衛隊に入っていてデニスと仲がいいクラスメイトがいうには、ミシェーラが泣いている緊急事態だと食堂に招集命令が出されたらしい。
どおりで食堂が混んでいるはずである。
いつもなら、速攻で昼食をかき込み、運動場へと走り出ていくようなマスキラがいつまでも残っているからおかしいなとライラも感じていたのだ。
ーーーもはや、どこから突っ込んでいいのかもわからない。
思わず真顔になったライラ。
先ほどまでミシェーラの泣き顔に胸が締め付けられていたが、それ以外の情報のインパクトが強すぎた。
「ーーー可愛すぎるのも、大変、なんだな。」
デニスがボソリと言ったこの言葉に、ライラは深く頷いたのだった。
◯
ミシェーラ抜きで、ライラとデニスは午後の授業に臨んだ。
実技だったのでーーー二年生の授業だったが、ライラはデニスとペアを組むことで、比較的あっさりと課題をクリアした。
「世界一硬い魔石といわれる岩トカゲの魔石を百個砕け。」
いわゆるパワー系の課題だ。
フェルも合わさることで、黄色、赤、青、三属性を掛け合わせることができるライラたちは、あっさりと魔石をチリにして、アルフを喜ばせた。
「本当にライラックはパワー系の課題が得意になったな!ーーー次の授業はデリケート系だから、しっかり予習してこいよ!」
アルフが最後に落とした爆弾、苦手な課題の予告にライラは遠い目になった。
しかし、次の二年生の実技の授業は来週である。
とりあえず、差し迫った授業に追われているライラはガハハ、と笑うアルフに会釈して、さっさと実技場を出た。
明日の予習をしなければいけない、フレイザーの担当している基礎魔法学で課題レポートがあるのだ。
ライラは若干目をつけられているので、課題で手抜きをすると授業中フレイザーの視線が痛いのだ。
デニスと一緒に図書館棟へと歩み出そうとしたところでーーーライラの前に、不自然に風が吹いた。
炎と水を混ぜたのだろうか、威力は弱いものの、確かに魔力の気配を感じ、ライラとデニスは警戒態勢に入った。
しかし、実際にはーーー魔法ではなく、なぜか、ヒラヒラと手袋が落ちてきた。
「「…。」」
デニスが何か言いかけたが、ライラはそれよりも前に手袋を完全に無視して、スタスタと歩き出していた。
汚いものが落ちているかのように、迂回するライラ。
デニスはそんなライラを呆れたような顔で見ている。
いつまでも追いついてこないデニスに向けて、何か言おうとライラが振りかえりーーーフェルが何かに気がついたかのように、あ!と声をあげた。
「見てライラ。木の上に人間がいるよ!」
フェルに促され、ライラが視線を向けた先。
大きな楓の木の横に、なぜか脚立が置かれている。
そして、木の枝の上には、薄桃色の髪をしたニュートが立っていた。
何やら呆然としていたその生徒だがーーーライラと視線があったことで、我に帰ったらしい。いそいそと、脚立を降りてきた。
ーーー面倒臭い予感しかしない。
ライラはデニスを引っ張ってその場から立ち去ろうとしたが、デニスはびくともしない。一人で焦っているライラを不思議そうな顔で首を傾げている。
「デニス、行こうよ!手袋投げつけてくるなんて、絶対面倒ごとだよ!」
ライラの言葉にもーーーデニスはそうだな、などと笑っている。
「でも、喧嘩は売られたら買わなきゃ。ーーー魔法学園の生徒として当然だろ?」
さも当たり前のことのようにデニスが言った。
ライラは頭を抱える。
ーーーそうだった、ここの生徒たち、基本脳筋なんだった!
アメリアイアハート魔法学園は、古くは軍の兵士養成学校だった。
今でも、もし他国と戦争になれば、ここの生徒、および卒業生たちは魔法兵として戦争に駆り出されるのだ。
退学処分が厳しいのは、「いざ」というときに弱いと死んでしまうかららしい。
ここ百年程度、戦争はないらしいがーーーライラは入学時にこの説明を聞き、少し震えてしまった。
そんなやりとりをデニスとしているとーーー脚立から降りた生徒がライラの前に立ちはだかった。
ーーーとはいえ、同学年の中では背が高いライラと、学園の中でもかなりガタイが良い方に分類され、部活大好きでいつも帯剣しているデニス。
そんな大柄な二人に見下ろされる形になったピンク髪の生徒。
一瞬怯んだように見えたがーーービシッとライラに人差し指を突きつけた。
「ライラック!お前に決闘を申し込む!ーーーおんなじような落ちこぼれだと思ったのに、いつの間にかいい成績取ってるし、周り美形ばっかだし…僕なんてもう退学がほぼ決まりなんだ!お前だけは許さない!」
放課後の昇降口という非常に人通りが多い場所で、声高に叫んだ生徒にーーー野次馬たちから歓声が上がった。
ーーーいやいやいや、逆恨みにも程があるだろ!しかも最後!退学になるとか、もはやわたし関係ないし!
スンっとライラの表情が抜け落ちる。
ライラは今すぐ立ち去りたかったがーーーいつの間にかギャラリーに周りを取り囲まれ、デニスにも期待のこもった眼差しを向けられーーー諦めたように落ちていた手袋を拾った。
いかにも嫌々です、といった風に指先だけで手袋を摘み上げたライラにーーーブーイングが起こる。
「ライラ、その手袋を相手に投げ返せ!それが、開始の合図だ。」
デニスがこそこそとささやき、すぐに離れていった。
ライラが決闘制度を知らないことを見越したフォローはありがたかったが、どうせなら決闘しないでいいようにフォローしてくれよとライラは思った。
ノロノロと顔を上げたライラをーーーピンク髪の生徒が睨みつけている。
しかし、ライラはその生徒に見覚えがない。
「ーーーきみ、だれ?」
こてんと首を傾げたライラ。
ピンク髪の生徒は、みるみる真っ赤になった。
「チャールズだよ!同じクラスの!いい加減、クラスメイトの名前くらい覚えろ!」
そうだ覚えろー!という声が野次馬からも上がる。
ーーーミシェーラちゃんと仲良くてずるいぞー!
ーーーデニスくんだってイケメンだしずるいー!
ーーーそうやってシャーナイト様にとりいったんだー!
…決闘など関係ない、もはや周りは、騒いで楽しんでいるだけである。
ライラはなんでこんなことにーーーと思いつつ、自分も名乗った。
知ってるわ!と返され、再び首をひねる。名乗り合うのがルールなのかと思ったのだが、違うらしい。
「決闘は、お互いが降参するまで!魔法の使用は身体強化を除いて禁止!ーーーわかった!?」
わざわざ説明してくれたチャールズに、ライラはありがとう、と微笑んだ。
手袋も返すね、などと言ってわざわざ手渡ししている。
ホワホワとした空気にーーーチャールズは笑顔になりかけ、違う!と叫んでいた。
「お前が退学にならないから、僕が一番初めに退学名簿に名前が載ったんだ!それで、親には怒られるし…一発殴らせろ!」
ライラとの距離を詰めながら、チャールズは拳を振りかぶった。身体強化は使えていないがーーー彼が持つ赤属性のせいか、わずかに漏れ出た魔力により、普通の人間よりは勢いがある。
ライラは自分に向けられたこぶしに驚きで目を見張りーーー顔の前に手をかざした。
このままライラが殴られるのかと息を呑んだ観客の前で、フェルがチャールズの前に立ちはだかった。
ーーー急に巨大化することによって、文字通り、立ちはだかったのだ。
チャールズは、急に目の前に現れた金色の壁に、ぎゃっと言ってぶつかっていた。
ライラはフェルが頭に乗せていたので無事だ。
デニスも器用に体の上に飛び乗っていた。
そして、チャールズがベシャッと地面に倒れたのを確認した上でーーーフェルは巨大化をやめた。
近くにいたデニス以外に触れることなくシュルシュルと小さくなっていく姿に、巻き込まれると思い、逃げ出そうとしていた周りの生徒は足を止めた。
大きさが変わったフェルを見て唖然としているライラに、フェルがそっと耳打ちした。
ライラは、ハッとしたようにうなずき、何やらカバンをゴソゴソとあさり出した。
そして、1メートル大の杖を取り出した。
豪奢な装飾が施された見覚えのあるそれに、ギャラリーがざわつく。
しかし、次にライラがとった行動にーーー大きなブーイングが巻き起こった。
ライラは杖を振りかざして、いまだに起き上がれずにいたチャールズをタコ殴りにし始めたのだ。
チャールズが、あまりに容赦ないライラのスイングに涙目になって降参を叫んだことで決闘は幕を閉じた。
「初等部でももっとマシな決闘するんじゃないか?」
ーーーというデニスの呟きはもっともだった。
巨大化ってどういうことだ説明しなさいと頭上を漂うフェルを問い詰めていたライラがデニスの方を振り返る。
しかし、デニスに言い返そうにもライラは身体強化などできるはずがない。
魔法陣は、基本、永続的に効果を発現できないのだ。
身体強化は非常に相性が悪い魔法に分類される。
そんなライラに決闘をしろという方が無理な話だったのだ。
「フェルも対人相手で使っちゃダメって言われてるし、決闘なんて無茶だ。」
ぶすりとむくれたライラをデニスが笑った。
「結局フェルに助けられてたじゃん。ーーーあれ、俺的にはルール違反すれすれだと思うんだけど、ライラはどう思う?」
「ーーーどーでもいい、二度と手袋は拾わない。どんなにギャラリーがいても拾わない。」
あははとライラの横でにこやかに笑うデニスが、チャールズに向かって手袋を投げつけ、ボコボコにしたという話をライラが聞くのは、この三日後である。
パンパンに腫らした顔で、デニスを見ながら恐怖に震えるチャールズを見て、ライラはじっとりとした目でデニスを見た。
「ーーーたのんでない。」
しかし、ライラの抗議にもデニスは明るく笑っただけだった。
「ーーー曲がりなりにもブライヤーズが守る相手に喧嘩売るなんて、どうなるかわからせなきゃダメだろ?俺、ライラの騎士なんだぞ?」
ヘイヘイ、と笑うライラの周りでーーークラスメートが震え上がっていたのだが、ライラは気付かないフリを決め込むのだった。
ちなみに、フェルの巨大化の件について、ライラは何も教えてもらえなかった。
「大きさくらい変えられるよ?クルミもやってるじゃん。」
ライラは納得できなかったのだがーーーいつも通り、それ以上説明する気がない様子のフェルに、ライラは、フェルに出会って以来何度も経験した、「諦め」をするしかないのだった。




