第8話「公認彼女と佐伯」
翌朝。
教室に入った瞬間、昨日とは違う空気が流れているのがわかった。
「白石さん、昨日すごかったよな……」
「早見くん、マジで勝ち組じゃん」
「いやでも、あれは本気だったよな……」
ざわつきはあるが、どこか祝福ムードが混じっている。
僕――早見孝介は席に着きながら、
昨日の乃愛の言葉を思い出していた。
「幼馴染としてじゃなくて……
一人の男の子として、好きです」
胸が熱くなる。
そのとき、教室の扉が開いた。
白石乃愛が入ってくる。
昨日よりも自然体で、
でも僕を見ると、ほんの少しだけ頬を赤くした。
その一瞬を、クラスは見逃さない。
「おはよう、孝介」
乃愛は小さく、でもはっきりと僕に挨拶した。
周囲がざわつく。
そのとき、鋭い視線を感じた。
クラスの中心にいる男子――
佐伯が、僕を睨んでいた。
昨日、乃愛が僕を庇ったときから、
佐伯の態度は明らかに変わっていた。
(……面倒なことになりそうだな)
そう思った瞬間、佐伯が立ち上がった。
「早見。ちょっと来い」
低い声だった。
乃愛が不安そうに僕の袖をつまむ。
「孝介……」
「大丈夫。すぐ戻るよ」
僕は乃愛に微笑み、佐伯の後を追った。
屋上に着くと、佐伯は振り返り、
怒りを隠そうともしなかった。
「……お前、本気で白石さんと付き合うつもりか?」
「つもりっていうか……好きだから」
そう答えると、佐伯の拳が震えた。
「ふざけんなよ。
白石さんは……俺がずっと好きだったんだ」
その言葉には、悔しさと嫉妬が混じっていた。
「でも、乃愛が選んだのは俺だ。
それは……俺じゃなくて、乃愛が決めたことだろ」
佐伯は歯を食いしばった。
「……認めねぇからな。
お前なんかに、白石さんは渡さねぇ」
その言葉を残し、佐伯は屋上を出ていった。
嫌な予感が胸に残った。
放課後。
乃愛は僕を見つけると、自然に隣へ並んだ。
「孝介……佐伯くん、何か言ってた?」
「まぁ、ちょっとな。でも大丈夫だよ」
乃愛は心配そうに僕の袖をつまむ。
「……ごめんね。
私のせいで、孝介が嫌な思いしてる」
「乃愛のせいじゃない。
俺が乃愛を好きになったんだから、当然だよ」
乃愛は目を丸くし、そして――
ふわりと笑った。
「……孝介、優しいね」
その笑顔だけで、胸が熱くなる。
家の近くの分かれ道。
乃愛は立ち止まり、僕の方へ向き直った。
「ねぇ、孝介」
「ん?」
乃愛は少しだけ頬を赤くしながら言った。
「私たち……その……
ちゃんと“付き合ってる”ってことで、いいの?」
その言葉に、心臓が跳ねた。
「もちろん。
俺は……乃愛と付き合いたい」
乃愛は目を潤ませながら、嬉しそうに笑った。
「……うん。
私も、孝介と付き合いたい」
その瞬間、
僕たちは正式に恋人になった。
乃愛は僕の手をそっと握り、
指を絡めてきた。
「これからも……ずっと隣にいてね」
「当たり前だろ」
乃愛は幸せそうに微笑んだ。
しかし――
その背後の電柱の影から、
佐伯がこちらを睨んでいることに、僕たちは気づかなかった。




