第3話「乃愛の告げたいこと」
翌日の放課後。
チャイムが鳴ると同時に、白石乃愛は僕――早見孝介の席へ静かに近づいてきた。
「孝介、行こ?」
その声は、周囲に聞こえないように抑えられているのに、
僕にははっきり届いた。
乃愛は“清楚な白石乃愛”の仮面をつけたまま、
自然な動作で教室を出ていく。
僕はその後を追った。
向かった先は、昨日と同じ屋上だった。
屋上の扉を閉めた瞬間、乃愛はふぅっと息を吐いた。
「……やっと、普通に話せる」
昨日と同じ言葉。
でも、今日はその声が少し震えている。
「乃愛、話したいことって……」
僕が切り出すと、乃愛はゆっくり振り返った。
風に揺れる髪を押さえながら、真剣な瞳で僕を見る。
「孝介にだけは、ちゃんと伝えたかったの」
その言葉に、胸がざわつく。
乃愛は手すりにもたれ、空を見上げた。
「私ね……学校で“清楚キャラ”って言われてるでしょ?」
「まぁ……そうだな」
「でも、本当はそんなに完璧じゃないの。
緊張しいだし、気を遣いすぎるし……
みんなの前では、ずっと演じてるの」
乃愛は苦笑した。
「でもね、孝介の前だけは……演じなくていいの。
昔から知ってるから、安心できるのかな」
その言葉は、昨日よりもずっと深い意味を持っていた。
「だから……孝介が、私をどう見てるのか……知りたいの」
乃愛は僕の方へ一歩近づいた。
「孝介は……私のこと、どう思ってるの?」
昨日と同じ問い。
でも、今日の乃愛は逃げ場を与えてくれない。
距離が近い。
手を伸ばせば触れられるほど。
僕は息を呑んだ。
「乃愛は……特別だよ。
昔からずっと、気になる存在だった」
言葉にした瞬間、胸が熱くなる。
乃愛は驚いたように目を見開き、そして――
「……そっか」
小さく微笑んだ。
その笑顔は、学校では絶対に見せない“乃愛だけの笑顔”だった。
乃愛は僕の袖をそっとつまんだ。
その仕草は、昨日よりもずっと強い。
「じゃあ……私も言うね」
乃愛はまっすぐ僕を見つめる。
「私、孝介のこと……ずっと好きだった」
風の音が止まったように感じた。
「気づいてほしくて、でも怖くて……
だから、孝介の前だけ“素の私”になっちゃうの」
乃愛は少しだけ目を伏せた。
「迷惑だったら、ごめん」
「迷惑なわけないだろ」
僕は即答していた。
乃愛は顔を上げ、ゆっくりと微笑む。
「……よかった」
その瞬間、夕日が差し込み、
乃愛の横顔を柔らかく照らした。
屋上を出るとき、乃愛は僕の手をそっと握った。
驚いて振り返ると、乃愛は照れたように笑う。
「これから……もっと素の私を見てほしいな」
その言葉に、胸が熱くなる。
僕たちは手をつないだまま階段を降りた。
――白石乃愛は、僕に“特別”をくれた。
そして、僕たちの関係は確かに動き出した。




