第48話「初めてのケンカ ― すれ違う想い、届かない言葉」
公式戦に負けてから数日。
僕――早見孝介は、
悔しさを振り払うように毎日練習に打ち込んでいた。
(次は絶対勝つ……
そのためには、もっと強くならないと)
でもその分、
乃愛と話す時間が減っていた。
乃愛は毎日マネージャーとして来てくれているのに、
僕は練習に集中しすぎて
ほとんど言葉を交わせていなかった。
練習後。
乃愛がタオルを持って駆け寄ってきた。
「孝介、お疲れさま……!
今日もすごく頑張ってたね」
「……あぁ、ありがとう」
短く返して、
僕はすぐにボールを片付けに向かった。
乃愛は少し寂しそうに立ち止まる。
(最近……孝介、私と話してくれない)
胸がきゅっと痛む。
翌日も、その次の日も。
「孝介、これ水……」
「ありがとう」
「孝介、足痛くない……?」
「大丈夫」
「孝介、今日帰り……」
「悪い、先帰るわ」
乃愛は笑顔を作ろうとするけど、
その目はどんどん曇っていった。
(どうして……
私、何かしたのかな……?)
夏休みのある夕方。
練習が終わったあと、
乃愛が勇気を出して声をかけた。
「孝介……
最近、全然話してくれないよね……?」
「……練習で忙しいんだよ」
「それはわかってるよ。
でも……
私、孝介の力になりたいのに……
なんか、避けられてるみたいで……」
僕は疲れと焦りで、
つい強い口調になってしまった。
「避けてるわけじゃない。
ただ……今はサッカーが大事なんだよ」
乃愛の表情が一瞬で曇る。
「……そっか。
じゃあ……私は大事じゃないんだね」
「違うって……!」
「違わないよ……
だって孝介、
私のこと全然見てくれないもん……!」
乃愛の声が震えていた。
僕は焦りと苛立ちで、
最悪の言葉を口にしてしまった。
「乃愛は……
俺の気持ちなんてわかってないよ」
乃愛の目が大きく揺れた。
「……そっか」
その声は、
今にも消えそうだった。
「ごめんね……
私、帰るね」
乃愛は背を向けて走り去った。
僕は追いかけようとしたけど、
足が動かなかった。
(……なんであんなこと言ったんだよ)
胸が締めつけられる。
家に帰っても、
乃愛からのメッセージは来なかった。
僕も送れなかった。
(謝りたい……
でも、どう言えばいいんだ)
スマホを握りしめたまま、
何もできずに時間だけが過ぎていく。
一方その頃――
乃愛は自分の部屋で膝を抱えていた。
(孝介……
どうしてあんなこと言うの……)
涙が頬を伝う。
(私……邪魔だったのかな……)
二人の心は、
初めてすれ違ったまま夜を迎えた。




