第41話「夏祭り ― 夜空に咲く想い」
夏休みのある日。
僕――早見孝介は、
神社の参道で乃愛を待っていた。
(乃愛、浴衣って言ってたよな……
どんな感じなんだろ)
そんなことを考えていると――
「こ、孝介……!」
振り向いた瞬間、
胸が一気に熱くなった。
乃愛は
淡い水色の浴衣に白い帯、
髪はふわっとまとめて、
小さな花の髪飾りをつけていた。
夏の夕暮れに溶け込むような、
柔らかくて可愛い姿。
「……似合ってる」
「ほ、ほんと……?
変じゃない……?」
「変じゃない。
すごく綺麗だよ」
乃愛は顔を真っ赤にして、
浴衣の袖をぎゅっと握った。
屋台の明かりが並ぶ参道を歩く。
「わぁ……金魚すくいだ……!」
「孝介、あれ見て! りんご飴!」
「わたあめもあるよ!」
乃愛は浴衣の袖を揺らしながら、
子どものように目を輝かせていた。
(……可愛い)
浴衣のせいか、
いつもより歩幅が小さくて、
自然と距離が近くなる。
「乃愛、歩きにくくないか?」
「うん、大丈夫……
でも……ちょっとだけ……」
乃愛は恥ずかしそうに言った。
「手……つないでほしい……」
「もちろん」
僕は乃愛の手を握った。
浴衣越しでも伝わる温度に、
胸がじんわり熱くなる。
「孝介、金魚すくいやろうよ!」
「いいよ」
乃愛はポイを受け取ると、
真剣な顔で水面を覗き込んだ。
「よーし……狙うのは……あの子!」
そっとポイを滑らせる。
ぷつん。
「あぁぁぁぁ……!」
「惜しいな」
「もう一回!」
二回目も失敗。
三回目も失敗。
でも乃愛は笑っていた。
「全然すくえないけど……
楽しいね!」
(……乃愛の笑顔が一番楽しいよ)
「次は射的やろう!」
「いいけど、俺そんな上手くないぞ」
「孝介ならできるよ!」
乃愛に背中を押され、
銃を構える。
(……当てたいな。乃愛の前だし)
狙いを定めて――
パンッ。
景品の小さなぬいぐるみが落ちた。
「わぁっ! すごい!
孝介、かっこいい……!」
乃愛は嬉しそうに拍手した。
「これ、乃愛に」
「えっ……いいの……?」
「乃愛が喜ぶなら」
乃愛は胸にぬいぐるみを抱きしめた。
「……宝物にするね」
祭りのクライマックス――
花火が上がる時間になった。
人混みを避けて、
神社裏の少し静かな場所へ移動する。
「ここならよく見えるな」
「うん……!」
ドンッ――
夜空に大きな花が咲く。
乃愛は花火を見上げながら、
そっと僕の袖をつまんだ。
「ねぇ孝介……」
「ん?」
「今日ね……
ずっと幸せだったの」
「俺もだよ」
乃愛は浴衣の袖を揺らしながら、
少しだけ迷って――
「……孝介の隣にいられて、
すごく嬉しい」
その言葉に、胸が熱くなる。
僕は乃愛の手を握った。
「乃愛。
これからも、ずっと隣にいてくれよ」
乃愛は顔を赤くしながら、
小さく頷いた。
「……うん。
ずっと一緒にいたい」
その瞬間――
夜空に大輪の花火が咲いた。
ぱぁん、と光が広がり、
乃愛の横顔がふわっと照らされる。
乃愛は少しだけ視線を落とし、
そっと目を閉じた。
(……あ)
胸が高鳴る。
僕はゆっくりと顔を近づけ――
そっと、乃愛の唇に触れた。
ほんの一瞬。
でも、永遠みたいに長く感じた。
離れたあと、
乃愛は目を開けて、
頬を真っ赤に染めながら言った。
「……孝介……
これ……初めてだった……」
「俺もだよ」
乃愛は胸の前で手をぎゅっと握り、
小さく微笑んだ。
「……ありがとう。
すごく……嬉しかった」
夜空に咲く花火が、
二人の影を優しく包み込んだ。




