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第35話「水族館デート ― 君と見る青い世界」

日曜日の朝。

駅前の噴水広場。


僕――早見孝介は、

少し早めに着いて深呼吸していた。


(……緊張してるな、俺)


そこへ――


「こ、孝介……!」


振り向くと、

白石乃愛が小走りでやってきた。


水色のワンピース。

白いカーディガン。

髪はいつもより丁寧に巻かれていて、

ほんのり香るシャンプーの匂い。


(……可愛い)


乃愛は頬を赤くしながら言った。


「こ、これ……変じゃない……?」


「変じゃない。

 めちゃくちゃ似合ってるよ」


「っ……!

 よ、よかったぁ……!」


乃愛は胸に手を当てて、

ほっと息をついた。


電車に乗ると、

休日の朝で少し混んでいた。


自然と距離が近くなる。


乃愛は僕の袖をそっとつまんだ。


「ねぇ孝介……

 手……つないでもいい……?」


「もちろん」


僕は乃愛の手を握った。


小さくて、温かくて、

ぎゅっと握り返してくる。


乃愛は顔を赤くしながら、

小さく呟いた。


「……幸せだなぁ」


(俺もだよ)


水族館に着くと、

大きなガラスのトンネルが出迎えてくれた。


青い光が差し込み、

魚たちが頭上を泳いでいく。


「わぁ……すごい……!」


乃愛は目を輝かせて、

ガラスに顔を近づけた。


「孝介、見て!

 あの魚、ハートみたいな形してる!」


「ほんとだ」


乃愛は嬉しそうに笑う。


(……こんなに楽しそうな乃愛、初めて見たかも)


イルカショーの時間になり、

二人で並んで座る。


イルカがジャンプすると、

乃愛は思わず手を叩いた。


「すごい……!

 孝介、見た!? 今の!」


「見たよ」


「ねぇねぇ、あのイルカ、絶対賢いよね!」


「そうだな」


乃愛は子どものように目を輝かせていた。


(……可愛い)


ショーの最後、

水しぶきが飛んできて

乃愛の髪が少し濡れた。


「きゃっ……!」


「大丈夫か?」


「うん……

 でも、ちょっと冷たい……」


僕はハンカチを差し出した。


「貸すよ」


「ありがとう……」


乃愛は頬を赤くしながら、

髪を拭いた。


クラゲの展示室は、

薄暗くて静かだった。


青い光に照らされたクラゲが

ふわふわと漂っている。


乃愛は僕の腕にそっと寄りかかった。


「ねぇ孝介……

 今日ね……ずっとドキドキしてるの」


「俺もだよ」


「ほんと……?」


乃愛は僕を見上げた。


青い光が乃愛の瞳に映り、

その表情はどこか大人びて見えた。


「孝介と一緒だと……

 なんか、胸があったかくなるの」


「乃愛……」


僕は乃愛の手を握った。


乃愛は嬉しそうに微笑んだ。


帰り際。

お土産コーナーで、

乃愛が小さなキーホルダーを手に取った。


「孝介……

 これ、お揃いにしない?」


それは、

小さなイルカのキーホルダー。


「いいよ」


「やった……!」


乃愛は嬉しそうに笑った。


「これ見るたびに……

 今日のこと思い出せるね」


「そうだな」


二人でレジに向かう。


(……こういうの、悪くないな)


夕暮れの駅前。


乃愛は僕の手を握りながら、

少しだけ迷ってから言った。


「ねぇ孝介……

 今日ね……

 すごく楽しかった」


「俺もだよ」


乃愛は胸に手を当てて、

ゆっくりと息を吸った。


「だから……

 またデート、したいな……

 孝介と……」


「もちろん。

 何度でも行こう」


乃愛は嬉しそうに微笑んだ。


「……孝介、大好き」


その言葉は、

今日見たどの景色よりも綺麗だった。

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