第23話「テストと日常」
体育祭が終わって数日。
あの熱気と歓声が嘘みたいに、
教室は静かだった。
黒板には大きく書かれている。
『中間テストまであと10日』
僕――早見孝介は、
その文字を見て思わずため息をついた。
(……体育祭の余韻に浸ってる場合じゃないな)
そこへ、
後ろからそっと袖をつまむ感触。
「孝介……おはよう」
白石乃愛が、
少し眠そうな顔で微笑んだ。
「乃愛、眠そうだな」
「うん……体育祭の写真整理してたら、
夜更かししちゃって……」
「おいおい、テスト前だぞ」
「わかってるよぉ……」
乃愛は頬を膨らませた。
ホームルームが始まると、
担任がプリントを配りながら言った。
「はい、みんな。
体育祭は終わったけど、
次は中間テストだぞー。
気持ち切り替えろよー」
クラス中からため息が漏れる。
「特に!
体育祭で浮かれてたやつ!
赤点取ったら補習だからな!」
男子たちがざわつく。
「やべぇ……」
「体育祭の準備で全然勉強してねぇ……」
「早見、どうする?」
「どうするって……やるしかないだろ」
僕は苦笑した。
放課後。
乃愛が僕の机に来て、小さく言った。
「ねぇ孝介……
一緒に勉強しない?」
「いいよ。図書室行くか」
「うん!」
乃愛は嬉しそうに微笑んだ。
図書室は静かで、
窓から入る夕日が机を照らしていた。
乃愛はノートを開きながら言った。
「ねぇ孝介……
体育祭のときの孝介、
ほんとにかっこよかったよ」
「急に何だよ」
「だって……思い出すと、
胸がドキドキするんだもん……」
乃愛は顔を赤くしながら、
シャーペンをくるくる回した。
「でも……テストはドキドキじゃなくて、
胃が痛くなる……」
「それはわかる」
二人で笑った。
しばらく勉強していると、
乃愛が僕のノートを覗き込んできた。
「孝介、ここ間違えてるよ」
「どこ?」
乃愛は僕の肩にそっと寄りかかり、
指で問題を指した。
距離が近い。
近すぎる。
(……集中できるわけないだろ)
乃愛は気づかず、
真剣な顔で説明してくれる。
「ここはね、こうやって……」
「……乃愛」
「ん?」
「近い」
「えっ……あっ……!」
乃愛は慌てて離れ、
顔を真っ赤にした。
「ご、ごめん……!
つい……」
「いや、別に嫌じゃないけど」
「っ……!」
乃愛は耳まで真っ赤になった。
図書室を出ると、
外はすっかり夕暮れだった。
「ねぇ孝介……
テスト、がんばろうね」
「ああ。
乃愛の両親にも、
“ちゃんとしてる”ってところ見せたいしな」
乃愛は嬉しそうに微笑んだ。
「……ありがとう。
孝介がそう言ってくれると、
すごく心強い」
「俺も乃愛がいると頑張れるよ」
乃愛は照れながら、
僕の左手をそっと握った。
「じゃあ……
二人で赤点回避しよ?」
「おい、誰が赤点取るって?」
「ふふっ、冗談だよ」
夕焼けの中、
二人の影が並んで伸びていく。
体育祭の熱気は消えても、
二人の距離は確実に近づいていた。




