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色なし魔法士は今日もご機嫌  作者: 橘中の楽
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27/103

2の六 パーシヴァルさまは青がすき

青竜(ブルードラゴン)さーん、いませんかあーーー。」


黒竜に会いに行った日から一週間がすぎた。

三日ほどで動ける程度には体調が回復したライラはフェルとともに日々黒の渓谷を飛び回っていた。


というのも、体調の報告に行ったライラに対してーーー


「ライラ、俺は青が好きだ。」


「はあ。と言いますと?」


「使役する魔獣は青がいい。」


「つまりーーー。」


「青竜探してこい。俺の魔力で使役できそうなBランクくらいのやつな。」


ーーーというパーシヴァルの発言により、ライラとついでに護衛二人は青竜探しに追われることになったのだった。

ちなみに、Bランクというのは竜の中での話である。Aランクは黒竜だけなので、実質パーシヴァルは最強クラスを連れてこいと言っている。


「ちょ、パーシヴァル様…青竜って竜種の中でも生息数が少ないって言われてるんじゃーーー」


「承知いたしました。ライラック探させていただきます!」


巻き込まれる予感を察知していたクリストファーが反論を試みたが、ライラがかぶせるように承諾してしまったため、青竜探しは決定事項となった。


くつろぎながらもーーーどこか雰囲気の変わったパーシヴァルを見て赤くなったり、自分の受けた命令に青くなったりとクリストファーは忙しい。


「み、見つかる気がしない。しかも、見つけたら見つけたで、殺される気しかしない…。」


クリストファーはそう言って肩を落としていたが、ドロレスが無言で彼を連行していった。

マスキラ化した影響か急に力強くなったドロレスに引きづられていくクリストファーはどこか哀れだった。



滞在期限は残り二週間だ。ーーーしかし、青竜どころかライラとフェルはいまだに飛竜さえ見つけられていなかった。


「これは、作戦を変えないとダメかな?ーーーフェルはどう思う?」


「うーん、飛竜は気配的にいると思うんだけどね。」


フェルの言葉にライラもうなずく。

飛竜だけでなく竜種は魔力の塊なので、比較的存在を認識しやすい。

だから、ここ数日は飛竜目指してかなり遠くまで足を運んでいた。運んでいたのだがーーー


「なんか避けられてるよね。ーーーもしかして、フェルが怖いのかな?



ライラは冗談のつもりだったのだが、フェルが今思い出したというように声をあげた。


「ーーー。そういえば、ライラが来ないことにキレてちょっと暴れた時期があったかも。」


「…。」


ーーー通りで見つからないはずだよ!探索じゃなくてこっちが鬼の鬼ごっこしてたんじゃん!!


じとっとした目でライラはフェルを見た。

サッとそらされたので、フェルも悪いとは思っているらしい。


「じゃあいよいよ作戦変更が必要だなあ。近づかずに青竜に接近するーーー魔獣に伝言頼むことってできるかな?」


「伝言?できなくはないけどーーーこっちの意図を理解して、その上飛竜に近づき、伝達係になれるような高位の魔獣が必要だね?意思疎通のためには使役する必要もあるんじゃない?」


フェルの言葉にライラは考え込んでしまった。


ーーーそんな都合のいい魔獣がいるだろうか?


しかも、複数体魔獣をテイムするものの条件として、1匹目の認めるものではなくてはいけないというのがあるのだ。

だから使役獣選びでは一体目が重要なのだが。

一体目で下位の魔獣を選んでしまうと、それ以降で上位魔獣を使役するのはほぼ不可能となる。魔獣が使役者を「その程度だ」と認識するらしい。



この辺りに生息していて高位魔獣ーーーいくつかライラの脳内には候補が上がっていたが、とりあえず一体目でライラの使役獣の中でリーダーになることが確定しているフェルの意見を聞くことにした。


「フェルは私の使役獣に加えるとしたらこんなのがいいとかってある?」


「ボクより小さいやつ。」


即答だった。

内容にライラは頭を抱えたが。


ーーーめちゃくちゃいうじゃん!!フェル、君って片手くらいの大きさしかないよね!?


「い、一応聞くけど、さすがに全長だよね?重さは加味しないよね?」


「大きさでいいよ。ーーーまあ、ほぼいないだろうけど。」


フェルの表情はわからない。わからないのだがーーー

赤色の舌をチロチロしながら、ライラの目の前をくるくる回っているあたり、どうせいないと思っているに違いない。


「テイムするのはあきらめるかーーーん?」


「そうそう、ボクを差し置いて他の魔獣に愛情を注ごうなんてーーーげ。」


ーーーーいたよ。まさかの条件ぴったりな子が目の前の木の上にいたよ!


ライラが視線を上げると、白い手のひらサイズの白いリスーーーのような魔獣が木の上にいた。

リスに見えるが、あれは魔獣だ。しかも紫属性を使うかなり厄介な魔獣として知られている。

幻術を得意とし、知能はかなり高い。

しかも今、最重要な大きさも、リスだけあってかなり小さい。


「ワードスクウィールのこと忘れてた…この辺生息地だった。さっきまで見かけなかったから油断した。」


フェルがぶつぶつ言っている。


ーーー本当にテイムの交渉をしてもいいのだろうか?


ライラとフェルは、使役獣と主人だが、実情は対等な関係だ。

ライラはフェルが本気で嫌がるなら使役獣を増やす必要はないと思っていた。


「やめとく?フェルが嫌なら違う案を考えるよ?」


ライラの真っ直ぐな視線がフェルを見つめる。

フェルはくるくると回るのをやめ、一瞬静止したーーーそして、すぐにいつも通りふよふよと漂い出した。


「ーーーライラが欲しいなら使役しなよ。ボクはライラのやりたいことには反対しないし。」


ーーーなんだかんだ言ってフェルはライラに甘いのだ。

甘やかされることになどライラは慣れていない。

こういうフェルを見るとくすぐったい気持ちになる。


「ーーーふふふ、ありがとう。」


ライラは満面の笑みで、フェルのお腹を人差し指でひとなでした。

フェルも、ライラの瞳に魔力の粒子の輝きを見て、自分の主人が大層喜んでいることを察する。

そうなるとフェルはもう不機嫌ではいられないのだ。


「それにしてもワードスクウィールってあんな魔力だっけ…。ま、いいか。おあつらえむきの魔獣はいたけどーーーライラに使役できるの?」


フェルは、思考を切り替えたらしい。

冷静に指摘してくる。

上位魔獣をライラが使役できるのかと。


「普通だったら無理だろうね。」


ーーーでも、このワードスクウィールに関しては話せばついてきてくれると思うんだよね。


ライラは驚いたのだ。

ちょうどこんな魔獣がいいなと思ったら、目の前に現れたことに。

もしかしたら、自分たちの話を理解して姿を現したのではないかと。


ワードスクウィールは人間、中でも特に魔力が多い魔法使いが好きな魔獣として有名なのだ。

だからこそ、後をつけ、幻術をかけて森の中で迷わせたりする。

そして一日程度経った後で幻術を解くのだ。

数多くの魔法使いを悩ませてきたこの魔獣はーーー「いたずらリス」という別名を持っていた。

上位魔獣というだけあって、気配を消すのが上手く、幻術も固有魔法なため並の人間ではどうしようもない。

命の危険はないがものすごく迷惑。それがワードスクウィールの評判だった。


ライラは、一眼みた時からその白くてふわふわとした毛並みを見てメロメロになってしまったのだが。

一日迷わされてもいいから一眼見てみたいと思っていた。

その魔獣がテイムしてくださいと言わんばかりに目の前で寝ている。


「キューキュールルル?(そこの枝の上にいるリスさん。私とお話ししませんか?)」


ライラが声をかけるとーーーワードスクウィールは耳をピクピクとさせて、目を開けた。


「ピュルルルル?(ボクに何か用?)」

「(キュルル。グガガガガガ。ギュルルピロロロ?)私はライラックというものです。初対面で大変不躾なお願いなのですがーーー私の使役獣になってくれませんか?」


「ーーーライラ、いくらなんでも格上の上位魔獣相手にそれはダメなんじゃ…。」


「ピー!ピコロロ!(早く契約の魔法陣描けよ!)」」


「「…。」」


「本当にいいの!?ライラなんて魔法の発動もできないよ??」


「フェル…いや、本当のことだけどもうちょっとオブラードに包んでいってくれないかな?」


フェルの問いにも、ワードスクウィールは答えない。

ライラの方に視線を固定したまま、早くしろと言わんばかりに、ふわふわの尻尾を木の枝に叩きつけることで苛立ちを示しているようだ。


「グルッルル、キュルル?(おい人間!ぜったいにそこの金蛇の魔力を混ぜるなよ?)」


ワードスクウィールーーー改め、クルミというらしいシロリスに急かされて、ライラは杖を取り出し、せっせと空中に魔法陣を描いた。

「クルミ—walnut—」というたった五文字を書くのに上級ポーションを3本も飲んだ。ライラの魔力は上級ポーション1本分くらいなので、総魔力量の4倍程度消費したことになる。


体内の魔素が空っぽになったことで、ライラは目の前がチカチカしてきた。

しかし、ここで倒れるわけにはいかないのだ。

もう一本ポーションを飲み干しーーー最後に魔法陣に自分の名前を書き込んだ。


「ーーーCall me by your name. I’m the king of walnut From LAIRACK GABMOND.」


使役術は最後に言霊で相手を縛る必要がある。

魔法言語のスペリングを間違えないように発音するとーーー魔法陣が輝きながらクルミの頭上へ飛んでいきーーー金色に光った後、吸い込まれてくーーーと思ったのだが、予想に反して魔法陣は空中で弾けるように消えた。


ーーーあれ、失敗したかな?


内心首を傾げながらも、自分の中にクルミとの魔力バイパスができたのがわかったライラは、成功してホッとしたのかその場にしゃがみこんだ。


クルミはライラたちの方にピョーンと跳躍し、ライラの左肩に飛び降りた。


そんなライラたちの契約の様子を見ていたフェルが不思議そうに言った。


「ライラ?今の魔法陣本当に発動した?このリス使役できてる?」


フェルの問いかけに、ライラはすぐに答えることができなかった。

魔力の使いすぎで意識を保っているのもやっとだったのだ。


「ーーー?フェル、今何か言いかけた?ごめん、頭がガンガンしてちゃんと聞いてなかったからもう一回言ってくれるかな?」


「ーーーいや、なんでもないよ。…だいぶつらそうだね。ボクの魔力を分けてあげようか?」


「いや、いい。疲労感がすごいだけだから魔力自体は足りてる。」


ライラは二体に見守られながら、しばらく座り込んでいたがーーーふらつきながらもフェルに頼ることなく自力で立ち上がった。


「ーーーふう。もうすぐ日没だし、のんびりとしてはいられないね。…早速なんだけど、クルミ、青竜に伝言を頼めるかな?」


「ーーーキュルルルル、グググ?(ご主人、オレ人間の言葉わからないよ。)」


「あそっか、つい、フェルと同じように話しちゃった。ピユルル(じゃあね、早速なんだけど)ーーーー」


ライラはクルミに伝言を託した。

なんとクルミは青竜を最近見かけたらしい。

明日までに伝言を伝えてきてくれると言ってくれた。


「ーーーじゃあよろしくね。黒魔法の使い手が探してるって伝えてくれればいいからね。」


「ピュル!」



クルミはライラの言葉にひと鳴きすると、すぐに霞のようにその場から消えた。

ワードスクウィールの固有魔法である隠蔽魔法を発動したようだ。


ライラはいよいよ意識を保つのが難しくなってきた。

最近の体調不良と相まって、足取りがおぼつかない。


「大丈夫かー?また熱上がってるんじゃない?ーーーほら、ライラ、今日はもう帰ろう?日も暮れるし。」


心配そうにフェルがライラの顔の前で漂っている。

ライラの額には脂汗が浮かんでいた。


ーーー黒竜探しのときに倒れて以来、すこぶる体調が悪いなあ。


ライラは、浮遊魔法で浮かせようか?というフェルの申し出を断り、なんとか自分の足で歩いていた。


数日間ずっと微熱があるような感覚がしているライラ。

ライラは体温計を持っていなかったし、一団の中には医療の心得をもつ者もいなかったため、気のせい、ということにして体調不良に対処していなかったが。


「ーーーはあ。強情だなあ。っつ、転びそう、危ないって!やっぱボクが運ぶから。それで帰ったらレイモンドに相談するよ!」




「ーーーって感じでさ、すごい可愛い使役獣手に入れたんだよね。絶対ミシェーラも気にいるよ。うん、だからいよいよ明日青竜のとこに行こうと思う。ん?逃げられないのかって?そこはフェルの浮遊魔法とクルミの隠蔽魔法で近づくんだー。」


夜になって呑気に魔力通話越しに話しているライラ。

ライラはその頃、残りの四人がライラの扱いについて話し合っていたのに気付いていなかった。


「ーーーライラックは危険すぎませんか?高位魔獣二体使役して、気配なく標的に近づけるなんて。それこそ暗殺でもやらせればーーー、」


そこまでいったクリストファーをパーシヴァルの魔力の塊が殴りつけた。

それ以上言うなと言うことらしいが、あまりにも強烈な一撃にクリストファーはしばらく痛みで動けていなかった。


ドロレスは呆れたような顔で相変わらず迂闊な同僚を見ている。


指先一つでクリストファーを黙らせたパーシヴァルはしばらく黙り込んでいた。

そしてーーーなんと、寝室の方に歩き始めた。


もともと、なんとなくパーシヴァルのもとに集まっていた三人だったが、まさか何も指示がないとは思わなかったのだろう。

復活したクリストファーとドロレスは驚きで固まっていた。


そんな二人にフォローを入れるのはレイモンドだ。


「ほら、さっき殿下に連絡してましたから。それで、おそらく何もしなくて良いと言う指示がきたんじゃないですかね?ーーーそもそも、フェルのご機嫌を損ねそうなことなんてできませんし。…これからはクルミくんって言う最強のスパイもいるんですから、クリストファーさんは本当に、軽はずみな発言はやめといた方がいいと思いますよ。」


言外に、この話し合いも把握されてると思っておけと釘を刺されたクリストファーは、若干青ざめながらもうなずいていた。


「とにかく、もう無理なんじゃないかと思っていた青竜探しもどうにかなりそうなんですよね?よかったよかったってことで、ほらかいさーん!」


レイモンドは騎士たちをパーシヴァルの接待部屋から追い出しつつーーーこれからのことに不安を感じていた。


ーーーちょっとライラちゃんは悪目立ちしすぎだな…何もなきゃいいけど。


そんなことを考えながら、この拠点の一番奥。

三回扉を開けないと入れない部屋にいるであろう主人の元へと向かう。


「まあ、俺にはカンケーないか?ほら、パーシヴァル様、湯あみした後髪が乾ききってないでしょう?ーーーちょっと、寝ないでください!!乾かしにくいから寄りかかるな!」











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