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色なし魔法士は今日もご機嫌  作者: 橘中の楽
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2の七 氷竜

「ライラちゃん、だいぶ熱あるよ?本当に今日青竜探しに行くの?」


レイモンドは朝、フェルに呼ばれてライラの部屋へときていた。

そして驚いたのだ。

ライラの体調が悪いという報告を受けるまで、誰もそのことに気付いていなかった。

夕食時やすれ違う時などいつも通り元気そうに見えた。

だから、先ほどライラの体温を測ってみて、その熱の高さに驚いたのだ。


レイモンドの静止の声にも、ライラはヘラヘラと笑うばかりで、出発するという意志を曲げることはなかった。


「意外と平気ですよ?ーーーまあ、解熱剤とかあれば買い取りたいなって思いますけど。あ、報酬から代金は引いておいてくださいね。」


「解熱剤は常備分があるから持ってこれるけど。ーーー譲る気はなさそうだね。」


「あはは、もう五日目ですけど、一向に下がる気配がないので、もうなれてきちゃったんですよ。」


ライラは本当に元気そうに見えた。


しかし、レイモンドは能天気そうなライラの表情に騙されてはいけないことを実感していた。


ーーーこの子は痛みを我慢するのがうますぎる。


ライラの体調は、普通の生徒であれば寝込んで動けないような状態のはずだ。

それなのに、青竜探しが佳境だからと言って本人は休む気がない。


レイモンドはため息をついたが、それ以上ライラに何かいうことはしなかった。

青竜探しの期限が迫っていることに間違いはなかったからだ。


ーーー騎士たちは使えそうにないしな。毎日竜種は見つけてるらしいけど、実力差がありすぎて近づけないって言ってたし。


パーシヴァルに許可をもらってレイモンドは解熱剤を取ってきた。


目線で誰が具合が悪いのか問いかけてきた主人に、レイモンドはライラのことを説明した。


「ーーー確かに、若干顔色が悪かったか。…気をつけてみておいてやれ。あれは、具合が悪いことを隠すのになれている奴の振る舞いだ。」


レイモンドはパーシヴァルに了承の意を示し、再びライラの部屋へと向かう。

パーシヴァルは多めに薬を渡していいと言ってくれた。


「渡しときゃ、フェルが飲ませるだろ。」ーーーとのことらしい。本当に、誰が主人だかわからない。


ーーーパーシヴァル様の人間観察力は相変わらずだなあ。何にも興味なさそうなのに。その辺はさすが王族ってところか。


レイモンドは「具合が悪いことを隠すのに慣れている」らしいライラのことを思い出す。

そういえば、身辺調査をしたときに両親を亡くしているとなっていたはずだ。

そして、預け先であまりいい扱いは受けていない様子、と調査用紙には書かれていた。


レイモンドはライラに薬を渡しながら、探りを入れてみることにした。


「パーシヴァル様はライラちゃんの体調不良気がついてたみたいだよー。俺には全然わからなかったけど!」


レイモンド言葉にライラは苦笑いした。


「あんまり気づかれることないんですけど、さすがはパーシヴァル様ですね。ーーーにっが、この薬!」


「あはは、良薬口に苦しってね?ーーーここは味方しかいないし、具合が悪いの隠さなくてもいいんだよ?」


レイモンドの言葉にライラはキョトンとした顔になった。

そして、気まずそうにポリポリと頬などを掻いている。


「隠してたのにバレると恥ずかしいですね。ーーーでも、誰かに頼る癖がつくとやめられなくなりそうなので。薬ありがとうございます。今日こそ青竜を見つけてきますね!」


照れ隠しなのか、さっさと部屋から追い出されてしまったレイモンドは呆れた表情で閉じられたドアを振り返る。

薬の効能が効くのは一時間ごといったところか。

しばらくは安静にしていればいいが、あの様子だとすぐにでも出発するのだろう。


「誰かに頼る癖がつくと、どう困るのやら。」



レイモンドが出て行った部屋で、ライラはフェルに詰問されていた。

ライラは、ついうっかり家庭事情についてフェルに言っていなかったのだ。


「ライラは誰かに頼れないような状況なの?学校?住処ーーじゃなくて家の事情?」


はぐらかそうとしたのだが、フェルは答えるまでライラを部屋から出す気がないようだ。


チカチカと魔素による点灯を繰り返すフェル。

フェルの心情を表すかのように、大量の魔素があふれかけている。


ライラは言葉を選びつつ自分の状況の説明を試みた。


ーーー改めて言葉にするとひどいよなあ。


「ーーーわたしは両親を亡くしていて、祖母の家に預けられているんだけど…その、色なしのせいかあんまり興味を持たれていなくてね。」


「興味を持たれていないなら隠す必要ないよね?ーーーライラ?ボクに隠し事はやめな?」


蛇のくせに(?)非常に鋭いフェルの指摘にーーーライラは降参するしかなかった。

ライラもなかなかに酷いと思っているので、あまり人には聞かせたくなかったのだがーーーフェルをごまかすことは無理だと察した。


「じ、実は体調不良で休んだら親戚のまだ小さい子供たちが、このまま死ねばいいのにって言いにくるんだよね…たぶん親が言ってるのを聞いてるんだと思う。ーーーで、家にいても昼ごはんは出てこないし、病院に連れて行かれるわけでもないから学校行ったほうがマシだなって思うようになって。…具合悪そうにしてたら、祖母が呼び出されて…その、ものすごく怒られたことがあったから、周りにバレないように演技できるようになりました。」


あははーとから笑いしているライラを見て…なんと、フェルが瞳から涙の魔石をポロポロと落とし始めた。


ライラは慌てて立ち上がり、浮かんでいたフェルを引き寄せて、あやすように撫でさする。


「うううーーーなんで、ライラは、そんなことを笑って言えるの?ボクは悲しいよ。弱いものを守るのが人間の大人の役目じゃないの?精神的にいじめるなんて魔獣の親子より酷いよ、そんなの。」


「ありがとう、フェルーーーでも、嫌いな子供を学校に行かせてくれて、食べさせてくれている祖母と親戚には恨みはないんだよ。わたしが早く自立すればいいだけ。」


フェルはしばらく泣いていたがーーーライラが柔らかい表情でフェルを見ていたためだろうか。泣き止んで、ライラの手から抜け出し、漂い始めた。


「ーーー学校、には祖母と親戚ってやつがいないといけないの?」


「そうだよ。学費を稼いで払ってくれてるのはその人たちだから。ーーーだから、報復しようとか考えちゃダメだよ?わたしはあの人たちを恨んでない。」


ライラの金色の瞳がフェルをじっと見つめた。


しばらく見つめ合っていた2人だったがーーーフェルが先に目を逸らした。


「ーーー納得はできないけどリョーカイ。ライラは学校に行く間は弱ってても隠したいってこともわかった。でも、その薬の入手方法を絶対に後でレイモンドに聞くこと。これがボクの譲歩の条件だよ!」


ぷんぷんという効果音がつきそうな様子のフェルに、ライラは笑った。


ーーー心配されるのが久しぶりすぎて…こんなにあったかいんだなあ。



後ほどレイモンドから王家専属の医者が調合した薬だと聞かされ、ライラが青ざめたり。

主人を無視してフェルが薬の交渉を始めたりするのだが、ともかく薬の力を借りてライラは元気になったのだった。



ところ変わってライラとフェルは森に立っていた。

クルミとの待ち合わせ場所だ。


「あのリス、なーんか怪しくなかった?」


フェルの発言にライラは首を傾げる。


「そもそも使役術ちゃんと発動してた?魔法陣はじかれてたように見えたんだけど。」


「え、でも魔力のバイパス繋がってたよ?」


ライラの言葉にーーーそれでも納得できないらしいフェルが首を傾げていた。


そこへ、急にクルミが現れた。


「ーーーご主人、青竜と連絡が取れましたよ。このまま行きますか?それとも、契約主を連れて行きますか?」


クルミの登場に驚いている間に、さらさらとこれまた驚きの内容が告げられた。

なんと、昨日の今日でもう青竜に伝言を伝えてくれたらしい。


ひとまずパーシヴァルの指示を仰ごうと魔力通話を取り出したライラを止めたのはフェルだ。


「ボクは罠の可能性があると思うけどーーーもう止めても遅いね。後10秒かな。」


フェルがそう言ってため息をついた。

何やら、無駄に能力が高いのも考えものだなどと言っている。

ライラが首を傾げているとーーーライラたちの立っているすぐ横がパッと光った。


そして、あまりの眩しさにライラが目をつむり、何事かと光の方を向くとーーー


なぜか戦闘衣装に身を包んだパーシヴァルとレイモンドが立っていた。


ーーーフェルはパーシヴァル様たちがここに向かってるのがわかってたのか!


ライラがあんぐりと口を開けていると、突然現れたことへの説明は特になく、パーシヴァルは悠然と周囲の散策などを開始している。

慌ててライラはパーシヴァルの元へと駆け寄っていく。


「ピロロッロロ!?パパパパ、ギュルルルル。(え、今代の王族ってジョシュア以外にも時空いじれる奴いるの?ちょっと誤算かも!?)」


そんなクルミの驚きの声はーーー幸か不幸か誰の耳に入ることもなかった。


慌てる周囲を完全に無視して、ダルそうな様子でパーシヴァルが指示を出す。


「ーーーライラ、青竜の気配がしたから事情を知ってそうなお前の元に飛んだ。…早く案内しろ?」


パーシヴァルに名前を呼ばれ、ライラは反射的に膝をついた。

そして、瞬間移動できるんですね、などと色々と突っ込みたい点は合ったが、何も言わずに粛々(しゅくしゅく)とパーシヴァルの望むままに動く。

ライラは昨日見ていなかったため、パーシヴァルが時空をいじるのを見るのが初めてだったのだ。


「承知いたしましたーーー聞いていたよね?クルミ、今すぐ私たちを青竜のもとに案内してくれ。」


「ピ、ピー!」


このとき、クルミが慌てているような様子だったことにライラは当然気付いたが、あえて無視した。というのもーーー


ーーーフェルとパーシヴァル様が(そろ)ってれば、大体のことはなんとかなるだろ。


というのがライラの考えだったからだ。


パーシヴァルは行くと言っている。罠だろうがなんだろうが、ライラにはそれで十分だった。

実際、パーシヴァルが望めばライラは溶岩の中だろうと行く気だった。


そんな一行は、一時間ほどの移動を経て大きな滝壺へと来ていた。

途中で魔獣にも遭遇したが、フェルが瞬殺していた。

その光景を見てクルミが怯えていた。一瞬で魔物が塵になるのは確かに衝撃的だろう、とライラは納得していた。


わざと、クルミの目の前を通るようにフェルが魔力光線を飛ばしているためにクルミは怯えていたのだが…ライラは全く気がついていなかった。



「ピーピー!(あの滝の裏の洞穴の奥にいる!)」


「ーーー案内ありがとう、クルミ。ーーーもうお気づきかと思いますが、この奥に青竜がいるそうです。」


強大な魔力の気配に、一同はライラの説明がなくても「竜種」の住処が存在することは察していた。


パーシヴァルに視線が集まるが、パーシヴァルは何かを考え込むようにだまっていた。


沈黙を破ったのはフェルだ。


「ーーー青の魔素が濃いから青竜であることは間違いがなさそうだね。ただ…。」


「ただ、子連れで気が立っている、だろう?ーーーさて、どうするか。…ライラ、その魔獣はなんて言ってるんだ?」


パーシヴァルの問いかけに、ライラはクルミの方を向いた。


しかし、先ほどまでそこにいたはずのクルミがいない。


ライラは慌てて魔力バイパスを探ったがーーーなぜか、魔力のつながりまでもがきれいさっぱりなくなっていた。


「も、申し訳ありません。パーシヴァル様、クルミがいなくなりました。クルミに交渉を任せていましたので、今すぐ探しにーーー」


慌てて捜索に役立ちそうな魔法陣を展開しかけていたライラを、パーシヴァルが止める。


「あのリスが使役できてない可能性はフェルからあらかじめ聞いている。お騒がせな魔獣だが、わざわざ青竜の場所を突き止めてくれたのだから問題はない。ここからは俺の番か。ーーーライラは使役のための陣の用意をして。ちょっと安全なとこまで下がってろ。」


パーシヴァルの言葉に、驚きながらもライラは数メートル後ろにある大岩の影に隠れる。

そして、収納バックからあらかじめ描いておいた魔法陣を描いておいた魔法陣取り出しつつーーーフェルに尋ねる。


「ーーー昨日のうちに伝えておいてくれたの?」


「うーんとね、今日ライラの体調がイマイチってレイモンドに伝えに言ったときにパーシヴァルと話した。罠っぽいよーって言ったけど、わかったって言ってたよ。ーーー相手が仕掛けたら、力で叩き潰す自信があるんじゃない?ほら、始まるよ?」


ライラが岩陰から少し顔を出すと、いつの間にかレイモンドの姿が消え、パーシヴァルが一人で立っている。


「あの人ホント化け物だわー。ね?ライラちゃんもそう思わない?」


ーーーライラがフェルと話している間にいつの間にか同じ岩陰に移動していたらしいレイモンドに話しかけられ、ライラは飛び上がりかけた。


心臓を抑えつつ、レイモンドを睨む。

しかし、レイモンドはニコニコとしながら手など振ってくる。


「ーーーあの、レイモンドさんはパーシヴァル様の補助であっちにいなくていいんですか?大規模魔法を放とうとされてますけどーーーおそらく怒った母竜が出てきますよね?」


ライラの疑問にーーー何がおかしいのか、レイモンドが爆笑している。

意味のわからない行動にライラが首を傾げていると、ごめんごめんとレイモンドが謝る。


「ーーーひー、おっかし。ライラちゃんって魔力量はわかるのに実力はわからないタイプなのね?あのひとが本気出しちゃう時は周りの人間なんて邪魔なだけ。しかも、ここに来て何かに覚醒しちゃったみたいだし?…こうやって、むしろ全力を出せるように隠れるのが一番の助けになるよ。ーーーほらほら、せっかくのパーシヴァル様の本気。ライラちゃん、見逃しちゃうよ?」


レイモンドの言葉に慌ててライラが岩陰から顔を出すとーーーそこには信じがたい光景が広がっていた。



赤、青、黄色、紫、緑ーーーそして黒。

六色の巨大な魔力の塊がパーシヴァルを取り巻くように宙に浮いかんでいたのだ。

何よりライラが驚いたのはその魔力の密度だ。


純度の高い魔力の玉に吸い寄せられるように、周囲の魔素が集まってきている。

どんどん大きくなる魔力の玉。

ゆうに一つ一つが10メートルを超えている。


ーーーす、すごい。あれだけの魔力をものすごい集中力で扱っている。


魔法というのは属性が増えれば増えるほど集中力が必要とされる。

六属性扱う魔法など、ライラは教科書でも見たことがなかった。


「パーシヴァル様は、どうしてわざわざ、一つ一つ宙に浮かせているのでしょう?」


あの浮かべている魔球を一つにするだけで威力は何百倍にもなる。

わざわざ分けているのはなぜなのか。

そんなライラの疑問に答えたのはフェルだった。


「今回は討伐が目的じゃないからね。ーーー冷静に話し合うのが無理だと判断して、格の違いを見せつけることでさっさと契約しようとしてるんじゃない?…ほら、母竜が出てきた。」


フェルの言葉通り、魔力の玉の下に静かにたたずむパーシヴァルを見つめながらーーー巨大な青い竜が現れた。


「あれはーーー氷竜(アイスドラゴン)?」


「そうだね。ライラちゃん、一年生なのによく勉強してるじゃん!ーーー青竜の中でも戦闘特化の種族だねー。色も透き通るような水色でパーシヴァル様の好みドンピシャだし、ライラちゃんお見事!」


キャッキャと能天気に喜ぶレイモンドをチラリと見てーーーライラは緊張を解いた。

そしてこのような状況だというのに笑ってしまう。

もちろん目線はパーシヴァルと氷竜に向けたままだ。

両者は先ほどから睨み合っている。


「ーーーレイモンドさんは、当然、氷竜なんかにパーシヴァル様が遅れを取るとは思ってないんですね?」


「ーーーハッ。それは愚問だよ、ライラちゃん。パーシヴァル様がやるって言ったら任せればいいの。あの人はできないことはできないっていうから。」


ーーー氷竜相手に「できる」って…パーシヴァル様カッコよすぎなのでは?



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