第5話「噂と誤解と、乃愛の決意」
翌朝。
教室に入った瞬間、空気がいつもと違うのがわかった。
「ねぇ、昨日の放課後見た?」
「白石さんと早見くん、一緒に帰ってたよな」
「しかも距離近くなかった?」
ひそひそ声が飛び交う。
僕――早見孝介は、席に着きながらため息をついた。
昨日の帰り道、乃愛と手をつないでいたのを誰かに見られたらしい。
そのとき、教室の扉が開いた。
白石乃愛が入ってきた瞬間、空気がさらにざわつく。
乃愛は周囲の視線を受け流しながら、
いつもの“清楚な白石乃愛”の微笑みを浮かべて席へ向かった。
けれど、僕の横を通るときだけ――
ほんの一瞬、柔らかい笑顔を見せた。
その一瞬を、クラスは見逃さなかった。
昼休み。
僕が弁当を広げようとした瞬間、男子数人が机を囲んできた。
「おい早見、白石さんとどういう関係なんだよ」
「まさか付き合ってるとか?」
「いやいや、あの白石さんだぞ? ありえねぇって」
好き勝手言われて、正直イラッとした。
「……別に、お前らに言う必要ないだろ」
そう返すと、男子たちは「うわ、なんか意味深!」と騒ぎ出す。
そのとき――
「孝介、ちょっといい?」
乃愛が僕の腕を軽くつまんだ。
その仕草だけで、男子たちが固まる。
「え、白石さん自ら!?」
「やっぱり何かあるだろこれ!」
乃愛は気にせず、僕を連れて教室を出た。
屋上に着くと、乃愛は小さく息を吐いた。
「……ごめんね。
私のせいで、孝介が困ってる」
「乃愛のせいじゃないよ。
俺が気にしすぎなだけだ」
そう言うと、乃愛は首を横に振った。
「違うの。
私が……孝介のこと好きって、顔に出ちゃってるから」
その言葉に、胸が熱くなる。
乃愛は続ける。
「でもね、もう隠すのやめようと思うの」
「え……?」
乃愛はまっすぐ僕を見る。
「だって、隠しても噂になるし……
それに、孝介のこと好きなのに、
“ただの幼馴染”って顔するの、もう無理だから」
その言葉は、まるで告白の第二弾だった。
「乃愛……本気で言ってるのか?」
僕がそう聞くと、乃愛はこくりと頷いた。
「うん。本気だよ。
孝介が嫌じゃなければ……
ちゃんと“好きな人”として隣にいたい」
乃愛は僕の袖をそっと握る。
「周りに何を言われても、私は平気。
でも……孝介が嫌なら、無理はしない」
その瞳は、まっすぐで、揺らぎがなかった。
僕はゆっくりと答えた。
「嫌なわけないだろ。
俺も……乃愛と一緒にいたいよ」
乃愛はぱっと表情を明るくした。
「……よかった」
その笑顔は、昨日よりもずっと幸せそうだった。
放課後。
乃愛は僕の隣に自然に並び、手を差し出してきた。
「……つないでもいい?」
「もちろん」
手をつなぐと、乃愛は嬉しそうに微笑んだ。
「ねぇ孝介。
明日からも、ずっと隣にいてね」
「当たり前だろ」
乃愛は僕の肩に軽く寄り添った。
その姿を、また誰かが見ていた。
でももう――
僕たちは隠すつもりはなかった。
乃愛の手の温もりが、
その決意を確かにしてくれていた。




