第46話「公式戦当日」
公式戦当日の朝。
僕――早見孝介は、
ユニフォームの袖を握りしめながら深呼吸した。
(今日が本番だ……
絶対に勝ちたい)
そこへ、
マネージャーの乃愛が駆け寄ってきた。
「孝介、おはよう……!
今日、すっごく緊張してるでしょ?」
「まぁ……少しな」
乃愛は胸の前で手をぎゅっと握り、
小さく微笑んだ。
「大丈夫。
孝介なら絶対できるよ」
その言葉だけで、
胸の奥がじんわり熱くなる。
昨夜。
布団に入っても眠れず、
スマホを見つめていた。
(……乃愛、起きてるかな)
迷った末に電話をかけると――
『……孝介?』
眠そうな声。
でも、すぐに優しくなる。
『どうしたの……?』
「明日、公式戦だろ。
なんか……緊張してさ」
『そっか……』
少しの沈黙のあと、
乃愛がそっと言った。
『ねぇ孝介。
私ね……孝介が頑張ってる姿、
ずっと見てきたよ』
『だから……
明日も絶対大丈夫。
私が信じてるから』
胸が熱くなった。
「乃愛……ありがとう」
『ううん……
私のほうこそ、ありがとう。
孝介が頑張ってるの、
近くで見られるのが嬉しいの』
そして――
『明日、全力で応援するね。
孝介のこと……大好きだから』
その言葉が、
今日の僕を支えていた。
試合が始まる。
相手は強豪校。
パスも速く、当たりも強い。
「早見、右サイド上がれ!」
「受けろ!」
「ナイスラン!」
そして――
「孝介ーーー!!
いけるよーー!!」
乃愛の声が、
どんな応援よりも力になる。
(……絶対勝ちたい)
後半。
スコアは 1 - 2。
残り時間はわずか。
「早見、ラストだ!!」
味方からのスルーパスが飛んでくる。
僕は走り出した。
相手ディフェンダーが迫る。
(抜く……!)
フェイントを入れ、
一瞬の隙を突いて前へ。
ゴール前に出た瞬間――
「孝介ーーー!!
信じてるよーー!!」
乃愛の声が届く。
(決める……!)
右足を振り抜いた。
しかし――
キーパーの指先が、わずかに触れた。
ボールはポストに当たり、
外へ転がった。
「……っ!」
そのまま試合終了の笛が鳴る。
1 - 2、敗北。
ベンチに戻ると、
悔しさで胸が締めつけられた。
(あと少しだった……
決められたのに……)
そこへ、
乃愛が駆け寄ってきた。
「孝介……!」
僕は顔を上げられなかった。
「ごめん……
勝ちたかったのに……」
乃愛は首を振った。
「違うよ……
孝介、すっごく頑張ってたよ。
最後まで走ってた。
私、全部見てた」
乃愛はそっと僕の手を握った。
「負けてもね……
孝介が頑張ってる姿が、
私には一番かっこよかったよ」
胸が熱くなり、
涙がこぼれそうになる。
夕暮れの帰り道。
乃愛がぽつりと言った。
「ねぇ孝介……
今日ね、悔しかったけど……
でも、もっと応援したいって思ったの」
「乃愛……」
「だから……
これからもずっとそばにいるね。
孝介がどんな結果でも、
私は……大好きだから」
僕は乃愛の手を握り返した。
「ありがとう。
次は……絶対勝つよ。
乃愛のためにも」
乃愛は嬉しそうに微笑んだ。
「うん……
ずっと応援してるから」
負けた悔しさと、
乃愛の温かさが混ざり合い、
胸の奥がじんわり熱くなった。




