表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/33

第3話「乃愛の告げたいこと」

翌日の放課後。

チャイムが鳴ると同時に、白石乃愛は僕――早見孝介の席へ静かに近づいてきた。


「孝介、行こ?」


その声は、周囲に聞こえないように抑えられているのに、

僕にははっきり届いた。


乃愛は“清楚な白石乃愛”の仮面をつけたまま、

自然な動作で教室を出ていく。

僕はその後を追った。


向かった先は、昨日と同じ屋上だった。


屋上の扉を閉めた瞬間、乃愛はふぅっと息を吐いた。


「……やっと、普通に話せる」


昨日と同じ言葉。

でも、今日はその声が少し震えている。


「乃愛、話したいことって……」


僕が切り出すと、乃愛はゆっくり振り返った。

風に揺れる髪を押さえながら、真剣な瞳で僕を見る。


「孝介にだけは、ちゃんと伝えたかったの」


その言葉に、胸がざわつく。


乃愛は手すりにもたれ、空を見上げた。


「私ね……学校で“清楚キャラ”って言われてるでしょ?」


「まぁ……そうだな」


「でも、本当はそんなに完璧じゃないの。

 緊張しいだし、気を遣いすぎるし……

 みんなの前では、ずっと演じてるの」


乃愛は苦笑した。


「でもね、孝介の前だけは……演じなくていいの。

 昔から知ってるから、安心できるのかな」


その言葉は、昨日よりもずっと深い意味を持っていた。


「だから……孝介が、私をどう見てるのか……知りたいの」


乃愛は僕の方へ一歩近づいた。


「孝介は……私のこと、どう思ってるの?」


昨日と同じ問い。

でも、今日の乃愛は逃げ場を与えてくれない。


距離が近い。

手を伸ばせば触れられるほど。


僕は息を呑んだ。


「乃愛は……特別だよ。

 昔からずっと、気になる存在だった」


言葉にした瞬間、胸が熱くなる。

乃愛は驚いたように目を見開き、そして――


「……そっか」


小さく微笑んだ。


その笑顔は、学校では絶対に見せない“乃愛だけの笑顔”だった。


乃愛は僕の袖をそっとつまんだ。

その仕草は、昨日よりもずっと強い。


「じゃあ……私も言うね」


乃愛はまっすぐ僕を見つめる。


「私、孝介のこと……ずっと好きだった」


風の音が止まったように感じた。


「気づいてほしくて、でも怖くて……

 だから、孝介の前だけ“素の私”になっちゃうの」


乃愛は少しだけ目を伏せた。


「迷惑だったら、ごめん」


「迷惑なわけないだろ」


僕は即答していた。


乃愛は顔を上げ、ゆっくりと微笑む。


「……よかった」


その瞬間、夕日が差し込み、

乃愛の横顔を柔らかく照らした。


屋上を出るとき、乃愛は僕の手をそっと握った。

驚いて振り返ると、乃愛は照れたように笑う。


「これから……もっと素の私を見てほしいな」


その言葉に、胸が熱くなる。


僕たちは手をつないだまま階段を降りた。


――白石乃愛は、僕に“特別”をくれた。


そして、僕たちの関係は確かに動き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ