第26話「乃愛、マネージャー体験へ 」
テストが終わって数日。
部活体験期間の真っ最中。
昼休み、僕――早見孝介が弁当を食べていると、
乃愛がそっと隣に座ってきた。
「孝介……今日ね、私……
サッカー部のマネージャー体験、行ってみようと思うの」
「ほんとに?」
乃愛は少しだけ不安そうに、
でもしっかりと頷いた。
「うん。
昨日、孝介が楽しそうにサッカーしてるの見て……
“そばで支えたい”って思ったのは本当だから」
「乃愛……」
「でもね、
“孝介のためだけ”じゃなくて、
“私自身がやってみたいかどうか”って考えたの」
乃愛は胸に手を当てた。
「……やってみたい。
だから、行ってみるね」
その言葉に、胸が熱くなった。
放課後。
グラウンドにはサッカー部の声が響いていた。
「お、早見! 今日も来たか!」
「マネージャー希望の子も来てるぞ!」
乃愛は緊張した様子で、
マネージャーの先輩に挨拶していた。
「し、白石乃愛です……!
よろしくお願いします……!」
先輩は優しく微笑んだ。
「白石さん、よろしくね。
今日は簡単な仕事からやってみようか」
乃愛は深呼吸して頷いた。
乃愛は先輩に教わりながら、
いろんな仕事をこなしていく。
・ボールの空気圧チェック
・水分補給の準備
・ビブスの整理
・練習メニューのメモ
「わぁ……思ってたより大変……」
でも乃愛は弱音を吐かず、
一つ一つ丁寧にこなしていた。
僕は練習の合間に、
その姿をちらっと見る。
(……頑張ってるな)
乃愛は僕に気づくと、
小さく手を振って微笑んだ。
その笑顔に、
疲れなんて吹き飛ぶ。
練習が終わり、
夕暮れのグラウンドに風が吹く。
乃愛はビブスを畳みながら、
僕の方へ歩いてきた。
「孝介、お疲れさま……!」
「乃愛もな。
どうだった? マネージャー」
乃愛は少しだけ考えてから言った。
「大変だったけど……
すごく楽しかった」
「そっか」
「孝介が頑張ってる姿を近くで見られるのも……
嬉しかったし……」
乃愛は照れながら、
僕の袖をつまんだ。
「……ねぇ孝介。
もし孝介がサッカー部に入るなら……
私、マネージャーになりたい」
「乃愛……」
「でもね、
孝介が入らなくても……
今日みたいに“誰かを支える”って、
すごく素敵だなって思ったの」
乃愛は胸に手を当てて微笑んだ。
「だから……
もう少しだけ考えてみるね」
「うん。
乃愛が決めたことなら、俺は応援するよ」
乃愛は嬉しそうに頷いた。
帰り道。
夕焼けの中を歩きながら、
乃愛がぽつりと言った。
「ねぇ孝介……
私ね、気づいたの」
「何に?」
「孝介のそばにいたいって気持ちは……
“恋人だから”とか“好きだから”だけじゃなくて……
“孝介が頑張ってる姿を見るのが好き”なんだって」
僕は思わず立ち止まった。
「乃愛……」
「だから……
マネージャーになったら、
もっと孝介のこと応援できるかなって思ったの」
乃愛は照れながら、
僕の手をそっと握った。
「……孝介のこと、
もっと近くで見ていたいの」
その言葉は、
風よりも夕日よりも温かかった。




