第4話「二人の距離、周囲の視線」
翌朝。
教室に入ると、白石乃愛が僕――早見孝介の席をちらりと見た。
昨日、屋上で手をつないで帰った。
その余韻がまだ残っているのか、乃愛の頬はほんのり赤い。
「おはよう、孝介」
その声は、周囲に聞こえる“清楚な白石乃愛”の声。
けれど僕に向けられた視線だけは、昨日の続きのように柔らかい。
その微妙な変化に、近くの男子が首をかしげた。
「白石さん、なんか今日……機嫌よくね?」
「だよな? なんか雰囲気違う」
嫌な予感がした。
昼休み。
僕が席で弁当を広げていると、女子のグループがひそひそ話しているのが聞こえた。
「ねぇ、白石さんってさ……早見くんと仲良くない?」
「最近よく話してるよね。前はそんなでもなかったのに」
「白石さん、誰にでも優しいけど……あれはちょっと特別っぽくない?」
僕は思わず箸を止めた。
乃愛は、少し離れた席で女子たちに囲まれていた。
けれど、僕の方をちらりと見て、目が合うと小さく微笑んだ。
その一瞬を、周囲は見逃さなかった。
「ほら! 今の見た!?」
「やっぱり何かあるよね!」
ざわつく教室。
乃愛は困ったように視線をそらした。
放課後。
乃愛は僕を見つけると、すぐに屋上へ向かった。
扉を閉めると、乃愛は肩の力を抜いた。
「……ごめんね、孝介。
私のせいで、変な噂になってる」
「乃愛のせいじゃないよ。
俺が気にしすぎなだけだ」
そう言うと、乃愛は首を横に振った。
「違うの。
私が……孝介のこと、好きって顔に出ちゃってるんだと思う」
その言葉に、胸が熱くなる。
「でもね……隠すの、もう難しいかも」
乃愛は僕の袖をそっとつまんだ。
「孝介は……どうしたい?」
その問いは、僕に選択を迫っていた。
乃愛は続ける。
「私たちの関係、周りに知られたら……
きっといろいろ言われると思う」
「うん……」
「でも、私は……孝介と一緒にいたい。
隠すのも、嘘をつくのも、もう疲れちゃった」
乃愛の声は震えていた。
清楚キャラの仮面を外した、素の乃愛の声。
僕はゆっくりと答えた。
「俺も……乃愛と一緒にいたいよ。
周りがどう言おうと、関係ない」
乃愛は目を見開き、そして――
「……ありがとう」
涙がこぼれそうなほど優しい笑顔を見せた。
校門を出ると、乃愛は自然に僕の手を握った。
昨日よりも、ずっと強く。
「ねぇ孝介。
明日からも……隣にいてくれる?」
「もちろん」
乃愛は嬉しそうに笑い、僕の肩に軽く寄り添った。
その姿を、遠くから見ている影があったことに、
僕たちはまだ気づいていなかった。
――二人の関係は、もう後戻りできないところまで来ていた。




