第34話「水族館デート前日」
翌日の水族館デートを控えた朝。
教室に入ると、
僕――早見孝介はすぐに気づいた。
(……乃愛、いつもより落ち着きがないな)
乃愛は席に座っているけど、
ノートを開いたままページをめくっていない。
視線はどこか宙を泳ぎ、
頬はほんのり赤い。
「乃愛、おはよう」
「ひゃっ……!
あっ、お、おはよう孝介……!」
(反応が可愛すぎる)
乃愛は胸の前で手をぎゅっと握り、
小さく深呼吸した。
「えっと……
明日、楽しみだね……」
「俺も楽しみだよ」
乃愛は嬉しそうに微笑んだ。
昼休み。
乃愛はお弁当を食べながら、
そわそわと僕を見てくる。
「孝介……
あのね……ちょっと相談があるの」
「どうした?」
乃愛は顔を赤くしながら言った。
「デートの服……
どれがいいかなって……」
(……可愛い)
「どんなのがあるんだ?」
「えっとね……
白いワンピースと……
水色のブラウスと……
あと、ちょっと大人っぽいワンピースも……」
「全部似合いそうだけどな」
「そ、そんな……!
孝介の前で変な格好したくないもん……!」
乃愛は頬を赤くしながら、
お弁当の箸をぎゅっと握った。
「孝介に“可愛い”って思ってほしいから……
ちゃんと選びたいの……」
(……言葉が甘すぎる)
「じゃあ、乃愛が一番好きな服で来てよ。
俺は何でも嬉しいから」
乃愛は胸に手を当てて微笑んだ。
「……うん。
じゃあ、頑張って選ぶね」
放課後。
部活が終わって帰宅した僕は、
自分の部屋で鏡を見ながら考えていた。
(……デートって、何着ていけばいいんだ?)
普段は制服かジャージ。
私服なんてほとんど気にしたことがない。
(適当な服じゃダメだよな……
乃愛、すごく楽しみにしてるし)
クローゼットを開けて、
シャツを何枚か取り出す。
白シャツ、黒シャツ、ネイビーのパーカー。
(……どれがいいんだ?)
悩んだ末、
スマホを手に取ってメッセージを送った。
孝介:
乃愛、明日ってさ……
服、どんな感じがいい?
すぐに返信が来た。
乃愛:
えっ!?
孝介、服選んでるの……?
なんか……嬉しい……!
(……可愛い)
乃愛:
孝介は、シンプルな服が似合うと思うよ。
白とか黒とか……
そのままでもかっこいいけど……
(そのままでも、か)
胸が熱くなる。
その頃、乃愛の部屋。
ベッドの上には
ワンピースやブラウスが並んでいた。
「うぅ……どれがいいの……?」
鏡の前で服を当てながら、
乃愛は真剣な表情で悩んでいた。
(孝介に“可愛い”って思ってほしい……
でも、気合い入れすぎても変だし……)
スマホが震える。
孝介:
乃愛は、どんな服でも似合うよ。
だから、好きなの着てきて。
乃愛は顔を真っ赤にしてベッドに倒れ込んだ。
「も、もう……
孝介ってば……
そんなこと言われたら……
余計悩むよぉ……!」
でも、
その悩みは幸せそのものだった。
夜。
布団に入っても、
眠気はまったく来ない。
僕は天井を見つめながら思う。
(明日、乃愛とデートか……
手、つなぐって言ってたよな)
胸が高鳴る。
一方その頃、
乃愛も同じように眠れずにいた。
(孝介と水族館……
手、つなぐんだよね……
どうしよう……ドキドキする……)
二人は同じ夜空の下で、
同じように胸を高鳴らせていた。
翌朝。
太陽が昇ると同時に、
二人は目を覚ました。
(よし……行くか)
(今日、絶対楽しむ……!)
水族館デートが、
いよいよ始まる。




