第43話「夏合宿2日目」
夏合宿2日目の朝は早い。
まだ薄暗い中、僕――早見孝介はグラウンドに立っていた。
「孝介、タオルどうぞ……!」
乃愛が眠そうな目をこすりながら、
それでも一生懸命に走ってきてくれる。
「乃愛、眠くないのか?」
「ね、眠いけど……
孝介が頑張ってるのに、私だけ寝てられないよ……」
(……可愛い)
乃愛の声があるだけで、
朝の走り込みが少し楽になる。
午前のメニューは地獄のフィジカル。
「早見、もっと腰落とせ!」
「走れ走れー!」
汗が滝のように流れる。
そんな中、乃愛は
選手一人ひとりの様子を見て動いていた。
「孝介、ちょっと足の動き硬いよ……
ストレッチしよ?」
「わかった」
乃愛は僕の足の状態を見て、
すぐに冷却スプレーを持ってきてくれた。
「孝介、無理しすぎないでね……
昨日より疲れてる顔してるよ」
(……よく見てくれてるんだな)
乃愛の存在が、
本当に心強かった。
昼食後。
部員たちは昼寝したり、ボールを蹴ったりしている。
僕は木陰で休んでいると、
乃愛がそっと隣に座った。
「孝介……
昨日の夜、眠れた?」
「まぁ……少しだけ」
「私も……
なんか、ドキドキして眠れなかった……」
乃愛は指先で砂をいじりながら、
小さな声で続けた。
「昨日の……キスのこと……
思い出すと……胸があったかくなるの」
「俺もだよ」
乃愛は顔を赤くしながら、
そっと僕の肩にもたれた。
「……こうしてると、落ち着くね」
(……ずっとこうしていたい)
午後は紅白戦。
「早見、今日はお前が中心だ!」
監督の声が飛ぶ。
(よし……やるか)
乃愛が見ていると思うと、
自然と体が軽くなる。
「孝介、ナイスパス!」
「早見、走れー!」
「決めろ!!」
そして――
ゴールネットが揺れた。
「孝介ーーー!!
すごいよーー!!」
乃愛の声が一番大きかった。
(……聞こえてるよ)
夕食後。
部員たちは大広間で騒いでいる。
僕は少し外の空気を吸おうと、
合宿所の裏に出た。
すると――
「孝介……」
乃愛が浴衣ではなく、
薄手のパーカー姿で立っていた。
「どうした?」
「……会いたくなっちゃって」
胸が跳ねた。
二人で並んで座ると、
夜風が心地よく吹き抜ける。
「今日ね……
孝介が頑張ってるの見て……
なんか、胸がぎゅってなったの」
「ぎゅって?」
「うん……
“好き”って気持ちが、
昨日よりもっと大きくなったみたいで……」
乃愛は恥ずかしそうに、
僕の袖をつまんだ。
「孝介は……どう?」
「俺もだよ。
乃愛がそばにいると、
もっと頑張りたくなる」
乃愛は嬉しそうに微笑んだ。
「……明日も、応援するね」
夜風に揺れる髪が、
月明かりに照らされて綺麗だった。




