第19話「体育祭本番-前半戦-」
体育祭当日。
朝の校庭は、いつもよりずっと賑やかだった。
テントが並び、
クラスごとの旗が風に揺れ、
保護者たちがカメラを構えている。
僕――早見孝介は、
ほぼ治った右腕を軽く回しながら深呼吸した。
(よし……今日は走るぞ)
そこへ――
「孝介!」
白石乃愛が駆け寄ってきた。
髪には昨日買ったらしい、
淡い水色のリボンがついている。
「……似合ってるな」
「えっ……!
あ、ありがとう……!」
乃愛は嬉しそうに頬を赤くした。
開会式が始まり、
全校生徒が整列する。
校長の長い挨拶が続く中、
乃愛が小声で囁いた。
「孝介、緊張してる?」
「まぁ、少しな」
「大丈夫だよ。
私、ずっと見てるから」
その言葉だけで、
胸が熱くなる。
午前の競技が次々と進み、
いよいよ――
「次の競技、借り物競争の選手は集合してください」
乃愛が立ち上がる。
「孝介……行ってくるね」
「頑張れよ」
乃愛は小さく頷き、
走って集合場所へ向かった。
アナウンスが響く。
「位置について――よーい……スタート!」
乃愛が勢いよく走り出す。
風に揺れる水色のリボン。
真剣な横顔。
その姿に、思わず見惚れてしまう。
乃愛はお題の紙が入った箱の前で立ち止まり、
一枚を引いた。
そして――
紙を見た瞬間、
乃愛の顔が真っ赤になった。
(……何だ?)
乃愛は紙を胸に抱え、
観客席の方を見回す。
そして――
僕と目が合った。
乃愛は一瞬ためらい、
でもすぐに走り出した。
僕の方へ。
乃愛は息を切らしながら僕の前で止まった。
「こ、孝介……!」
「どうした?」
乃愛は震える手で紙を見せてきた。
そこには――
『将来〇〇の妻または夫になりたい人』
僕は思わず固まった。
(……マジか)
乃愛は顔を真っ赤にしながら言った。
「こ、これ……
孝介じゃなきゃ……だめ、だから……!」
その言葉に、
胸が一気に熱くなる。
「行こう、乃愛」
僕は左手を差し出した。
乃愛はその手をぎゅっと握り、
二人で走り出した。
観客席からはどよめきが起きる。
「え、あれって……!」
「白石さんと早見くんじゃん!」
「お題、絶対アレだろ!」
「青春すぎる……!」
乃愛は恥ずかしそうにしながらも、
僕の手を離さなかった。
二人でゴールテープを切ると、
クラスメイトたちが盛り上がった。
「白石さん、やるじゃん!」
「早見、選ばれてんぞ!」
「お前らもう結婚しろよ!」
乃愛は顔を真っ赤にして、
僕の袖をつまんだ。
「孝介……
恥ずかしかったけど……
嬉しかった……」
「俺もだよ」
乃愛は小さく微笑んだ。
その笑顔は、
体育祭の太陽より眩しかった。




