第33話「乃愛、初めての“デートに誘う”」
翌朝の教室。
僕――早見孝介が席に着くと、
乃愛がそわそわしながら近づいてきた。
「お、おはよう……孝介」
「おはよう。どうした? なんか緊張してないか?」
「えっ!? そ、そんなこと……ないよ……!」
(いや、絶対あるだろ)
乃愛は胸の前で手をぎゅっと握り、
何か言いたそうにしている。
(……昨日の真凛の言葉が、響いてるんだろうな)
乃愛は“自信を持ちたい”と言っていた。
その決意が、今日の彼女を動かしているのかもしれない。
昼休み。
僕が弁当を食べていると、
乃愛が深呼吸しながら席に来た。
「孝介……あのね……」
「ん?」
乃愛は顔を真っ赤にしながら、
机の端をぎゅっと掴んだ。
「わ、私……
孝介と……
“デート”したい……!」
「……っ!」
思わず箸を落としそうになる。
乃愛は必死に続けた。
「こ、今まで……孝介に誘ってもらってばっかりだったから……
今度は……私から誘いたくて……!」
(……乃愛)
「だ、だめ……かな……?」
僕は即答した。
「だめなわけないだろ。
むしろ……めちゃくちゃ嬉しいよ」
乃愛の目がぱぁっと輝いた。
「ほ、ほんと……?」
「ほんとだよ」
乃愛は胸に手を当て、
ほっと息をついた。
「よかった……
断られたらどうしようって……
ずっとドキドキしてたの……」
(そんな心配する必要ないのに)
「で、どこ行くんだ?」
「えっとね……
映画とか……水族館とか……
公園でお弁当とか……
いろいろ考えたんだけど……」
乃愛は少し照れながら言った。
「孝介と一緒なら……
どこでもいいの」
(……反則だろ、それ)
「じゃあ、乃愛が行きたいところにしよう」
「うん……!
じゃあ……水族館、行きたい……!」
「いいな。行こう」
乃愛は嬉しそうに笑った。
その笑顔は、
昨日よりもずっと自信に満ちていた。
放課後。
部活へ向かう途中、
真凛がにやっと笑いながら近づいてきた。
「早見くん。
白石さん、今日すごく頑張ってたね」
「……聞いてたのか?」
「そりゃあね。
白石さん、今日ずっと“決意の顔”してたもん」
真凛は軽く肩をすくめた。
「で? デート決まった?」
「……ああ」
「ふふっ、よかった。
二人とも、ちゃんと前に進んでるね」
真凛は満足そうに笑った。
(……この子、本当に鋭いな)
練習が終わり、
夕暮れのグラウンドで片付けをしていると、
乃愛がそっと近づいてきた。
「孝介……」
「どうした?」
乃愛は少しだけ迷ってから、
僕の袖をつまんだ。
「デートの日なんだけど……
その……
手……つないで歩きたい……」
「……っ!」
心臓が跳ねた。
「もちろんだよ」
乃愛は顔を真っ赤にしながら、
小さく笑った。
「……楽しみだなぁ」
「俺もだよ」
夕焼けの中、
二人の影が寄り添うように伸びていく。
乃愛の“勇気の一歩”は、
確かに前へ進んでいた。




