第49話「すれ違いの日々」
ケンカの翌日。
僕――早見孝介は、
グラウンドに向かいながら胸がざわついていた。
(乃愛……来るよな)
でも、
いつもなら一番に準備をしているはずの乃愛の姿はなかった。
「白石、今日は休みか?」
「珍しいな」
先輩たちの声が遠く聞こえる。
(……やっぱり、怒ってるよな)
胸が重く沈んだ。
その頃、乃愛は自分の部屋で膝を抱えていた。
(孝介……)
昨日の言葉が頭から離れない。
「乃愛は……俺の気持ちなんてわかってないよ」
胸がぎゅっと痛む。
(わかりたいよ……
ずっとそばにいたいよ……
でも……どうしたらいいのかわからない)
乃愛はスマホを握りしめたが、
メッセージを送る勇気が出なかった。
練習が始まっても、
僕は全然集中できなかった。
「早見、どうした?動き悪いぞ!」
「おい、ボール見ろ!」
怒鳴られても、
頭の中は乃愛のことばかり。
(昨日……なんであんなこと言ったんだよ)
後悔が胸を締めつける。
練習後、
乃愛の姿を探したが――
やっぱりいなかった。
乃愛は部活に来なかった。
「白石、風邪か?」
「最近見ないな」
周りは気にしていないようだったが、
僕だけは落ち着かなかった。
(乃愛……どうしてるんだろ)
スマホを開いては閉じ、
メッセージを打っては消す。
「ごめん」
「話したい」
「会いたい」
どの言葉も、
今の乃愛に届く気がしなかった。
乃愛は部活に行こうと玄関まで来ては、
足が止まってしまう。
(孝介に……会いたいよ)
でも、
昨日の言葉が胸に刺さったまま。
(また……あんなふうに言われたら……
私、耐えられない)
乃愛はそっと靴を脱ぎ、
部屋に戻った。
数日後。
僕は意を決して乃愛の家の前まで来た。
(話したい……謝りたい……)
でも、
インターホンに指を伸ばした瞬間――
「……孝介?」
背後から声がした。
振り向くと、
乃愛が買い物袋を持って立っていた。
でもその表情は、
どこかぎこちなくて、
距離を感じた。
「乃愛……」
「……部活、どうしたの?」
「いや……その……」
言葉が出ない。
乃愛は視線をそらし、
小さな声で言った。
「……ごめんね。
今は……ちょっと話せない」
胸が痛んだ。
「乃愛……」
「ごめん……」
乃愛はそのまま家に入っていった。
僕は追いかけられなかった。
その夜。
僕はベランダで空を見上げていた。
(乃愛……会いたいよ)
一方その頃、
乃愛も自分の部屋の窓から夜空を見ていた。
(孝介……会いたいよ)
同じ空を見ているのに、
心の距離は遠いままだった。




