第44話「夏合宿最終日」
夏合宿3日目の朝。
僕――早見孝介は、
布団から起き上がると同時に全身の筋肉が悲鳴を上げた。
(……やばい。足が棒だ)
でも、
廊下から聞こえる声が疲れを吹き飛ばす。
「孝介、おはよう……!」
乃愛がマネージャーバッグを抱えて、
少し眠そうな目で立っていた。
「乃愛、眠れてるか?」
「うん……孝介が頑張ってるから、
私も頑張らなきゃって思って……」
(……ほんと、支えられてるな)
乃愛の笑顔を見るだけで、
体が自然と動き出す。
最終日のメニューは、
監督が「地獄の総仕上げ」と呼ぶほどのハードさだった。
「ラストだぞ!
ここで手を抜くな!!」
炎天下の中、
走って、走って、走りまくる。
「孝介、ファイト!!
あと少しだよ!!」
乃愛の声が響く。
汗で視界が滲んでも、
その声だけははっきり届いた。
(乃愛が見てる……
だから、止まれない)
午後は合宿最後の紅白戦。
「早見、今日はお前が中心だ。
チームを動かしてみろ」
監督の言葉に、
胸が熱くなる。
試合が始まると、
体は疲れているはずなのに、
不思議と軽かった。
「早見、ナイスラン!」
「パス出せ!」
「シュートいけ!!」
そして――
ドンッ!
ゴールネットが揺れた。
「孝介ーーー!!
すごいよーー!!」
乃愛の声が、
グラウンド中に響いた。
(……聞こえてるよ)
その声が、
僕の背中を押してくれる。
試合後。
監督が僕を呼び止めた。
「早見」
「はい」
「お前……
この三日間で一番伸びたぞ」
「……!」
「走力、判断力、メンタル。
全部が一段階上がった。
次の公式戦、スタメンでいく」
胸が熱くなる。
「ありがとうございます!」
監督は続けた。
「白石の存在も大きいな。
あの子、いいマネージャーだ」
(……やっぱり見てたんだ)
合宿所に戻る前。
乃愛がそっと僕の袖を引いた。
「孝介……
ちょっとだけ、歩かない?」
海沿いの道を並んで歩く。
夕日が海に沈み、
風が心地よく吹き抜ける。
「孝介……
今日のゴール、すっごくかっこよかったよ」
「乃愛の声があったからだよ」
乃愛は照れながら、
胸の前で手をぎゅっと握った。
「ねぇ……
合宿、終わっちゃうね」
「そうだな」
「なんか……
ちょっと寂しいね」
乃愛は少しだけ迷ってから、
僕の手をそっと握った。
「……孝介と一緒にいられる時間、
もっと欲しいなって思っちゃうの」
(……乃愛)
僕は乃愛の手を握り返した。
「帰っても、ずっと一緒だよ。
乃愛がそばにいてくれるなら、
俺はもっと強くなれる」
乃愛は嬉しそうに微笑んだ。
「……私もだよ。
孝介のそばにいたい」
夕暮れの海風が、
二人の距離をさらに近づけた。




