第7話「白石乃愛の本当の気持ち」
HR開始のチャイムが鳴った瞬間、
白石乃愛はすっと立ち上がった。
その動きだけで、教室の空気が変わる。
「先生、少しだけ時間をいただけますか」
担任は驚きつつも頷いた。
乃愛は前へ歩き、全員の視線を受け止めるように立つ。
僕――早見孝介は、胸が締めつけられるような緊張を覚えていた。
乃愛は昨日、こう言った。
「明日、ちゃんとみんなに言うね。
孝介のこと、好きだって」
その言葉が頭の中で何度も反芻される。
乃愛は深呼吸し、静かに口を開いた。
「みんなに……話したいことがあります」
ざわつきが止まり、教室が静まり返る。
「私は、ずっと“清楚な白石乃愛”として見られてきました。
でも、それは……みんなが思っているほど完璧じゃありません」
クラスがざわつく。
「本当は緊張しいだし、気を遣いすぎるし……
みんなの前では、ずっと“演じて”いました」
その言葉は、乃愛が初めて見せる“弱さ”だった。
乃愛は一度目を閉じ、そして――
僕の方をまっすぐ見た。
「でも……私が素のままでいられる人が、一人だけいます」
教室の空気が一気に張り詰める。
「その人の前だと、無理に笑わなくてもいいし、
気を張らなくてもいい。
昔からずっと、私を見てくれていた人です」
乃愛の視線は、僕から逸れない。
僕の心臓は、嫌になるほど大きな音を立てていた。
乃愛は一歩前に出て、はっきりと言った。
「私、早見孝介のことが好きです」
教室が凍りついた。
誰も声を出さない。
誰も動かない。
ただ、乃愛の言葉だけが、教室に響いていた。
「幼馴染としてじゃなくて……
一人の男の子として、好きです」
その瞬間、僕の胸に熱いものが込み上げた。
次の瞬間、教室が一気にざわついた。
「マジかよ……!」
「白石さんが……早見?」
「え、いつから?」
「てか、白石さんってあんな顔するんだ……」
驚き、嫉妬、困惑、好奇心。
いろんな感情が渦巻く。
乃愛はそんな空気の中でも、僕を見つめ続けていた。
僕は立ち上がり、乃愛の隣へ歩いた。
「……俺も、乃愛が好きだよ」
教室が再び静まり返る。
「昔からずっと、乃愛のことが気になってた。
でも、言えなかった。
乃愛が“みんなの憧れ”になっていくのが怖くて」
乃愛は目を潤ませながら、微笑んだ。
担任が咳払いをした。
「……まぁ、その……青春だな。
とりあえず席に戻れ。話は終わりだ」
クラス中から笑いが起きる。
空気が一気に柔らかくなった。
乃愛は僕の袖をそっとつまんだ。
「孝介……ありがとう」
「乃愛こそ、よく言ったな」
乃愛は照れたように笑った。
その笑顔は、
“清楚な白石乃愛”ではなく――
僕だけが知っている、素の乃愛だった。




