第22話「体育祭の帰り道」
夕方。
体育祭の閉会式が終わり、
校庭には片付けの音と、
余韻に浸る生徒たちの笑い声が残っていた。
僕――早見孝介は、
汗を拭きながら深呼吸した。
(終わった……
リレー、勝ててよかったな)
そこへ――
「孝介!」
白石乃愛が駆け寄ってきた。
水色のリボンは少し乱れていて、
それがまた可愛かった。
「お疲れさま……!
本当に、本当にかっこよかったよ……!」
「乃愛の声、ちゃんと聞こえてたよ」
「えっ……!」
乃愛は顔を真っ赤にした。
片付けを終え、
僕たちは並んで校門を出た。
夕焼けが街をオレンジ色に染めている。
「ねぇ孝介……
今日、すごく楽しかったね」
「俺も。
乃愛が応援してくれたから、頑張れた」
乃愛は照れながら、
僕の左手をそっと握った。
「……ねぇ、手……つないでもいい?」
「もうつないでるだろ」
「……あっ、そっか……」
乃愛は恥ずかしそうに笑った。
回想
――リレーの最中。
観客席の端で、
白石乃愛の両親が立っていた。
母は驚いたように口元を押さえ、
父は腕を組んだまま、
真剣な目でトラックを見つめていた。
「……あの子が、早見くん?」
「そうだ」
孝介がバトンを受け取り、
一気に加速する。
「すごい……
あんなに速いのね……」
母が呟く。
父は目を細めた。
「……必死だな。
誰かのために走っている顔だ」
母は気づいた。
「乃愛ちゃんのため……ね」
父は何も言わなかったが、
その表情はどこか揺れていた。
孝介がゴールテープを切った瞬間、
母は小さく息を呑んだ。
「……あの子、
本当に乃愛ちゃんを大切にしてるのね」
父は視線をそらし、
短く答えた。
「……まだ認めたわけじゃない」
でもその声は、
昨日よりも少しだけ柔らかかった。
帰り道に戻る
乃愛は僕の腕にそっと寄りかかった。
「ねぇ孝介……
今日のリレー、ほんとにすごかったよ」
「乃愛が応援してくれたからな」
「……そんなの、ずるいよ。
そんなこと言われたら……
もっと好きになっちゃう……」
僕は思わず立ち止まった。
「乃愛。
俺も……もっと好きになってるよ」
乃愛は顔を真っ赤にして、
僕の胸に額を寄せた。
「……孝介……
ずっと一緒にいたいよ」
「俺もだよ」
夕焼けの中、
二人の影が寄り添うように伸びていく。
家の近くまで来たとき、
乃愛が立ち止まった。
「孝介……
私ね……
お父さんとお母さんに、ちゃんと言うよ」
「え?」
「今日の孝介、見てほしかった。
すごく頑張ってて……
誰よりもかっこよくて……
私のこと、大切にしてくれて……」
乃愛は胸に手を当てた。
「だから……
私の気持ち、ちゃんと伝える」
「乃愛……」
「怖いけど……
孝介と一緒にいたいから」
その言葉に、
胸が熱くなった。
「俺も頑張るよ。
乃愛の両親に認めてもらえるように」
乃愛は嬉しそうに微笑んだ。
「……ありがとう。
孝介、大好き」




